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映画公開応援・特別連載 第4回 自宅にいるのに「家に帰りたい」と話す理由―「家」は、安心できる記憶かもしれない

特別回④(映画公開HP案内)

自宅の居間で過ごしていた家族が、突然こう言う。

「そろそろ家に帰らないと...」
 

家族は驚きます。
 

「何を言っているの。ここが家でしょう」
 

しかし、本人は納得しません。
 

「ここは私の家じゃない」
 

玄関へ向かい、靴を履こうとしたり、荷物をまとめようとしたりすることもあります。
 

家族から見れば、確かにそこは本人が長く暮らしてきた自宅です。

それなのに、なぜ「家に帰りたい」と話すのでしょうか。
 

その言葉は、住所や建物のことだけを指しているとは限りません。
 

本人が帰りたい「家」は、安心できた時間、大切な人がいた場所、自分の役割があった暮らしなのかもしれません。

今回は、「家に帰りたい」という言葉の奥にある世界を、本人の側から考えてみたいと思います。
 

「家に帰りたい」は、住所を確かめる質問ではありません

私たちは「家」という言葉を聞くと、現在暮らしている建物や住所を思い浮かべます。
 

しかし、認知症のある方が話す「家」は、必ずしも今の自宅とは限りません。
 

子どもの頃に家族と暮らした家。

結婚して間もない頃の家。

子育てをしていた頃の家。

亡くなった両親や配偶者が待っていると思っている家。
 

本人の中では、現在の家よりも、昔の家や、その時代の記憶が強く感じられている場合があります。

そのため、「ここがあなたの家ですよ」と住所を説明しても、本人にとっては事実と感じられないことがあるのです。
 

本人の時間が、過去へ移っていることがあります

認知症では、最近の出来事を覚えておくことが難しくなる一方、昔の記憶が比較的残っている場合があります。
 

目の前の自宅や家族が分からなくても、若い頃の暮らしや、子育てをしていた頃の感覚が、本人の中では「今」として感じられていることがあります。
 

たとえば、本人の意識が子育て中の時代に戻っていれば、「子どもが学校から帰ってくるから、家に戻らなくては」と思うかもしれません。

働いていた頃の時間を生きていれば、「仕事が終わったから、自分の家へ帰ろう」と考えることもあります。
 

周囲には過去の話でも、本人にとっては、今まさに果たさなければならない役割なのです。
 

「家」は、安心できる場所の象徴かもしれません

「家に帰りたい」という言葉は、「今いる場所が不安です」という気持ちの表れである場合もあります。
 

周囲の人が誰なのか分からない。

部屋の様子が、いつもと違って見える。

これから何が起こるのか分からない。

自分の居場所や役割を感じられない。
 

そのような不安の中で、本人が求めているのが「家」という言葉で表される安心感なのかもしれません。
 

つまり、「帰りたい」という言葉の奥には、
 

「安心したい」

「大切な人に会いたい」

「自分の居場所へ戻りたい」

「以前のように役割を果たしたい」
 

という願いが隠れていることがあります。
 

夕方になると「帰りたい」が強くなることもあります

夕方になると落ち着かなくなり、「家に帰る」と繰り返す方もいます。

一日の疲れがたまることに加え、外が暗くなる、室内に影が増える、家族が夕食の支度で忙しくなるなど、周囲の環境が変化する時間でもあります。
 

また、長年続けてきた「夕方になったら仕事や買い物から家へ帰る」という生活の記憶が呼び起こされる場合もあります。
 

このように夕方から夜にかけて不安や混乱が強くなる状態は、一般に「夕暮れ症候群」「サンダウニング」などと呼ばれることがあります。

ただし、現れ方や原因には大きな個人差があります。「認知症だから仕方がない」と決めつけず、その日の疲れや体調、部屋の明るさ、騒音なども確認することが大切です。
 

「ここが家でしょう」と説得しても届かない理由

家族としては、正しい事実を伝えれば分かってもらえると思います。
 

しかし、本人の中では、目の前の場所が「自分の家ではない」と感じられています。
 

そこで、
 

「ここが家でしょう」

「何年もここに住んでいるでしょう」

「また同じことを言っている」
 

と強く訂正されると、自分の感じている世界を否定されたように思い、不安や怒りが強くなることがあります。
 

正しさを伝えることが間違いなのではありません。

ただ、その場で必要なのは、住所の正解よりも、「ここにいて大丈夫」と感じられる安心である場合があります。
 

今日から試せる6つの関わり方

すべての方に同じ方法が合うわけではありません。本人の性格や生活歴、その日の体調を見ながら、一つずつ試してみてください。

1.まず「帰りたい気持ち」を受け止める

「帰りたいんですね」

「家のことが気になっているんですね」
 

と、本人の言葉をいったん受け止めます。

すぐに訂正や説得を始めず、「そう感じているのですね」という姿勢を示すだけでも、本人の緊張が和らぐことがあります。
 

2.どのような家へ帰りたいのか、穏やかに尋ねる

「どんなお家ですか」

「家では、誰が待っていますか」

「帰ったら、何をしたいですか」
 

と尋ねると、本人が求めているものが見えてくることがあります。
 

ただし、質問を重ねすぎると負担になることもあります。本人が話し始めたら、答えを正すのではなく、ゆっくり聴くことを大切にします。
 

3.事実よりも、安心を伝える

「大丈夫ですよ。私も一緒にいます」

「今日はここで休んでいきましょう」

「お茶を飲んでから、一緒に考えましょう」
 

など、今すぐ一人で出かけなくても大丈夫だと感じられる言葉を伝えます。

穏やかな声や表情、本人と同じ目線で話すことも大切です。
 

4.懐かしい物や習慣につなげる

昔の写真、なじみのある音楽、使い慣れた家具、好きだった飲み物などが、安心を取り戻す手がかりになる場合があります。
 

「この写真のお家のことを教えてください」

「いつものお茶を一緒に飲みませんか」
 

と、本人が心地よく感じられる記憶や習慣へつなげます。
 

5.安全を確かめながら、一緒に動く

本人が外へ出ようとしているとき、強く引き止めることで不安が高まる場合があります。
 

安全に歩ける状態であれば、一緒に家の周囲を短く歩き、落ち着いたところで戻る方法が合うこともあります。
 

ただし、転倒や行方不明の危険がある場合は、無理をしないことが大切です。
家族だけで抱えず、ケアマネジャー、地域包括支援センター、医療機関などへ相談し、見守りや安全対策を考えます。
 

6.不快や体調不良がないか確認する

「帰りたい」という落ち着かなさの背景に、痛み、空腹、のどの渇き、トイレ、便秘、眠気、暑さや寒さなどが隠れていることもあります。

急に様子が変わったときや、いつもより混乱が強いときは、感染症や薬の影響なども考えられます。普段と違う状態が続く場合は、医療・介護の専門職へ相談してください。
 

介護する家族が、うまく対応できない日もあります

「ここが家だと、どうして分かってくれないのだろう」
 

同じやり取りが続くと、介護する家族も疲れます。
 

時間に追われているときや、何度も外へ出ようとされたときに、いつも穏やかに対応することは簡単ではありません。

強い口調になってしまったとしても、それだけで家族として失格なのではありません。
 

いったん別の部屋へ移る。ほかの家族や支援者に代わってもらう。デイサービスやショートステイを利用する。

介護する人が休み、心の余裕を取り戻すことも、本人の安心を支えるために必要なことです。
 

映画の主人公・豊さんも「うちに帰りたい」と話します

2027年2月5日(金)公開予定の映画『認知症世界の歩き方』。
 

主人公の豊さんは、施設で明るく暮らしながら、「うちに帰りたい」と繰り返します。

豊さんの記憶は、しばしば20数年前へと移ります。
目の前の息子を息子だと認識できなくても、豊さんの中には、今も大切に残っている家族の時間があります。
 

「なぜ帰りたいと言うのか」を周囲から説明するだけでなく、本人には何が見え、どのような時間を生きているのかを映像で体験できることが、この映画の大きな魅力です。

一見すると理解しにくい言葉や行動にも、本人にとっての理由があります。
 

「家に帰りたい」という言葉を止める前に、「この人にとって、帰りたい家とはどのような場所なのだろう」と考えてみる。

その小さな問いが、本人の世界へ近づく入口になるのだと思います。
 

おわりに

本人が帰りたいのは、建物としての家ではなく、
 

安心できた時間。

大切な人が待っていた場所。

自分に役割があった暮らし。
 

そのような「心の帰る場所」なのかもしれません。
 

「ここが家でしょう」と正しさを伝える前に、
 

「どんな家に帰りたいの?」

「誰が待っているの?」
 

と、本人の世界を一緒に歩いてみる。
 

見え方が変われば、関わり方も変わります。
 

そして、「家に帰りたい」という言葉が、本人を理解するための大切な手がかりに変わっていきます。

次回は、「家族の顔が分からなくなる『顔無し族の村』」をテーマにお届けします。
 

「認知症世界の歩き方」実践ワークショップのご案内

「認知症について知識として学ぶだけでなく、本人が見ている世界を体験してみたい」
 

そのような方に向けた、対話と体験を中心とする実践型ワークショップです。
 

認知症のある方が日常で感じている戸惑いや不安を、“旅人”の視点で体験し、不可解に見える行動の背景を参加者同士で考えます。

認知症に関する専門知識がない方もご参加いただけます。
 

「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)として、私・山岸博幸がご案内します。
 

①2026年10月25日(日)14:00~16:00

開催内容・会場・参加費・お申し込み
https://peatix.com/event/5159960

②2026年11月23日(月)14:00~16:00

開催内容・会場・参加費・お申し込み
https://peatix.com/event/5226254

「認知症世界の歩き方」公式サイトのご案内

イシューデザインが運営する「認知症世界の歩き方」公式サイトでは、認知症の基礎知識、認知症のある方が生きる世界を表現した14のストーリー、書籍、ワークショップ、公認ファシリテーターなどの情報が紹介されています。
 

認知症を「周囲から見える症状」だけでなく、「本人が見ている世界」から理解するための入口となるサイトです。
 

「認知症世界の歩き方」公式サイト
https://issueplusdesign.jp/dementia_world/
 

映画『認知症世界の歩き方』のご案内

映画『認知症世界の歩き方』は、2027年2月5日(金)、全国150館規模で公開予定です。
 

原作は、認知症のある方100人を超えるインタビューをもとに、「ご本人が見ている世界」を旅のガイドブックという形で描いた『認知症世界の歩き方』です。
 

主演はルー大柴さん。認知症のある主人公・豊さんと、長く音信不通だった息子との物語を通して、認知症のある方が見ている世界を、驚きと温かさのある映像で描きます。

予告編、ストーリー、出演者、上映劇場、前売券の情報はこちらからご覧いただけます。
 

映画『認知症世界の歩き方』公式サイト
https://issueplusdesign.jp/dementia_world/movie/
 

※認知症の症状や感じ方、役立つ関わり方には個人差があります。本記事は一般的な情報であり、診断や個別の医療・介護上の判断に代わるものではありません。
 

参考情報

Alzheimer's Society「I want to go home」
https://www.alzheimers.org.uk/blog/i-want-go-home-what-to-say-to-someone-in-dementia-care


Dementia UK「Restlessness and agitation in dementia」
https://www.dementiauk.org/information-and-support/health-advice/dealing-with-restlessness/


NHS「Coping with dementia behaviour changes」
https://www.nhs.uk/conditions/dementia/living-with-dementia/behaviour/


戸田病院認知症疾患医療センター「家に帰りたいというのは、なぜ?」
https://ninchi-center.jp/topics/2026/06/15/15731

2026年10月19日 09:38

第11回 本人の「声を聞く」って、どういうことだろう?

第11回

気持ち・希望・選びたい思いに耳を傾ける

「今日は、どの服を着る?」

「何を食べたい?」

「どこへ行きたい?」

「今日はどうしたい?」
 

私たちは毎日の暮らしの中で、たくさんのことを自分で選んでいます。
 

ところが、認知症になると、
 

「本人には分からないだろう」

「聞いても決められないだろう」

「こちらで決めた方が早い」
 

と、周囲が代わりに決める場面が少しずつ増えていくことがあります。
 

もちろん、安全や健康を守るために、家族や支援者が判断しなければならないこともあります。

でも――。
 

認知症になったからといって、「自分はこうしたい」という気持ちまでなくなるのでしょうか。
 

今回は、本人の「声を聞く」って、どういうことだろう?

というテーマから、「認知症世界」を一緒に考えてみたいと思います。
 


「本人のために」が、本人の声を小さくしてしまうことがある

家族は、その人のことを思っています。
 

「危ないから、やめておこう」

「疲れるから、今日は家にいよう」

「その服より、こっちの方がいいよ」

「もう買い物は大変だから、私が行ってくるね」
 

どれも、悪意から出た言葉ではありません。
 

むしろ、本人を心配するからこその言葉でしょう。
 

でも、それが少しずつ積み重なると、本人が何かを選ぶ機会そのものが減っていくことがあります。
 

気がつけば、
 

食べるもの。

着るもの。

出かける場所。

一日の過ごし方。
 

すべて周囲が決めている。
 

そんなことも起こり得ます。

ここで一度、「これは本当に本人が望んでいることだろうか?」と考えてみたいのです。
 


「認知症だから、本人に聞いても仕方がない」は本当でしょうか?

認知症のある方が、自分の気持ちをいつでも分かりやすい言葉で説明できるとは限りません。
 

第8回では、「言いたいのに、うまく言葉にならない世界」について考えました。
 

言葉が出にくい。

質問の意味を理解するのに時間がかかる。

いくつもの選択肢を一度に示されると迷ってしまう。
 

だからといって、「本人には意思がない」ということではありません。
 

言葉にすることが難しくても、
 

好きなものを見たときの笑顔。

嫌なことをされたときの表情。

何度も見つめているもの。

行きたがる場所。

大切にしている習慣。
 

そこにも、その人の「声」は表れているかもしれません。
 


「どれがいい?」より、「赤と青ならどちらがいい?」

例えば服を選ぶとき。

クローゼットいっぱいの服を見せて、「どれがいい?」と聞かれたら、選ぶことが難しいかもしれません。
 

でも、赤い服と青い服を見せて、「今日はどちらを着たい?」と聞けば、選べるかもしれません。
 

食事でも同じです。
 

「何が食べたい?」という大きな質問ではなく、「お魚とお肉なら、どちらがいい?」と尋ねる。
 

あるいは実際に見せる。

写真を使う。

少し時間を待つ。
 

質問の仕方を変えるだけで、本人が自分の気持ちを伝えやすくなることがあります。

大切なのは、「決められない人」と判断する前に、「決めやすい方法」を探してみることではないでしょうか。
 


答えを急がせない

私たちは会話の中で、相手からすぐに答えが返ってくることを期待しています。
 

「どっちにする?」

……。
 

「分からない?」

……。
 

「じゃあ、こっちにしておくね」こうなることもあるでしょう。
 

でも本人は、その間に、
 

質問を理解して、

選択肢を考えて、

自分の気持ちを確認して、
 

それを言葉にしようとしていたのかもしれません。
 

あと10秒。

あと20秒。
 

少し待てば、

本人から答えが返ってきたかもしれない。
 

「待つこと」も、本人の声を聞くための大切な支援なのだと思います。
 


「これが好き」「ここへ行きたい」も、大切な意思

本人の声というと、難しい人生の選択を想像するかもしれません。
 

でも、本人らしい暮らしは、もっと小さな選択の積み重ねでできています。
 

「この服が好き」

「コーヒーが飲みたい」

「散歩に行きたい」

「あの人に会いたい」

「今日は少し休みたい」

「自分でやってみたい」

「ここには行きたくない」
 

こうした一つひとつも、その人の大切な意思です。

周囲から見れば小さなことでも、本人にとっては、「自分の人生を自分で生きている」という感覚につながっているのではないでしょうか。
 


本人の「嫌だ」という声も聞く

「本人の声を聞く」というと、希望をかなえてあげることだけに目が向きがちです。
 

でも、「嫌だ」という声も、とても大切です。
 

「お風呂に入りたくない」

「今日は出かけたくない」

「それは食べたくない」

「その人には会いたくない」
 

もちろん、そのままにしておくことが難しい場合もあります。
 

例えば入浴や服薬など、健康や衛生、安全に関わることもあります。
 

それでも、「認知症だから言っていることは無視してよい」ではなく、「なぜ嫌なのだろう?」と一度考えてみる。
 

寒いのかもしれない。

怖いのかもしれない。

疲れているのかもしれない。

以前、嫌な経験をしたのかもしれない。
 

理由が分かれば、別の方法が見つかることもあります。
 


「本人の声を聞く」=何でも本人の言う通りにする、ではない

ここも、とても大切です。

本人の意思を尊重することと、本人の希望をすべてそのまま実現することは、同じではありません。
 

危険がある。

健康上の問題がある。

家族だけでは対応できない。

経済的に難しい。
 

そうした現実もあります。
 

だから必要なのは、「本人の希望」か「家族の判断」か、どちらか一方を選ぶことではなく、本人の希望を出発点として、一緒にできる方法を探すことなのだと思います。


例えば、「一人で買い物に行きたい」という希望がある。
 

一人では心配だから禁止する。
 

それだけではなく、
 

一緒に店の近くまで行く。

いつもの店を利用する。

混雑していない時間を選ぶ。

見守りながら本人に買い物をしてもらう。
 

そんな中間の方法があるかもしれません。
 


家族にも「声」がある

本人の意思を大切にすることをお伝えしてきました。

でも同時に、家族の気持ちも大切です。
 

「本人の希望を全部かなえてあげなければ」と家族が無理をしてしまえば、介護そのものが続かなくなることもあります。


家族にも、
 

疲れる日があります。

怖いことがあります。

仕事があります。

生活があります。
 

だから、本人の声を聞くことと、家族が我慢し続けることは違います。
 

本人。

家族。

支援者。
 

それぞれの声を聞きながら、「どうすれば、みんなが少しでも納得できるだろう?」と一緒に考えていく。

それが大切なのではないでしょうか。
 


言葉だけが「声」ではない

本人が自分の気持ちをうまく言葉にできない場合もあります。
 

そんなとき、
 

表情。

視線。

しぐさ。

行動。

長年続けてきた習慣。

好きだったこと。

大切にしてきた価値観。

家族との会話の中に残っている言葉。
 

こうしたものも、本人の声を理解するためのヒントになります。
 

例えば、
 

昔から花が好きだった人が、花を見ると笑顔になる。

毎朝コーヒーを飲んでいた人が、コーヒーの香りに反応する。

長年大切にしていた場所へ行くと、表情が穏やかになる。
 

本人が今うまく説明できなくても、その人が歩いてきた人生そのものが、私たちに語りかけてくれることもあるのだと思います。
 


「認知症の人」ではなく、「一人の生活者」として見る

認知症になると、いつの間にか周囲から、
 

「介護される人」

「支援される人」

「見守られる人」
 

として見られることが増えていきます。
 

でも、その人は認知症になる前から、
 

誰かの親であり、

夫や妻であり、

仕事をしてきた人であり、

友人であり、

地域で暮らしてきた一人の生活者です。
 

好きなものがあります。

嫌いなものがあります。

大切にしていることがあります。

やりたいことがあります。
 

だからこそ、「認知症の人だから、こちらで決める」ではなく、「この人は、どうしたいのだろう?」という問いを持ち続けたいと思います。
 


本人の声を「聞く」から「聴く」へ

今回のテーマは、本人の「声を聞く」って、どういうことだろう?でした。
 

本人に質問する。

答えを聞く。

それだけではありません。

言葉が出てくるまで待つ。

選びやすい方法を考える。

表情を見る。

これまでの人生を知る。

「嫌だ」という気持ちも受け止める。
 

そして、本人の希望を出発点にして、どうすれば実現できるのかを一緒に考える。

単に音として「聞く」のではなく、その人が大切にしているものに耳を傾ける。
 

そんな意味で、「聞く」から「聴く」へ。

私たちの関わり方を少し変えてみる。

それが、その人らしい暮らしを守ることにつながるのではないでしょうか。
 


次回は、いよいよ「自分だったら?」と考えてみます

ここまでの連載では、
 

認知症のある方には世界がどう見えているのか。

どんなことで困るのか。

どんな関わりができるのか。
 

を考えてきました。
 

次回は、視点を大きく変えます。
 

もし、明日、医師から、「あなたは認知症です」と言われたとしたら。

自分は何を感じるでしょうか。

家族に、どのように接してほしいでしょうか。

できることまで代わりにやってほしいでしょうか。

これまで通り、一人の自分として接してほしいでしょうか。
 

次回、第12回は、「もし明日、自分が『認知症』と言われたら?」をテーマに、認知症を「誰かの話」から「自分の話」へ近づけて考えてみたいと思います。
 


あわせて知っていただきたい「認知症世界の歩き方」

このブログをきっかけに、
 

「本人にはどんな世界が見えているのだろう?」

「本人の立場から、もう少し認知症を考えてみたい」

と思われた方へ、4つご紹介します。
 

1.「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ【10月25日】

認知症について知識を一方的に学ぶだけではなく、認知症のある方が生きている世界を想像し、参加者同士で考え、対話しながら理解を深めていく実践型ワークショップです。

私も「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)として、皆さんと一緒に認知症世界を旅します。
 

▼詳細・お申込み
https://peatix.com/event/5159960
 

2.「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ【11月23日】

10月25日に続き、11月23日にも実践ワークショップを開催します。
 

「認知症について知る」だけでなく、
 

本人にはどう見えているのだろう?
本人は何に困っているのだろう?

 

という視点から、参加者同士で考えてみる時間です。
 

ご家族、地域の方、医療・介護・福祉関係者はもちろん、今はまだ認知症との直接の関わりがない方にも、ぜひ体験していただきたいワークショップです。
 

▼詳細・お申込み
https://peatix.com/event/5226254
 

3.映画『認知症世界の歩き方』公式サイト

ベストセラー『認知症世界の歩き方』の世界観を映画という形で描き、認知症のある方が見ている世界や、周囲からは一見分かりにくい行動の背景を考えるきっかけとなる作品です。

予告編、作品のコンセプト、ストーリーなども公式サイトで紹介されています。
 

▼映画『認知症世界の歩き方』公式サイト
https://issueplusdesign.jp/dementia_world/movie/
 

4.『認知症世界の歩き方』公式サイト

認知症の基礎知識に加え、認知症のある方が生きている世界や見えている景色を、「旅をする」ような感覚で学ぶことができます。

本人の視点から認知症について考える、このブログ連載の原点でもあります。
 

▼『認知症世界の歩き方』公式サイト
https://issueplusdesign.jp/dementia_world/


ぜひ、ブログ記事を読む「旅」とあわせて、さまざまな形で「認知症世界」を体験してみてください。

※認知症の症状や困りごとの現れ方、意思の表し方には個人差があります。本記事で紹介した例が、すべての認知症のある方に当てはまるわけではありません。

2026年10月18日 08:15

【第1回】社員50人以下の会社こそ、介護離職に備えるべき理由

第1回 介護離職を防ぐ会社の備え

社員50人以下の会社を守る!介護離職防止の実践講座

~小さな会社だからこそできる、人材を守る30の取り組み~

 

はじめに――大切な社員から突然、退職の相談を受けたら

「社長、少しお時間をいただけますか?」
 

長年会社を支えてきたベテラン社員から、突然このような相談を受けたら、どうされるでしょうか。
 

「親の介護が始まりました。今までどおりに仕事を続けられるか分かりません。退職も考えています」
 

これは実際の相談事例ではなく、想定した場面です。
 

例えば、従業員30人の会社で、主要顧客を担当している社員や、現場の技術・ノウハウを熟知した社員が退職することになったら...。
 

その影響は、単純に30人のうち1人が減るということではありません。
 

顧客との信頼関係、長年培われてきた技術、後輩への指導、社内の調整役としての働きなど、その社員が担っている役割によっては、会社の事業運営に大きな影響を与える可能性があります。
 

もちろん、親の介護が始まったからといって、必ず退職するわけではありません。
 

しかし、利用できる制度を知らず、職場にも相談できないまま、仕事を辞めることしか選択肢がないと思ってしまったら、どうでしょうか。
 

介護離職防止は、社員個人の生活を守るだけでなく、企業の大切な人材を守るための経営課題でもあるのです。
 

今回から全30回にわたり、従業員50名以下の中小企業の経営者、経営幹部、人事・総務担当者の皆様に向けて、仕事と介護の両立支援と介護離職防止のための具体策をお伝えしていきます。

仕事をしながら介護をしている人は、全国で約365万人

まず、公的な統計から状況を確認してみましょう。
 

総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年の調査時点で、家族などの介護をしている人は約628万8,000人でした。

そのうち、仕事をしている人は約364万6,000人です。

また、介護・看護を理由として、調査年の直近1年間に前職を離職した人は約10万6,000人でした。
 

つまり、全国では多くの人が仕事と介護の両立に向き合っており、介護・看護を理由に仕事を離れる人も存在していることが分かります。
 

ここで注意していただきたいのは、これらは2022年の全国調査に基づく数値であり、2026年現在の人数や、従業員50名以下の企業に限った数字ではないという点です。

統計を正しく理解することも、経営判断には欠かせません。
 

【出典】
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」

https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf


介護は、必ずしも事前に予定を立てられるものではありません。

親の転倒や突然の入院、認知症の症状の進行などをきっかけに、家族の生活が大きく変わることがあります。
 

社員がこれまでどおりの働き方を続けたいと思っていても、通院への付き添い、介護サービスの調整、行政手続き、家族間の話し合いなどに時間を取られるかもしれません。

そのとき、会社としてどのような支援ができるのでしょうか。
 

なぜ社員50人以下の会社こそ備えが必要なのか?

私は、小規模企業が介護離職防止に取り組む重要性を、特に3つの視点から考えています。

① 一人の離職が経営に与える影響が大きい場合がある

小規模企業では、一人の社員が複数の役割を担っていることがあります。
 

例えば、営業担当者が顧客対応だけでなく、新人教育や業務改善まで担当している。

現場責任者が技術指導、品質管理、取引先との調整を一人で担っている。
 

このような会社では、経験豊かな社員が離職すると、業務の引き継ぎや後任者の育成に時間がかかる可能性があります。

さらに、残された社員の負担増加や顧客対応への影響も考えられます。
 

企業の規模や業種によって状況は異なりますが、特定の社員に多くの仕事が集中していないか、平常時から確認しておきたいところです。

② 介護の悩みが表面化しにくい

「親の介護について会社に話してもよいのだろうか」

「忙しい職場なので、周囲に迷惑をかけたくない」

「介護していると分かったら、重要な仕事を任せてもらえなくなるのではないか」
 

従業員がこのような不安を抱えることも考えられます。

経営者が「うちには介護で困っている社員はいない」と思っていても、実際には、社員が相談をためらっているだけかもしれません。
 

相談がないことと、介護の問題がないことは同じではありません。


ただし、企業が社員の家庭事情を無理に聞き出すべきではありません。

大切なのは、必要なときに本人が安心して相談できる環境をつくることです。

③ 制度があっても、利用できるとは限らない

介護休業や介護休暇など、仕事と介護を両立するための制度は用意されています。

しかし、就業規則に記載されているだけでは、社員が制度の内容を理解しているとは限りません。
 

「どのような場合に利用できるのか」

「誰に申し出ればよいのか」

「介護のために働き方を変えたいとき、何を相談できるのか」
 

こうしたことを、社員自身が確認できる状態にしておく必要があります。

制度が存在することと、実際に安心して利用できることは別です。

【2026年10月現在】介護離職防止対策は、既に企業の義務となっています

ここで、経営者・人事担当者の皆様に、ぜひ確認していただきたいことがあります。

2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法では、介護離職防止に関する企業の対応義務が強化されました。
 

2026年10月現在、これらは既に施行されている義務です。
 

「今後の法改正に備えよう」という段階ではなく、現在の対応状況を確認し、必要な措置を実施・運用する段階にあります。

主な義務は次の3つです。

① 介護休業等を利用しやすい雇用環境の整備

事業主は、以下の4つの措置のうち、少なくとも1つを実施する必要があります。

  • 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施

  • 相談窓口の設置など、相談体制の整備

  • 自社の労働者による介護休業等の利用事例の収集・提供

  • 介護休業等の利用促進に関する方針の周知

複数の措置を実施することが望ましいとされています。

② 介護に直面した社員への個別周知・意向確認

従業員から家族の介護に直面した旨の申し出があった場合、企業は介護休業制度等について個別に周知し、制度利用の意向を確認する必要があります。

制度の説明だけでなく、申出先や介護休業給付金に関する情報など、法令で定められた事項を伝えることが求められます。

また、制度の利用を控えさせるような対応は認められません。

③ 40歳前後の社員への早期情報提供

企業は、従業員が介護に直面する前の段階で、介護休業制度等について情報提供を行う必要があります。

情報提供の時期は、法律で定められた40歳に達する年度、または40歳の誕生日から1年間のいずれかです。

さらに、介護休暇の対象要件の見直しや、介護のためのテレワーク等の導入に関する努力義務も、2025年4月から適用されています。

これらの義務は、従業員50名以下という企業規模だけを理由に免除されるものではありません。
 

【出典】
厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/

2026年3月、経済産業省の経営者向けガイドラインも改訂

介護離職防止対策は、法律上の義務に対応するだけで完結するものではありません。

2026年3月30日、経済産業省は「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を改訂しました。
 

このガイドラインでは、従業員の仕事と介護の両立支援を、人材不足に対するリスクマネジメントや人的資本経営の観点から捉えています。

今回の改訂では、2025年4月施行の法改正を踏まえた支援の全体像の更新、図表のデータ更新、企業事例の追加などが行われています。

つまり、仕事と介護の両立支援は、単なる福利厚生の充実ではなく、企業の人材定着や事業継続を考えるうえでも重要なテーマとして位置づけられています。
 

【出典】
経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2026年3月改訂)

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html

小さな会社が、今から始められる3つの取り組み

「必要性は分かったけれど、専任の人事担当者もいない」

「費用や時間を考えると、何から手をつければよいか分からない」


そんな経営者の方もいらっしゃると思います。

そこで、私から、まず取り組んでいただきたい3つの実践策をご提案します。

① 自社の制度と対応状況を点検する

まずは、自社が必要な法令対応を実施できているかを確認してみましょう。

例えば、次のような点です。

  • 介護休業・介護休暇等の制度を従業員に周知しているか

  • 介護に直面した従業員への個別周知・意向確認の方法を決めているか

  • 40歳前後の従業員への情報提供を実施しているか

  • 法律で求められる雇用環境整備の措置を実施しているか

  • 社員が相談できる担当者や窓口が明確になっているか

こうした項目を確認することが、最初の一歩になります。

厚生労働省では、企業が活用できる研修資料、周知資料、面談シートなどの支援ツールも公開しています。
 

【参考】
厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html

② 経営者自身が、安心して相談できる職場だと伝える

社員が介護に直面したとき、会社に相談してもよいと思える環境づくりは重要です。

例えば、朝礼や社内ミーティングで次のように伝えてはいかがでしょうか。
 

「ご家族の介護が必要になったときは、一人で抱え込まず、退職を決める前に相談してください。利用できる制度や働き方について、一緒に考えましょう」


言葉にすることは、小さな取り組みかもしれません。

しかし、経営者自身が仕事と介護の両立を大切に考えている姿勢を示すことには意味があります。
 

もちろん、声をかけるだけで法律上の義務をすべて果たせるわけではありません。

制度や相談体制を整えたうえで、実際に相談を受けられる環境をつくることが必要です。

③ 一人の社員に業務が集中しすぎないようにする

介護が始まると、通院への付き添いや介護サービスの調整などによって、急な休暇や勤務時間の変更が必要になる場合があります。

その際、一人の社員しか対応できない業務が多いと、本人だけでなく周囲の社員にも負担がかかります。
 

主要業務の手順を共有する。

複数の社員が対応できる仕事を増やす。

急な欠勤時の引き継ぎ方法を決めておく。
 

こうした取り組みは、介護離職防止だけでなく、病気や育児などによる急な欠勤にも備えることにつながります。

介護離職防止は、社員一人の問題ではなく、会社全体の働き方を見直す機会でもあるのです。

キャリアコンサルタントとして、そして父母の介護と父の看取りを経験した家族として

私は、生命保険業界で約20年間、営業管理職を経験した後、キャリアコンサルタントに転身しました。

これまで12年以上にわたり、5,200名以上の就職・キャリア支援に携わってきました。
 

そして、2023年からは私自身も父母の介護を経験し、2026年9月には父の看取りも経験しました。
 

専門家として支援する立場と、実際に家族介護に向き合う立場。

この両方の経験を通じて、私が大切だと感じていることがあります。
 

それは、介護は、制度や知識だけで割り切れるものではないということです。
 

介護には、家族への思い、仕事への責任、生活の問題、そして将来への不安など、さまざまな事情が関わります。

また、家族と過ごせる時間が、いつまでも続くとは限りません。
 

だからこそ、親が元気なうちから備えること、家族で話し合うこと、そして仕事と介護を両立するための選択肢を早めに知っておくことには、大きな意味があると感じています。


企業としても、介護に直面した社員に対して、制度を説明するだけでなく、本人の気持ちや今後の働き方について一緒に考える姿勢が大切ではないでしょうか。


もちろん、すべての社員が同じように仕事と介護を両立できるわけではありません。
 

それでも、社員が退職という選択を急がずに済むように、会社としてできることを考えていく。

私は、それが介護離職防止の重要な考え方の一つだと思っています。

おわりに――2026年の今、求められるのは「制度を知ること」から「実際に運用すること」へ

2025年4月に施行された改正育児・介護休業法から、約1年半が経過しました。

2026年10月現在、企業に必要なのは、既に施行されている義務への対応状況を確認し、実際に従業員が仕事と介護を両立できる環境を整えていくことです。
 

従業員50人以下の会社だからといって、大企業と同じ規模の人事部門を設ける必要があるわけではありません。

しかし、自社に適用される法律上の義務を果たし、社員が安心して働き続けられるように備えることは重要です。
 

経営者が制度を理解する。

社員が安心して相談できる環境を整える。

仕事を続けるための選択肢を一緒に考える。
 

こうした一つひとつの取り組みが、企業の大切な人材と社員のキャリアを守ることにつながります。
 

「介護が始まっても、この会社で働き続けたい」
 

そう思える職場づくりについて、これから一緒に考えていきませんか。
 

次回は、「ベテラン社員が突然退職したら? 小さな会社が失う本当のもの」をテーマにお届けします。
 


【経営者・人事担当者の皆様へ】御社の介護離職防止対策を確認してみませんか?

「法律上、必要な対応はできているだろうか?」

「介護の相談を受けたら、どのように対応すればよいのだろうか?」
 

そのような疑問をお持ちの経営者・人事担当者の皆様に向けて、「介護離職危険度チェック(無料)」をご用意しています。

自社の制度や相談体制などを振り返るきっかけとして、ぜひご活用ください。
 

▼介護離職危険度チェック(無料)

https://fwjmj.hp.peraichi.com/

※無料チェックは企業の現状把握を支援するものであり、法令への適合性を公的に証明するものではありません。
 

また、キャリア&ライフプラントータルサポートでは、従業員50名以下の中小企業を中心に、企業の規模や課題に応じた支援を提供しています。

主なサービスは、介護離職防止研修、従業員向け個別相談、経営者・人事担当者向けコンサルティングです。

さらに、認知症のある方の視点を体験的に学ぶ「認知症世界の歩き方」実践ワークショップもご案内しています。

認知症への理解を深め、家族介護への備えや、仕事と介護の両立を考えるきっかけとしてご活用いただけます。
 

▼法人向けサービスのご案内

https://career-life.org/corporate_services.html

 

参考資料・出典

1.総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」

介護をしている人の数、仕事をしながら介護をしている人の数、介護・看護を理由とする離職者数を参照。

https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf


2.厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」

2025年4月1日施行の事業主の義務、個別周知・意向確認、早期情報提供などを確認。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/


3.経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」

2026年3月30日改訂。企業経営における仕事と介護の両立支援の意義・進め方を参照。

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html


4.厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」

企業向けの研修資料、周知資料、面談シート、支援プラン関連資料を参照。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html


5.issue+design「認知症世界の歩き方 実践ワークショップ」

認知症のある方が体験している世界を、対話を通じて理解するワークショップの内容を参照。

https://issueplusdesign.jp/dementia_world/workshop/


※本記事は2026年10月16日時点で確認できる公的資料をもとに作成しています。法律上の具体的な適用、就業規則等の整備、個別の労務判断については、厚生労働省・都道府県労働局等の最新情報をご確認いただき、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

2026年10月16日 19:47

【第10回】親の一人暮らしが心配…地域包括支援センターに相談できること

第10回

さいたま市で親の介護が心配になったら読む話
急な入院・介護で家族が慌てないためのやさしい準備

「母は一人で暮らしているけれど、このままで大丈夫だろうか」

「電話では元気そうだけれど、実際の生活はどうなんだろう」

「もし家の中で転んだら、誰が気づいてくれるのだろう」
 

親と離れて暮らしていると、こんな不安を感じることがあります。
 

特に、以前より足腰が弱くなったり、物忘れが増えたりすると、「そろそろ一人暮らしは無理なのでは?」と考えてしまうこともあるでしょう。
 

でも、一人暮らしをしていること自体が問題なのではありません。
 

大切なのは、
 

今の暮らしを本人が無理なく続けられているか。
もしもの時に、助けを求められる仕組みがあるか。

 

ということです。
 

今回は、離れて暮らす親の一人暮らしが心配になった時に、家族ができる準備と、地域包括支援センターに相談できることについて考えてみます。
 

「一人暮らしだから危ない」と決めつけない

子どもから見ると、「高齢なのだから、誰かと一緒に暮らした方が安心」と思うことがあります。
 

でも親にとって、自宅は長年暮らしてきた大切な場所です。
 

近所に顔なじみがいる。

行きつけのお店がある。

自分のペースで生活できる。

住み慣れた家で過ごしたい。
 

そんな思いを持っている方も少なくありません。
 

ですから、「もう一人暮らしは無理だよ」と家族だけで結論を出す前に、
 

「今、何か困っていることはない?」

「これからもここで暮らしたい?」
 

と、まず本人の気持ちを聞いてみることが大切です。
 

介護準備は、親の暮らしを取り上げるためのものではありません。

できるだけ本人が希望する暮らしを続けるための準備でもあります。
 

家族が気づいておきたい「小さな変化」

一人暮らしを続けられるか考える時に大切なのは、年齢だけではありません。
 

日常生活にどのような変化が起きているかを見ることです。
 

例えば、
 

・以前より転ぶことが増えた
・外出する回数が減った
・食事を十分に取れていないように見える
・薬の飲み忘れが増えた
・同じ食品をたくさん買っている
・郵便物や請求書がたまっている
・ゴミ出しがうまくできなくなった
・家の中が以前より片付かなくなった
・電話に出ないことが増えた
・ご近所との交流が減っている

 

こうした変化があったからといって、すぐ介護が必要とは限りません。
 

ただ、「以前と比べて少し変わってきた」という家族の気づきは、とても大切な情報です。
 

一つひとつの変化を責めたり、できないことを探したりするのではなく、「何があれば、今の暮らしを続けやすくなるだろう」という視点で考えてみたいものです。
 

離れて暮らしていても、できる準備があります

遠くに住んでいると、「自分が毎日見に行けないから心配」と思うかもしれません。
 

でも、家族だけですべてを見守る必要はありません。

まず家族で確認しておきたいのは、例えば次のようなことです。
 

① 定期的な連絡方法を決めておく

毎日電話をする必要はありません。
 

「週に何回くらい連絡するか」

「LINEなら返事ができるか」
 

など、親子双方が負担にならない方法を決めておきます。
 

大切なのは、監視することではなく、自然につながっていることです。
 

② 緊急連絡先を共有しておく

親本人だけではなく、
 

・家族
・近くに住む親族
・信頼できる近所の方
・かかりつけ医
・シニアサポートセンター
 

など、困った時の連絡先を整理しておくと安心です。
 

③ かかりつけ医や薬の情報を確認する

急な入院や救急搬送が起きた時、
 

どこの病院へ通っているか。

どんな薬を飲んでいるか。

お薬手帳はどこにあるか。
 

こうした基本情報が分かっているだけでも、家族は動きやすくなります。
 

④ 家の中の安全を一緒に確認する

転びやすい段差はないか。

夜間のトイレまでの動線は安全か。

滑りやすいマットはないか。

照明は十分か。
 

「危ないから全部変える」のではなく、本人と話しながら確認することが大切です。
 

地域包括支援センターには、どんな相談ができる?

さいたま市では、地域包括支援センターを「シニアサポートセンター」と呼んでいます。

高齢者本人や家族の、介護・福祉・医療・介護予防などに関する総合相談窓口です。
 

一人暮らしの親についても、
 

「今は一人で生活できていますが、将来が心配です」

「離れて暮らしているので、普段の様子が分かりません」

「最近、転ぶことが増えてきました」

「地域にどんな支援や活動があるのか知りたいです」

「何かあった時に相談できる場所を知っておきたいです」
 

といったところから相談できます。
 

重要なのは、「シニアサポートセンターが、毎日家族に代わって見守ってくれるということではない」という点です。
 

本人の状況や地域の資源を確認しながら、必要に応じて介護予防、医療、介護サービス、地域活動などにつながるための相談や調整をしてもらえる場所です。
 

「まだ介護保険を使うほどではないから」と遠慮する必要はありません。
 

地域の「つながり」も大切な備え

一人暮らしの高齢者を支えるのは、家族と介護サービスだけではありません。
 

地域には、
 

自治会。

民生委員。

地域のサロン。

体操などの通いの場。

医療機関。

薬局。

介護事業所。

地域で活動する住民や団体。
 

など、さまざまなつながりがあります。
 

さいたま市のシニアサポートセンターには、「地域支え合い推進員」も配置され、地域の支え合い活動や生活支援につながる地域づくりを進めています。
 

だからこそ、「親の地域には、どんな場所や人とのつながりがあるのだろう」と知っておくことも大切です。
私自身、地域の100歳体操などへの参加を大切にしているのも、こうした理由があります。
 

高齢者にとって地域のつながりは、単なる交流ではありません。
 

普段から顔を合わせる人がいる。

「あれ、今日は来ていないね」と気づいてくれる人がいる。

何かあった時に相談できる場所を知っている。
 

こうした日常のつながりが、大きな安心になることがあります。
 

「見守る」と「監視する」は違う

親のことが心配になるほど、
 

「あれはした?」

「薬は飲んだ?」

「今日はどこへ行った?」
 

と、つい確認することが増えてしまいます。
 

でも、それが続くと、親は「子どもに監視されている」と感じるかもしれません。
 

大切なのは、「親の自立を尊重しながら、困った時に助けられる距離でつながっておくこと。」だと思います。
 

例えば、「心配だから電話している」ではなく、「今日はどうしているかなと思って」と話す。

「転ぶと危ないから外に行かないで」ではなく、「安心して出かけられる方法を一緒に考えよう」と伝える。
 

ちょっとした言葉の違いですが、親子の関係には大きな違いがあります。
 

家族側も「何かあった時」を整理しておく

介護準備では、親の準備ばかり考えがちです。
 

でも、子ども側の準備も必要です。
 

例えば、
 

「親が入院したら、誰が病院へ行くのか」

「兄弟の誰に連絡するのか」

「仕事を休む必要が出たらどうするのか」

「親の家の鍵はどうするのか」

「ペットを飼っていたら、誰が世話をするのか」
 

こうしたことです。
 

何かが起きてから家族会議を始めるより、「もしもの時は、まずこうしよう」と少し話しておくだけでも違います。
 

私が大切にしたい「前段階の整理」

私は、さいたま市で介護準備や終活について活動する中で、「介護サービスを使う前の段階」をとても大切にしています。
 

まだ介護ではない。

でも少し心配。

何から整理すればよいのか分からない。

地域包括支援センターに相談するほどなのかも分からない。
 

そんな時に、
 

親の状況を一緒に整理する。

家族の心配を言葉にする。

今確認しておくことを書き出す。

必要であれば、シニアサポートセンターなどの適切な相談先につなぐ。
 

そんな「前段階の整理役」として、地域の方のお役に立ちたいと思っています。
 

今日からできる小さな一歩

今回、ぜひ確認していただきたいのは4つです。
 

1.親の住んでいる地域を担当するシニアサポートセンターを調べる。

2.親のかかりつけ医と緊急連絡先を確認する。

3.最近の暮らしで「以前と変わったこと」がないか考える。

4.本人に「最近、何か困っていることない?」と聞いてみる。
 

これだけでも十分です。
 

親の一人暮らしが心配だからといって、すぐに生活を変えなければならないわけではありません。
 

一人暮らしを続ける。

家族と暮らす。

介護サービスを利用する。

地域の力を借りる。
 

選択肢はいろいろあります。
 

だからこそ、困ってから一つの選択肢に追い込まれるのではなく、元気なうちから地域とつながり、選べる未来を増やしておく。
 

それが、親の一人暮らしを支える大切な介護準備だと思います。
 

つながりがあれば、離れていても安心は作れます。
 

親も子もできるだけ笑顔でいられるように。
 

まずは、地域の相談先を知るところから始めてみませんか。
 

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2026年10月12日 10:47

第10回「買い物をする」って、実はこんなに難しい

第10回

選ぶ・探す・支払うには、いくつもの工程がある

「ちょっとスーパーで牛乳を買ってくる」
 

私たちは、こんなことを日常的に行っています。
 

特別に難しいことをしているという感覚は、ほとんどありません。

でも、少し立ち止まって考えてみると、「買い物をする」という行動には、実はたくさんの工程があります。
 

何を買うのか覚えておく。

店まで行く。

目的の商品を探す。

似た商品の中から選ぶ。

値段を確認する。

必要な量を考える。

レジに並ぶ。

財布を出す。

お金やカードで支払う。

お釣りや商品を受け取る。

そして、買ったものを持って家に帰る。
 

これだけのことを、私たちはほとんど無意識に行っています。
 

ではもし、その一つひとつが少しずつ難しくなったとしたら...。
今回も、本人から見えている「認知症世界」を一緒に歩いてみたいと思います。
 


「何を買うんだっけ?」から始まる買い物

スーパーへ向かう前には、「今日は牛乳と卵を買おう」と思っていた。
 

ところが、お店に着く。
 

たくさんの商品が目に入る。

店内放送が聞こえる。

人が行き交う。

気になる商品が目に入る。
 

そして、ふと、「何を買いに来たんだっけ?」となる。
 

周囲から見ると、「買うものを忘れただけ」に見えるかもしれません。
 

でも本人にとっては、「目的を持って家を出たはずなのに、その目的だけが突然分からなくなる。」
 

とても不安なことかもしれません。
 


商品が見えていても、「探しているもの」として見つからないことがある

第6回では、「見えているのに、見つけられない」という世界を考えました。
 

買い物でも同じようなことが起こることがあります。
 

例えば、「しょうゆを買おう」と思って調味料売り場へ行く。
 

目の前には、
 

しょうゆ。

めんつゆ。

だし。

酢。

ドレッシング。
 

さまざまな形や色の商品が並んでいる。
 

私たちなら、その中から「しょうゆ」を探します。
 

でも、たくさんの情報の中から必要なものを選び取ることが難しくなれば、「目の前にあるのに、探している商品として見つけられない」こともあるでしょう。
 

そんなとき、「そこにあるじゃない」と言われても、本人には本当に分からないのかもしれません。
 


「選ぶ」ことも、実は難しい

商品を見つければ、それで終わりではありません。
 

例えば牛乳だけでも、
 

大きさが違う。

メーカーが違う。

価格が違う。

低脂肪乳もある。

パッケージも違う。
 

そこから一つを選ばなければなりません。
 

野菜なら、
 

どのトマトにするか?

何個買うか?

値段はいくらか?

まだ家に残っていなかったか?
 

いくつものことを判断します。
 

私たちにとって、「好きなものを選べばいい」という状況でも、選択肢が増えるほど迷ってしまう人もいるかもしれません。
 

だから、「選択肢をたくさん与えることが、必ずしも本人のためになるとは限らない」ということもあります。
 


一番緊張する場所が「レジ」になることもある

商品を選んだ。

買い物かごに入れた。

そしてレジへ行く。
 

ここでも、いくつものことを同時に求められます。
 

財布を探す。

支払金額を確認する。

現金なのか、カードなのかを決める。

お札や硬貨を選ぶ。

店員さんの言葉を聞く。

ポイントカードについて聞かれる。

袋が必要か聞かれる。

後ろには次のお客さんが並んでいる。
 

最近ではセルフレジなど、さらに多くの操作が求められる場面もあります。
 

もし途中で分からなくなったら...。
 

後ろに人が並んでいるだけでも、「早くしなければ」と焦るかもしれません。

そして焦れば焦るほど、財布の中のお金が分からなくなる。
 

何を聞かれているのか分からなくなる。

そんなこともあるでしょう。
 


「お金が分からない人」と決めつけない

会計に時間がかかる。

同じお札を何度も出す。

小銭の区別が難しい。
 

そんな様子を見て、「もうお金の管理はできない」と一括りにしてしまうことがあります。
 

でも、少し分けて考えてみると、
 

金額そのものが分からないのか?

硬貨を見分けにくいのか?

店員さんから急に話しかけられて混乱したのか?

後ろの人が気になって焦ったのか?

財布の中が整理されていないために探しにくいのか?
 

困っている場所は、人によって違うかもしれません。
 

大切なのは、「買い物ができない」という大きな評価をする前に、「買い物のどの場面で困っているのだろう?」と考えてみることではないでしょうか?
 


「できる・できない」の二択にしない

例えば、一人では買い物が難しくなっても、
 

買い物リストがあればできるかもしれない。

写真があれば商品を見つけられるかもしれない。

いつものスーパーなら安心して買えるかもしれない。

一緒に店まで行けば、店内では自分で選べるかもしれない。

支払いだけ少し手伝えば、ほかのことはできるかもしれない。
 

つまり、「買い物ができる人」と「買い物ができない人」の二種類に分かれるわけではありません。
 

どこまでできるのか?

どこで困るのか?

何があればできるのか?
 

その人ごとに違います。
 


全部やってあげることが、本当に支援なのだろうか?

家族としては、心配になります。
 

「間違ったものを買ったらどうしよう」

「お金をなくしたらどうしよう」

「迷ったら危ない」
 

そう考えると、「もう私が全部買ってくるから」と言いたくなることもあるでしょう。
 

もちろん、安全のために必要な支援もあります。

家族の負担を軽くすることも大切です。
 

でも、本人にとって買い物が、長年続けてきた生活習慣だったとしたらどうでしょう。
 

自分で商品を選ぶ。

季節の野菜を見る。

店員さんと話す。

地域の知り合いに会う。

「今日は何を食べようかな」と考える。
 

買い物には、「商品を手に入れる以上の意味」があるのかもしれません。
 

だから、「危ないから全部やめる」だけではなく、「どうすれば続けられるだろう?」という選択肢も考えてみたいと思います。
 


少しの工夫で「自分でできる」を残す

例えば、
 

買うものを3つ程度に絞る。

文字だけでなく商品の写真を使う。

いつも同じスーパーを利用する。

比較的すいている時間帯を選ぶ。

買い物かごや財布の中を分かりやすくする。

必要に応じて一緒に店へ行く。

レジで少し時間がかかっても待つ。
 

本人に合う方法は、それぞれ違います。
 

大切なのは、「本人にできることを奪わず、困っている部分を支える」という視点だと思います。
 


「買い物ができない」ではなく、「どこで困っている?」

今回のテーマは、「買い物をする」って、実はこんなに難しいでした。
 

私たちが一つの行動だと思っている「買い物」も細かく分けると、
 

覚える。

移動する。

探す。

見つける。

選ぶ。

判断する。

支払う。

持ち帰る。
 

たくさんの工程があります。
 

その一部分が難しくなったからといって、すべてができなくなったわけではありません。
 

だから、「もう買い物は無理だね」ではなく、
 

「どこならできる?」

「どこで困っている?」

「何があれば続けられる?」
 

と考えてみる。
 

その視点が、その人らしい暮らしを守ることにつながるのではないでしょうか?
 


9月は「認知症月間・世界アルツハイマー月間」でした

9月は、日本では「認知症月間」、世界では「世界アルツハイマー月間」として、認知症について理解を深める機会となっています。

そして9月21日は、「認知症の日・世界アルツハイマーデー」でした。
 

この連載を通してお伝えしたいのは、認知症について「知識を持つ」ことだけではありません。

認知症のある方が、「どんな世界を見て、どんなことで困り、何を感じながら暮らしているのだろう。」を想像してみることです。
 

買い物に時間がかかる人を見たとき。

駅で迷っている人を見たとき。

何度も同じことを尋ねる人に出会ったとき。
 

「困った人」と見るのではなく、「もしかしたら、この人は今、困っているのかもしれない」と思える人が増える。

そんな社会になればと思います。
 


次回は「本人の声を聞く」とは何かを考えます

これまで、
 

本人には世界がどう見えているのか?

何に困っているのか?
 

ということを考えてきました。
 

でも、もう一歩先へ進むと、大切な問いがあります。
 

「本人は、どうしたいのだろう?」
 

家族や周囲が「本人のため」と考えて決めること。

本人自身が望んでいること。
 

それは、必ずしも同じとは限りません。
 

次回、第11回は、本人の「声を聞く」って、どういうことだろう?をテーマに、一緒に考えてみたいと思います。
 


あわせて知っていただきたい「認知症世界の歩き方」

今回の記事をきっかけに、もう少し「認知症世界」を知ってみたいと思った方へ、3つご紹介します。

1.「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ

認知症について一方的に知識を学ぶのではなく、認知症のある方が生きている世界を想像し、参加者同士の対話を通じて理解を深めていく実践型のワークショップです。

私も「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)として開催しています。
 

▼詳細・お申込み
https://peatix.com/event/5159960

2.映画『認知症世界の歩き方』公式サイト

『認知症世界の歩き方』の世界観を、映画という新しい形で体験できる作品です。

認知症のある方から見えている世界や、その人にとっての理由を知ることで、「認知症=何もできなくなる」というイメージを少し違った角度から考えるきっかけになります。
 

▼映画『認知症世界の歩き方』公式サイト

https://issueplusdesign.jp/dementia_world/movie/

3.『認知症世界の歩き方』公式サイト

認知症の基礎知識だけでなく、認知症のある方が生きている世界や見えている景色を、さまざまなストーリーを通じて学ぶことができます。

「本人から見た世界を知る」という、このnote連載の原点でもあります。

 

▼『認知症世界の歩き方』公式サイト

https://issueplusdesign.jp/dementia_world/

 

これらもぜひ、「認知症世界」を旅する入口としてご覧いただければと思います。
 

※認知症の症状や困りごとの現れ方には個人差があります。本記事で紹介した例が、すべての認知症のある方に当てはまるわけではありません。
 

2026年10月03日 17:11

父を見送って 家族として経験した葬儀・納骨・相続の記録(第2回)

第2回

第2回 父を見送って、自分の「最期」を考えた

日本尊厳死協会への入会

2026年10月1日。

今日、私は「日本尊厳死協会」の会員になりました。
 

なぜ、今だったのか?

その一番大きなきっかけは、やはり9月15日に父を突然亡くしたことです。
 

前日まで、父は特別養護老人ホームでいつも通り過ごしていました。

私自身も、「このまま、あと3年、5年くらいは特養で生活しているのだろう」と思っていました。
 

しかし2026年9月15日の午前3時頃、父は自室で倒れました。
 

午前5時頃、病院へ緊急搬送。

そして午前6時44分、虚血性心疾患で亡くなりました。
 

あまりにも突然の別れでした。

あの日から、私は父の死後の手続きを進める一方で、あることを以前より強く考えるようになりました。
 

「では、自分自身の最期はどうしたいのだろう」ということです。
 

「いつか考えよう」では間に合わないこともある

人は誰でも、自分がいつか亡くなることを知っています。
 

しかし普段の生活の中で、「自分がいつ、どのように人生の最期を迎えるのか?」を現実のこととして考える機会は、それほど多くありません。
 

私もそうでした。
 

終活に関わる仕事をしてきましたし、介護準備の大切さも多くの方にお伝えしてきました。
 

父母の介護も経験してきました。

それでも、心のどこかでは、「まだ先のこと」だったのかもしれません。
 

父の突然死は、その感覚を大きく変えました。
 

前日まで元気だった人が、翌朝には亡くなっている。

その現実を目の前にすると、「元気なうちに考える」ことの意味が、それまでとは全く違って見えてきます。
 

「もう少し年齢を重ねてから」

「病気になってから」

「必要になったら家族と話そう」
 

では、間に合わないこともある。
 

だからこそ、今のうちに考えておこう。

そう思うようになりました。
 

日本尊厳死協会とは

今回私が入会した公益財団法人 日本尊厳死協会は、1976年に設立され、人生の最終段階における医療・ケアについて、自分自身の意思を事前に表しておく「リビング・ウイル」の普及や登録管理などに取り組んでいる団体です。
 

リビング・ウイルとは、人生の最終段階で自分自身が意思を伝えられなくなった場合に備えて、「どのような医療やケアを望むのか?」という自分の意思を、元気なうちに示しておくものです。
 

協会のリビング・ウイルでは、単に延命措置について考えるだけではなく、苦痛を和らげるための緩和ケアや、本人の意思を家族・医療者などと共有していくことも重視されています。
 

なお、「尊厳死」という言葉から「安楽死」を連想する方もいるかもしれません。

しかし両者は同じものではありません。
 

日本尊厳死協会も、積極的な医療行為によって死を早める「安楽死」は支持していないことを明確にしています。
 

私自身にとって大切なのも、「早く死にたい」ということではありません。
 

むしろ逆です。

自分らしく、最後まで生きたい。
 

そのために、自分の意思を元気なうちから考えておきたい。

今回の入会は、そのための一つの行動です。
 

私が考え始めた「自分自身の最期」

父の死を経験してから、自分自身についても考えるようになりました。
 

もし、ある日突然倒れたら。

もし、自分の意思を言葉で伝えることができなくなったら。

もし、回復が難しい状態になったら。
 

その時、家族はどう判断するのだろう。
 

そして、「本人だったら、どうしてほしかったのだろう」と悩ませることになるのではないか?
 

私は、それをできるだけ避けたいと思っています。
 

今の私がまず大切にしたいのは、具体的な医療行為について一度決めたら終わりにすることではありません。

自分が何を大切にして生きたいのかを考え、それを言葉にし、家族と共有しておくこと。
 

そして、考え方が変われば、その都度また話し合えばよい。

終活というのは、本来そういうものなのではないでしょうか?
 

「最期」を考えることは、「これから」を考えることだった

日本尊厳死協会に入会しようと考える中で、意外だったことがあります。
 

それは、「死について考えているつもりが、いつの間にか生き方について考えていた」ということです。
 

自分は、あと何年生きるのだろう。

何歳まで働きたいのだろう。

これから誰と関わりたいのだろう。

どんな仕事をしていたいのだろう。

何を学びたいのだろう。

家族に何を残したいのだろう。

社会に対して、自分にはまだ何ができるのだろう。
 

父が亡くなる前までにも、もちろん考えていたことです。
 

しかし、父の突然の死によって、その問いには以前とは違う重みが加わりました。

「いつかやろう」ではなく、「できるうちにやろう」と思うようになったのです。
 

私にとっての終活は、「人生を小さくすること」ではない

終活という言葉には、ときに
 

「人生を整理する」

「身の回りを縮小する」

「死に備える」
 

といったイメージがあります。
 

もちろん、それも大切な終活の一部だと思います。

でも、今の私は少し違う捉え方をしています。
 

終活とは、残りの人生をどう生きるかを考えること。
 

自分が何を大切にするのか?

どんな働き方をするのか?

誰と時間を過ごすのか?

何を次の世代に伝えるのか?
そして人生の最後に、「自分らしく生きた」と思えるためには、これからどう生きればよいのか?
 

そこまで含めて終活なのではないかと思っています。

日本尊厳死協会への入会は、その答えではありません。
 

あくまで、私自身がこれからを考えるために起こした「小さな一歩」です。
 

父からもらった、もう一つの宿題

父は、突然逝ってしまいました。
 

本人がどこまで自分の最期について考えていたのか?
 

もっと聞いておけばよかったこともあります。

もっと話しておけばよかったこともあります。
 

その経験があるからこそ、私は自分自身については、「家族がその時になって初めて考える」状態には、できるだけしたくありません。
 

自分で考えられるうちに考える。

伝えられるうちに伝える。
 

そして、「自分が望む最期を考えると同時に、それまでの時間をどう生きるかを考える。」

これも、父が最後に私に残してくれた宿題なのかもしれません。
 

2026年10月1日。

日本尊厳死協会への入会。

父を見送ってから始めた、自分自身の終活の一つです。
 

これから私は、終活を「人生の終わりの準備」としてだけではなく、「これからの人生を、より自分らしく生きるための準備」として考え、実践していきたいと思っています。
 

次回は、父の葬儀を終えてから実際に始まった、未支給年金・遺族年金・埋葬費などの手続きについて書いてみたいと思います。

2026年10月01日 16:30

【第9回】親の物忘れが気になったら、まずどこに相談する?

第9回

さいたま市で親の介護が心配になったら読む話

急な入院・介護で家族が慌てないためのやさしい準備

「最近、親の物忘れが増えてきたような気がする」
 

同じ話を何度もするようになった。

約束したことを忘れている。

買い物に行くと、同じものをいくつも買ってくる。

通院日や薬の管理が、少し怪しくなってきた。

以前なら当たり前にできていたことに、時間がかかるようになってきた。
 

そんな親の姿を見て、
 

「年齢のせいかな?」

「もしかすると、認知症なのだろうか?」
 

と、心配になることがあります。
 

でも、親本人にどう伝えればよいのか分からない。

いきなり病院へ行こうと言っても、嫌がられるかもしれない。

そもそも、どこに相談すればよいのか分からない。
 

そんな時に知っておいていただきたいのが、地域包括支援センターです。
 

さいたま市では「シニアサポートセンター」という名称で、高齢者やその家族の身近な相談窓口として設置されています。

今回は、親の物忘れが気になった時に、家族が知っておきたいことと、最初の相談先についてお伝えします。
 

物忘れが増えたからといって、すぐ認知症とは限りません

年齢を重ねると、誰でも物忘れを経験することがあります。
 

人の名前がなかなか思い出せない。

何を取りに来たのか忘れてしまう。

昨日の夕食の献立を思い出せない。
 

こうしたことがあっても、それだけで認知症と判断できるわけではありません。
 

一方で、物忘れに加えて、日常生活に変化が出てくることもあります。
 

例えば、

  • 同じ質問を何度も繰り返す

  • 約束したこと自体を忘れてしまう

  • 慣れていた料理や買い物が難しくなる

  • 薬の飲み忘れや重複が増える

  • 日付や場所が分からなくなることがある

  • 以前は楽しんでいたことに関心を示さなくなる

こうした変化が続く場合は、早めに医療機関や相談窓口につながることが大切です。
 

ただし、これらは認知症を診断するためのチェックリストではありません。
 

認知症に似た症状が、別の病気や体調の変化によって生じる場合もあります。
 

大切なのは、家族だけで「認知症だ」と決めつけないことです。
 

「以前と何か違う」と感じたら、その変化を専門家に相談する。

それが最初の一歩になります。
 

家族が気づきやすいのは、日常生活の小さな変化

親と離れて暮らしていると、電話では元気そうに感じることがあります。
 

「変わりない?」

「大丈夫だよ」
 

そんな会話だけでは、生活の変化に気づきにくいものです。
 

ところが、久しぶりに実家を訪ねてみると、
 

冷蔵庫に同じ食品がいくつも入っている。

未開封の郵便物がたまっている。

お薬カレンダーに薬が残っている。

以前より家の中が片付かなくなっている。
 

といった変化に気づくことがあります。
 

もちろん、それぞれに別の理由があるかもしれません。
 

だからこそ、一つの出来事だけで判断するのではなく、「以前と比べて何が変わったのか?」を見ておくことが大切です。
 

「できなくなったこと」を探すだけではなく、親が今もできていること、大切にしていることにも目を向けたいですね。
 

本人も、不安を感じているかもしれません

家族が物忘れを心配している時、親本人も何らかの変化を感じていることがあります。
 

「最近、何だかうまくいかない」

「前は簡単にできたのに」

「家族に迷惑をかけたくない」
 

そんな思いがあるかもしれません。
 

その時に、
 

「また忘れたの?」

「さっきも言ったでしょう」

「認知症なんじゃないの?」
 

と言われると、本人は傷ついたり、不安が強くなったりすることがあります。
 

私は、認知症について考える時、本人の立場から物事を見つめることがとても大切だと思っています。
 

家族から見れば、同じ質問の繰り返し。
 

でも、本人にとっては、初めて尋ねているつもりかもしれません。
 

家族から見れば、できなくなったこと。

でも、本人にとっては、どうしてうまくできなくなったのか分からず、戸惑っていることかもしれません。
 

だからこそ、できないことを指摘する前に、
 

「何か困っていることはない?」

「一緒に確認してみようか?」
 

そんな声かけを大切にしたいものです。
 

最初の相談先は、シニアサポートセンターやかかりつけ医

では、親の物忘れが気になった時、どこに相談すればよいのでしょうか?
 

まず知っておいていただきたいのが、次の2つです。
 

① シニアサポートセンター(地域包括支援センター)

さいたま市には、高齢者やその家族の総合相談窓口として、シニアサポートセンターが設置されています。

認知症の診断がついていなくても、相談できます。
 

例えば、
 

「母の物忘れが増えてきて心配です」

「本人は病院へ行きたがらないのですが、どうすればよいでしょうか?」

「一人暮らしを続けていて大丈夫なのか不安です」

「家族として、何から始めればよいのでしょうか?」
 

といった相談です。
 

シニアサポートセンターは、本人や家族の状況を聞き、必要に応じて医療機関や認知症に関する支援につながるお手伝いをしてくれます。

相談は無料です。
 

まずは、親の住んでいる地域を担当するセンターに電話してみてください。
 

② かかりつけ医

日頃から親の健康状態を知っている、かかりつけ医も大切な相談先です。
 

認知症かどうかは、物忘れの様子だけで判断できません。

必要に応じて検査を受けたり、専門の医療機関を紹介してもらったりすることが考えられます。
 

親が受診を嫌がる場合には、家族が事前にかかりつけ医へ相談する方法もあります。

大切なのは、家族だけで診断しようとしないことです。
 

さいたま市には「もの忘れ検診」もあります

さいたま市では、認知症の早期発見・早期診断を目的として、「もの忘れ検診」を実施しています。

市が指定する医療機関で、認知機能の簡易的な検査を受けられる制度です。
 

2026年度の対象は、さいたま市在住で、年度内に65歳になる方を含む65歳以上の方など、所定の条件を満たす方です。

検診自体は年度内1回無料ですが、詳しい診断が必要になった場合は別途費用がかかることがあります。
 

また、この検診は認知症を確定診断するものではありません。

受診できる期間や医療機関、対象条件などは、さいたま市の公式ホームページで確認してください。
 

「少し気になるけれど、いきなり専門外来に行くのは抵抗がある」

そんな時に、知っておきたい制度の一つです。
 

親が「病院には行かない」と言ったら

物忘れを心配して受診を勧めても、親が嫌がることがあります。
 

「私は大丈夫」

「年寄り扱いしないで」

「そんな病院には行きたくない」
 

そんな反応があるかもしれません。
 

この時、無理に認知症という言葉を使って説得しようとすると、親子の関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。
 

例えば、
 

「最近、体調はどう?」

「いつもの先生に、健康のことを相談してみない?」

「薬のことも含めて、一度確認しておこうか?」
 

といった形で、健康についての相談から始める方法もあります。
 

もちろん、本人の気持ちや意思を尊重することが大前提です。

そして、どうしても受診につながらない場合は、家族だけで説得を続ける必要はありません。
 

さいたま市には、認知症の疑いがある方やその家族に対し、医療機関への受診やサービス利用などを支援する「認知症初期集中支援チーム」もあります。

利用については、シニアサポートセンターや区役所の高齢介護課に相談できます。
 

本人を無理に動かそうとする前に、家族が相談してみる。

それも大切な方法です。
 

相談する前に、家族が整理しておきたい3つのこと

初めて相談する時は、親の状況をうまく説明できないかもしれません。

そんな時は、簡単なメモを作っておくと安心です。

1.いつ頃から気になり始めたか?

「半年くらい前から同じ質問が増えた」

「最近、通院日を間違えることがある」

など、分かる範囲で構いません。

2.以前と比べて何が変わったか?

物忘れだけでなく、買い物、料理、服薬、金銭管理、外出など、暮らしの中で変化したことを書いておきます。

3.家族が一番心配していることは何か?

「一人暮らしを続けられるか?」

「薬をきちんと飲めているか?」

「本人が受診を嫌がっている?」
 

など、一番気になることを一つでも書き出してみてください。

完璧な資料を作る必要はありません。
 

「何となく心配」という気持ちを、少しだけ言葉にする。

それだけでも、相談の第一歩になります。
 

※ただし、急に意識や言動がおかしくなった場合や、ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないなどの症状が突然現れた場合は、通常の物忘れ相談を待たず、119番などで緊急の医療対応を求めてください。
 

認知症と診断されても、その人らしい暮らしは続いていきます

ここで、ぜひお伝えしたいことがあります。
 

認知症という言葉を聞くと、
 

「もう何も分からなくなってしまう」

「自分で何もできなくなる」

「これまでの暮らしが続けられなくなる」
 

そんなイメージを持つ方もいるかもしれません。
 

でも、認知症になったからといって、その人の人生が終わるわけではありません。
 

好きなこと。

大切にしている人。

長年続けてきた習慣。

自分で決めたいという気持ち。
 

そうしたものは、認知症になっても大切にされるべきものです。
 

家族として必要なのは、できないことを探して先回りすることだけではありません。

本人の気持ちを聞き、今できることを大切にしながら、必要な支援を一緒に考えていくことだと思います。
 

早めに相談することは、本人の自由を奪うためではありません。

これからも安心して暮らしていくための選択肢を増やすことです。
 

家族だけで抱え込まないことも、立派な介護準備

親の物忘れが気になり始めた時、家族はつい一人で考え込んでしまいます。
 

「認知症だったらどうしよう」

「仕事を続けられるだろうか?」

「これから誰が支えるのだろう」

「親には、どう伝えればいいのだろう」
 

まだ何も決まっていない段階だからこそ、不安が大きくなることもあります。
 

そんな時に大切なのは、すべての答えを家族だけで出そうとしないことです。
 

私は、さいたま市で親の介護準備や終活の前段階を整理するお手伝いをしています。
 

親の状況を整理する。

家族の不安を言葉にする。

親にどう話を切り出すかを一緒に考える。
 

そして、必要な時にはシニアサポートセンターや医療機関など、適切な相談先につながる。

そんな役割を、地域の中で担っていきたいと思っています。
 

今日からできる小さな一歩

今回の小さな一歩は、3つです。
 

1つ目
親の暮らしについて、以前と変わったことを一つ書き出してみる。

 

2つ目
親の住んでいる地域を担当するシニアサポートセンターを調べておく。

 

3つ目
もし気になる変化が続いているなら、かかりつけ医やシニアサポートセンターに相談してみる
。

 

物忘れが増えたからといって、すぐに認知症と決めつける必要はありません。
 

でも、「何か違う?」と感じているのに、家族だけで悩み続ける必要もありません。
 

早めに気づくこと。
本人の気持ちを大切にすること。
そして、早めに相談すること。

 

その小さな一歩が、親と家族のこれからの安心につながります。
 

親も子も、できるだけ笑顔で暮らし続けられるように。

まずは、一人で抱え込まず、地域の相談先につながるところから始めてみませんか?
 


参考・相談先(さいたま市公式)

・シニアサポートセンター(地域包括支援センター)

・認知症の症状や相談窓口について

・もの忘れ検診について

・認知症初期集中支援チームについて

 

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2026年09月23日 18:22

父を見送って 家族として経験した葬儀・納骨・相続の記録

第1回

第1回 父の葬儀を終えて

9月15日(火)午前6時44分、父が亡くなりました。

本当に、突然のことでした。
 

前日まで、父は特別養護老人ホームでいつもと変わらず過ごしていました。

私自身も、「このまま、あと3年、5年くらいは特養で生活していくのだろう」と、どこかで思っていました。
 

ところが、その翌日の早朝。

午前3時頃、父は特別養護老人ホームの自分の部屋で倒れました。
 

その後、午前5時頃に病院へ緊急搬送。

そして午前6時44分、帰らぬ人となりました。
 

虚血性心疾患による、まさに突然死でした。

あまりにも急な出来事で、気持ちの整理がつかないまま、そこから父を見送るための時間が始まりました。
 


「まさか、今日亡くなるとは」誰も思っていなかった

親が高齢になれば、「いつか別れの日が来る」ということは頭では分かっています。

父は介護施設で生活していましたし、これまで入院や体調の変化も経験してきました。
 

ですから、「父の死」というものを一度も考えたことがなかったわけではありません。

それでも、「まさか今日、父が亡くなるとは」思ってもいませんでした。
 

前日まで普通に生活していた父。

あと数年は施設で暮らしていると思っていた父。
 

その父が、数時間のうちに倒れ、救急搬送され、亡くなってしまう。

これが「突然死」なのだと、私は当事者になって初めて実感しました。
 

亡くなるということには、必ずしも「心の準備をする時間」があるわけではありません。

介護が長く続いたからといって、その先にゆっくりと看取りの時間が訪れるとも限らない。

今回の父の死は、そのことを私に強く教えてくれました。
 


父が亡くなる前から「葬儀社の方」とつながっていた

父が亡くなった直後、非常に助かったことがありました。
 

それは、「亡くなる前から葬儀社の方との人間関係ができていたこと」です。
 

人が亡くなると、悲しむ間もなく、さまざまなことを決める必要があります。
 

病院からどこへ搬送するのか?

葬儀をどのような形で行うのか?

火葬場はどうするのか?

死亡届などの手続きはどうするのか?
 

そして、それらを短い時間の中で次々と判断しなければなりません。
 

今回、以前からつながりのある葬儀社の方へ相談できたことで、病院からの引き取りから葬儀、火葬まで、必要なことを一つずつ教えていただきながら進めることができました。
 

もちろん、葬儀社の方にもさまざまなご配慮をいただいたと思います。
 

しかし何より、「いざという時、相談できる人がいる」ということ自体が、家族にとって非常に大きな安心につながりました。
 

私はこれまで終活について、「元気なうちから準備しておくことが大切です」とお伝えしてきました。

今回、自分自身がその当事者となり、葬儀社との「つながり」もまた、一つの終活なのだと実感しました。
 


初めて経験した「直葬」という見送り方

今回、父の葬儀は「直葬」という形を選びました。

通夜や一般的な告別式を行わず、家族を中心に故人と最後のお別れをし、火葬する形式です。
 

9月18日(金)16時から、家族で父を見送りました。
 

正直なところ、実際に経験する前には、
 

「直葬では少し寂しいのではないだろうか?」

「本当にきちんと父を見送れるのだろうか?」
 

という思いが、全くなかったわけではありません。
 

しかし実際に終えてみると、私の印象は変わりました。
 

家族だけで静かに父と向き合い、最後のお別れをする。

父の顔を見ながら、これまでのことを思い返す。

そして、感謝を伝えて送り出す。
 

葬儀社の方の配慮も大きかったと思いますが、私自身は、「直葬という見送り方も、十分にありだ」と感じました。
 

もちろん、どの葬儀の形が正しいということではありません。
 

一般葬、家族葬、直葬。
 

故人の希望、家族の考え方、宗教、親族との関係、費用などによって、選択はそれぞれ違います。
 

大切なのは、「どの形式を選んだか」以上に、「家族が納得して故人を送り出すことができたか?」なのかもしれません。
 


葬儀が終われば、すべてが終わるわけではない

9月18日、父の葬儀を無事に終えることができました。
 

これで一区切り。

そう思いたい気持ちもあります。
 

しかし、現実にはここからも多くのことが待っています。
 

現在、私たち家族が進めなければならない主なことだけでも、次のようなものがあります。

1.未支給年金・遺族年金の申請

父が亡くなるまでに受け取る権利があった未支給年金について確認し、あわせて母の遺族年金についても手続きを進める必要があります。

2.埋葬費などの申請

父が加入していた健康保険制度を確認し、対象となる給付について申請していきます。

3.納骨と四十九日法要

祖父と祖母が眠っている公園墓地のお墓があります。

父についても、できれば祖父母と同じお墓に納骨したいと考えています。

墓地への確認、納骨手続き、そして四十九日法要についても、これから進めていきます。

4.母の銀行口座の手続き

父亡き後、母自身のお金をどのように管理していくのかも、大きな課題です。

まずは、母名義の銀行口座について、キャッシュカードの発行など必要な手続きを確認していきます。

5.相続手続き

そして、相続です。
 

父にどのような財産や契約があったのか?

相続人は誰なのか?

どの手続きを、いつまでに行う必要があるのか?
 

形式上、一つひとつ確認していかなければなりません。
 

葬儀を終えれば終わりではありません。

むしろ、「家族としてのさまざまな手続きは、葬儀が終わってから本格的に始まる。」今、そう感じています。
 


「終活」は、余命が分かってから始めるものではない

私はこれまで、介護準備や終活について多くの方にお伝えしてきました。
 

しかし今回の経験で、改めて強く感じたことがあります。

それは、「終活は、死期が近づいてから始めるものではない」ということです。
 

父は前日まで普通に生活していました。

私も「あと数年は大丈夫だろう」と思っていました。
 

しかし、別れは突然やってきました。
 

だからこそ、
 

・もしもの時、どこへ連絡するのか?
・葬儀をどのようにしたいのか?
・お墓はどこなのか?
・年金や銀行口座はどうなっているのか?
・財産や契約はどこにあるのか?
・家族の誰が何を担当するのか?
 

こうしたことを、元気なうちから少しずつ家族で共有しておく。

それが、本当の意味での「終活」だということを、父の突然の他界、そして葬儀を通じて実感しました。
 


当事者になって初めて分かることを、記録していきたい

これまで私は、介護準備や終活を「伝える側」にいました。

父母の介護も経験してきました。
 

しかし今回、「父を突然亡くし、葬儀を行い、これから納骨・年金・銀行・相続などの手続きを進めていく側」になりました。
 

これまで知識として分かっていたことと、実際に家族として経験すること。

そこには、やはり違いがあります。
 

分かっていたつもりでも、当事者になって初めて分かることがあります。

だからこそ、今回の経験を記録として残していこうと思いました。
 

この連載では、「父を見送って――家族として経験した葬儀・納骨・相続の記録」として、これから実際に経験していくことを綴っていきます。
 

制度の説明だけではなく、
 

「実際に何に困ったのか?」

「何をしておいて良かったのか?」

「もっと準備しておけば良かったことは何か?」
 

そうしたことも、できるだけ率直に書いていきたいと思っています。
 

同じように高齢の親を持つ方。

介護をしている方。

そして、「親はまだ元気だから大丈夫」と思っている方にも、何か一つでも届くものがあればと思います。
 

父を見送ってから、まだ数日。

気持ちの整理も、すべてできているわけではありません。
 

それでも一つひとつ、家族として必要なことを進めながら、

今回の経験を、これからの私自身の「介護準備」と「終活」の活動にもつなげていきたいと思います。

2026年09月20日 11:35

【第5回】介護保険があっても、すべての費用が賄えるわけではない

第5回

全20回連載 「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」

親の介護、自分たちの介護、仕事とお金―50代・60代が今から考えたい20の現実

「介護保険があるから、何とかなる」と思っていませんか?

親の介護についてお話ししていると、「日本には介護保険があるから、そんなに大きなお金はかからないのでは?」という声を聞くことがあります。
 

確かに、公的介護保険は、私たちが介護に直面したときの非常に重要な制度です。

訪問介護、デイサービス、福祉用具、ショートステイ、施設サービスなど、さまざまな支援を一定の自己負担で利用することができます。
 

しかし、ここで知っておきたいことがあります。

介護保険があるからといって、介護に関係するすべての費用が保険で賄われるわけではありません。
 

この点を知らないまま老後資金計画を立ててしまうと、「思っていたよりお金がかかる」ということが起こる可能性があります。
 

介護保険サービスは原則1割、所得によって2割・3割負担

厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」によると、介護保険サービスを利用した場合、利用者は原則としてサービス費用の1割を負担します。

一定以上の所得がある方は、2割または3割負担となります。
 

例えば、介護保険の対象となるサービスを1万円分利用し、1割負担であれば、利用者が支払う介護サービス費は1,000円です。
 

ここだけを見ると、「やはり介護保険があれば安心」と思うかもしれません。
 

しかし、大切なのはここからです。

この1割、2割、3割という数字は、「介護生活に必要となるすべてのお金の1~3割」という意味ではありません。

あくまでも、介護保険の給付対象となるサービス費用に対する自己負担です。
 

【引用・参考】
厚生労働省 介護サービス情報公表システム
「サービスにかかる利用料」

URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
 

施設に入れば「介護サービス費」以外のお金も必要になります

分かりやすい例が、介護施設です。
 

厚生労働省によると、介護保険施設を利用する場合には、介護サービス費の1~3割負担のほかに、
 

・居住費
・食費
・日常生活費
 

などの負担が必要になります。
 

例えば特別養護老人ホームでも、「介護保険だから1割だけ払えばよい」というわけではありません。
 

部屋で生活するための居住費。

毎日の食事にかかる食費。

さらに施設によっては、理美容などの日常生活上の費用も生じます。
 

厚生労働省の資料でも、施設サービス利用時には、介護給付の自己負担とは別に「居住費」「食費」「日常生活費」が利用者負担として示されています。
 

【引用・参考】
厚生労働省 「介護保険給付における利用者負担」

URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001512845.pdf
 

特別養護老人ホームでも「部屋と食事」は別に考える

厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、特別養護老人ホームの利用者負担についても、
 

①施設サービス費 に加えて、

②居住費・食費
 

が示されています。
 

居住費については、個室、多床室など居室の種類によっても異なります。

食費については、食材料費と調理費が利用者負担となります。
 

つまり、同じ「施設介護」であっても、どの施設、どの居室を選ぶかによって家計への影響は変わるということです。
 

【引用・参考】
厚生労働省 介護サービス情報公表システム
「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」

URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group14.html
 

在宅介護にも「介護保険で利用できる上限」があります

では、「施設ではなく、自宅で介護すれば介護保険で何とかなるのでは?」と思われるかもしれません。
在宅介護にも知っておきたい仕組みがあります。
 

居宅サービスには、要介護度に応じて1カ月に介護保険で利用できるサービスの「支給限度額」が設定されています。
 

厚生労働省の公表システムでは、例えば、
 

要介護1 167,650円
要介護2 197,050円
要介護3 270,480円
要介護4 309,380円
要介護5 362,170円
 

となっています。
 

限度額の範囲内であれば、原則1~3割負担です。

しかし、支給限度額を超えてサービスを利用した場合、超えた部分は全額自己負担になります。
 

介護状態が重くなったり、家族だけでは対応が難しくなったりすると、「もう少しサービスを増やしたい」ということもあるでしょう。

そのとき、「介護保険だから何でも1割負担」ではないことを知っておく必要があります。
 

【引用・参考】
厚生労働省 介護サービス情報公表システム
「サービスにかかる利用料」

URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
 

「介護保険の対象外となる費用」もあります

厚生労働省の介護サービス概算料金の案内にも、利用するサービスによって、「食費や居住費など、介護保険適用外の費用が必要になる」ことが明記されています。
 

また、実際の費用は、
 

・利用する施設や事業所
・地域
・要介護度
・利用するサービス内容
 

などによって変わります。
 

つまり、「要介護3だから毎月○万円」のように単純に決められるものではありません。
 

【引用・参考】
厚生労働省 介護サービス情報公表システム
「介護サービスにかかる概算の料金を知りたい」

URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/help/page6.html
 

さらに「家族側で発生するお金」があります

ここからが、私がミドルシニア世代の方に特に考えていただきたいところです。
 

介護保険制度の自己負担額だけを計算しても、介護による家計への影響をすべて把握することはできません。
 

例えば、親が遠方に住んでいれば、
 

実家へ行くための電車代

新幹線代

高速道路代

ガソリン代

場合によっては宿泊費

病院や施設へ行くための交通費
 

こうした費用が家族側に発生する可能性があります。
 

親の入退院や介護サービスの調整のために仕事を休めば、働き方によっては収入にも影響するかもしれません。

つまり、子世代から見ると、「親本人にかかる介護費用」と、「介護する家族側に発生する費用」の両方を見る必要があるのです。
 

「お金」だけでなく「時間」も家計に影響します

介護で見落としやすいのが、「時間のコスト」です。
 

例えば、

平日に親の病院へ付き添う。

ケアマネジャーとの打ち合わせに参加する。

介護認定の手続きをする。

施設を探す。

急な呼び出しに対応する。

実家へ何度も通う。
 

こうしたことには時間が必要です。
 

会社員であれば、
 

有給休暇

介護休暇

介護休業

短時間勤務

テレワーク
 

などを活用できる場合があります。
 

しかし、制度を知らず、「自分が全部やらなければ」と思い込んでしまうと、仕事を辞めるという判断につながる可能性があります。
 

そして介護離職をしてしまえば、介護費用の問題に加えて、「自分自身の収入が大きく減る」という問題まで発生します。
 

私は、ここが介護と老後資金を考えるうえで非常に重要だと思っています。
 

負担が高くなった場合の制度も知っておきたい

一方で、「こんなに費用があるなら、とても払えない」と必要以上に不安になる必要もありません。
 

介護サービスの自己負担が高額になった場合には、「高額介護サービス費」という負担軽減制度があります。
 

所得に応じて月々の自己負担額に上限が設けられ、対象となる介護サービス費の自己負担が上限を超えた場合には、その超過分が支給されます。
 

ただし、
 

食費

居住費

福祉用具購入費など
 

一部の費用は高額介護サービス費の対象外です。
 

「上限制度がある=すべての介護費用に上限がある」というわけではない点にも注意が必要です。
 

【引用・参考】
厚生労働省 介護サービス情報公表システム
「サービスにかかる利用料/高額介護サービス費」

URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
 

低所得の方には食費・居住費の負担軽減制度もあります

介護施設やショートステイを利用する低所得の方については、一定の条件を満たした場合、食費や居住費の負担を軽減する仕組みもあります。
 

厚生労働省の資料では、介護保険施設やショートステイについて、「補足給付」による居住費・食費の軽減が示されています。
 

大切なのは、「介護は全部自費」と考えることでも、「介護保険が全部払ってくれる」と考えることでもありません。
 

どこまで制度が使えて、どこから自己負担になるのかを確認することです。
 

制度は活用する。

でも制度だけに頼り切らない。
 

この両方の視点が必要です。
 

【引用・参考】
厚生労働省
「介護保険給付における利用者負担」

URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001512845.pdf
 

「親の介護費」と「自分の家計」を分けて考える

そして、もう一つ大切なことがあります。
 

それは、「親の介護費用を、最初から自分たち夫婦の財布で負担しないこと」です。
 

もちろん、家族ですから、必要に応じて援助することもあるでしょう。
 

しかし、
 

親に年金がいくらあるのか?

預貯金はいくらあるのか?

保険はあるのか?

どのくらいの施設費までなら負担できるのか?
 

こうしたことを確認しないまま、子どもが次々と費用を立て替えていくことは避けたいところです。
 

親の介護費用は、まず親自身の収入や資産を基本として考える。
 

そのうえで不足する場合には、
 

家族としてどこまで支援するのか?

兄弟姉妹でどのように分担するのか?
 

を話し合う。
 

この順番が、自分たちの老後資金を守ることにつながります。
 

今日からできること――介護費用を「3つの財布」に分ける

親が元気な今のうちに、介護に関するお金を次の3つに分けて考えてみてください。
 

① 介護保険が適用されるサービス費

訪問介護

デイサービス

ショートステイ

施設サービス

福祉用具など
 

そのうち本人の負担は何割なのかを確認します。

② 介護保険だけでは賄えない費用

施設の居住費

食費

日常生活費

支給限度額を超えたサービス

介護保険適用外のサービスなど

③ 家族側に発生する費用・影響

実家までの交通費

宿泊費

病院や施設への移動費

仕事を休むことによる影響

一時的な立て替え
 

まず、この3つに分けるだけでも、「介護にいくらかかるのか分からない」という漠然とした不安が、少し具体的になります。
 

「介護保険があるから安心」から「制度を使いながら備える」へ

介護保険は、とても重要な社会保障制度です。

この制度があるからこそ、家族だけで介護を抱え込まず、専門職や介護サービスの力を借りることができます。
 

ですから、介護保険に不安を持ってほしいわけではありません。
 

むしろ、「介護保険を正しく知って、最大限活用してほしい」と思っています。
 

ただし、介護保険だけですべてのお金が賄えるわけではありません。
 

だからこそ、親が元気なうちに、
 

どこで暮らしたいのか?

どのくらいの年金や資産があるのか?

誰がどのように支えるのか?

自分たちは仕事をどう続けるのか?
 

を整理しておくことが重要なのです。

老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。
 

そのためには、「制度があるから大丈夫」ではなく、「制度を上手に使いながら、制度で賄えない部分にも備える」という視点を持つことが大切です。
 

次回予告

第6回は、「親の介護費は、誰が払うべきなのか?」をテーマにお伝えします。
 

親の介護費用は、子どもが負担するものなのでしょうか?

親自身の年金や預貯金は、どこまで介護に使うべきなのでしょうか?

兄弟姉妹がいる場合、費用負担は平等にすべきなのでしょうか?
 

第6回からは、「中流家庭の家計が、介護によってどのように弱っていくのか?」という第2部に入ります。

まずは、介護費用の「誰が払うのか問題」から考えていきます。
 

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「介護と老後資金」を一度整理してみませんか?

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介護保険は大切な制度です。
 

しかし、介護保険だけですべての費用が賄えるわけではありません。
 

親の年金や資産

介護保険で利用できるサービス

保険外となる費用

仕事への影響
 

そして、自分たち自身の老後資金

これらを一度整理しておくことが大切です。
 

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2026年09月14日 11:21

想定外の介護|第8回「自分で飲んでいる」と言う母に、毎回の服薬確認が必要だった

第8回

薬は置いておけば飲める、ではなかった。

※この記事は、私自身の母の介護経験をもとに、本人の尊厳と個人情報に配慮しながら構成しています。服薬方法や薬の種類、服用回数は人によって異なります。
 


「薬くらいは、自分で飲める」と思っていた

親の介護について考える時、皆さんはどんな場面を想像するでしょうか?
 

歩くのを手伝う。

トイレへ付き添う。

食事を用意する。

お風呂に入るのを手伝う。
 

私も以前は、そんな「目に見える介助」を介護だと思っていたところがありました。
 

その中で、薬については、「本人の前に置いておけば、自分で飲めるだろう」と安易に考えていました。
 

実際、母も以前は自分で薬を飲んでいました。

ですから、まさか家族が、
 

「朝の薬は飲んだ?」

「昼の薬はまだだよ」

「これは夜に飲む薬だよ」
 

と、毎回確認することになるとは思っていませんでした。
 

これも、私にとっては「想定外の介護」でした。
 


母は「薬を飲めない」わけではなかった

ここが、介護の分かりにくいところだと思います。
 

母は、薬そのものを飲めないわけではありませんでした。
 

錠剤を口に入れる。

水で飲み込む。

その行為自体はできる。
 

一見すると、「だったら一人で大丈夫なのでは?」と思います。
 

しかし、問題はそこではありませんでした。
 

母にとって難しくなっていたのは、「いつ、どの薬を飲むのかを自分で管理すること」でした。
 

朝なのか?

昼なのか?

夜なのか?

もう飲んだのか?

まだ飲んでいないのか?
 

そうした一日の流れを自分だけで管理することが、少しずつ難しくなっていたのです。
 


朝・昼・晩——家族の確認が必要になった

母には、朝・昼・晩と薬を飲むタイミングがありました。
 

すると家族にも、
 

朝

昼

晩
 

それぞれに確認する時間が生まれます。
 

「朝の分は飲んだ?」

「昼の薬はこれだよ」

「夜の薬はまだだからね」
 

服薬そのものは、数分で終わるかもしれません。
 

でも、その数分が一日に何度もあります。
そして翌日も。

その次の日も。

毎日続きます。
 

家族が付き添っていた時には、こうした確認が常に必要でした。
 

そこで初めて、「服薬管理も立派な介護なのだ」と実感しました。
 


「飲んだよ」と言われても、本当に飲んだか分からない

さらに難しいのは、本人の言葉だけでは確認できないことがあるという点です。
 

「薬、飲んだ?」と聞く。
 

母は、「飲んだよ」と答える。
 

でも、本当に飲んだのか?

朝の薬だったのか?

昼の薬だったのか?

いつ飲んだのか?
 

分からないことがあります。
 

本人が嘘をついているわけではありません。

本人自身は、本当に飲んだと思っていることもあります。

逆に、すでに飲んでいるのに、「まだ飲んでいない」と思ってしまうこともあり得ます。
 

私はこの経験から、「本人が大丈夫と言っている」と「実際に大丈夫」は、同じではないことがあると知りました。
 


薬をケースに分ければ解決、でもなかった

朝・昼・晩で薬を分けるケースがあります。

一週間分を曜日ごとに整理することもできます。
 

もちろん、こうした工夫はとても役立ちます。
 

ただ、母の場合には、「薬が分かれていること」と、「その時間に正しく飲めること」は、別の問題でした。
 

今日は何曜日なのか?

今は朝なのか昼なのか?

すでに飲んだのか?
 

その確認が必要になる。
 

つまり、道具で整理するだけでは補えない部分がありました。
 


「服薬管理」という言葉の意味が変わった

それまで私がイメージしていた服薬管理は、
 

薬を整理すること。

薬をなくさないこと。

飲む時間を間違えないようにすること。
 

その程度でした。
 

でも母の介護を経験して、意味が変わりました。
 

時間になったら声をかける。

薬を渡す。

飲んだことを確認する。

次の薬の時間まで把握しておく。
 

場合によっては、本人が嫌がらないように伝え方にも配慮する。
 

つまり、「薬そのものではなく、その人の生活全体を見ながら支えること」が服薬管理だったのです。
 


「数分だから大したことはない」と思うかもしれない

一回の服薬確認には、それほど長い時間はかかりません。

数分で終わる場合もあるでしょう。
 

だから、「そんなに大変なことではないのでは?」と思うかもしれません。
 

でも、介護には、この「数分」がたくさんあります。
 

薬を確認する数分

トイレへ声をかける数分

着替えを手伝う数分

食事を確認する数分
 

一つひとつは小さい。でも、それが朝から夜まで続きます。

そして毎日続きます。
 

介護の負担は、大きな介助を何時間するかだけではなく、「小さな確認に、一日を細かく区切られていくこと」にもあるのだと思います。
 


家族の外出にも「薬の時間」がついてくる

母の服薬を家族が確認していた頃、外出する時にも薬のことが頭にありました。
 

昼の薬はどうするか?

夕方までに帰れるか?

誰かが代わりに確認できるか?
 

ほんの数分の服薬確認でも、「その時間に誰かが必要」となれば、家族の行動に影響します。
 

介護が始まる前には、私はそこまで想像していませんでした。
 

「薬を飲んでもらう」という一つの出来事ではなく、家族の一日の予定にも薬の時間が組み込まれていく。

これも、実際に経験して初めて分かったことでした。
 


できることと、できなくなったことが混在する

高齢者の介護では、何もかも突然できなくなるわけではありません。
 

ここも大切な点だと思います。
 

母は会話ができる。

食事もできる。

薬も自分で飲み込める。
 

だから、一見すると自立しているように見える。
 

でも、朝・昼・晩の服薬を管理することは難しい。

こうして、「できることと、できないことが同時に存在する」ことがあります。
 

家族にとっては、これが非常に分かりにくい。

「これができるなら、あれもできるだろう」と思ってしまうからです。
 

でも実際には、能力は一律に低下するわけではありません。

そこに、介護の想定外があります。
 


「自分でできる」と言う親の気持ちも大切にしたい

一方で、親からすれば、「薬くらい自分で飲める」と思いたい気持ちもあるでしょう。
 

今までずっと、自分のことは自分でやってきた。
 

子どもに何度も、「薬は飲んだ?」と聞かれる。
 

本人にとっては、「子ども扱いされている」と感じることもあるかもしれません。
 

介護では、必要な確認と、本人の自尊心の間で家族が悩むことがあります。
 

確認しなければ心配。

でも確認しすぎれば、本人が嫌がる。
 

ここにも、答えが一つではない介護の難しさがあります。
 


「薬の飲み忘れ」は、家族から見えにくい

転倒すれば、すぐ分かります。

けがをすれば分かります。

体調が大きく悪化すれば、周囲も気づきます。
 

でも薬の飲み忘れは、静かに起こります。
 

朝の薬が残っている。

昨日の薬がある。

薬の数が合わない。
 

最初は、そんな小さな変化かもしれません。
 

本人も困っている自覚がない場合があります。

家族も、「年だから少しくらい忘れることもある」と思うかもしれません。
 

でも、それが、一人で服薬管理することが難しくなっているサインの場合もあります。
 


介護は、大きな事件だけで始まるわけではない

この連載ではこれまで、
 

病気で入院したこと。

自宅へ戻れなくなったこと。

緊急搬送されたこと。

排せつが難しくなったこと。

入浴を拒否したこと。
 

などを書いてきました。
 

これらに比べると、「朝・昼・晩の薬を確認する」という話は、とても地味に見えるかもしれません。
 

でも私は、こうした小さな変化の積み重ねも、まさに介護だと思っています。
 

介護は、救急車が来た日から始まるとは限りません。
 

薬を忘れるようになった。

一人で買い物へ行けなくなった。

トイレの回数が変わった。

同じことを何度も聞くようになった。
 

そうした日常の小さな変化から、すでに始まっていることがあります。
 


「うちの親は自分で薬を飲んでいる」その先を見る

読者の皆さんの親御さんは、今どのように薬を管理していますか?

本人が自分で飲んでいるでしょうか?
 

それなら、少しだけその先を見てみてもいいかもしれません。
 

何の薬を飲んでいるのか?

一日何回なのか?

朝・昼・晩の区別はできているか?

飲み忘れはないか?

薬が余っていないか?

家族は薬の内容を知っているか?

お薬手帳がどこにあるか知っているか?
 

「自分で飲んでいる」という言葉だけでは、分からないことがあります。
 

母の経験を通じて、私はそのことを知りました。
 


「そんなことも介護になるんだ」と知ってほしい

この連載で、不安を煽りたいわけではありません。

親の行動を常に疑ってほしいわけでもありません。
 

伝えたいのは、「そんなことも介護になるんだ」ということです。
 

薬を飲むという、ごく普通の日常。
 

それも、高齢になり生活力や認知機能が変化すると、誰かの支えが必要になることがあります。
 

そして、その支えは、
 

朝

昼

晩
 

毎日の生活の中に入ってきます。
 

私自身、母を介護するまで、そこまで具体的には想像していませんでした。
 

だからこそ、「まだうちの親は元気」と思っている方にも、この現実を知っていただけたらと思っています。
 

私が作成した「親が倒れる前の介護準備チェックシート」にも、「親が飲んでいる薬・お薬手帳の場所を把握している」という項目を入れています。
 

今すぐ深刻な話をする必要はありません。
 

まずは、「お母さん、薬って今、一日何回飲んでいるの?」
 

そんな何気ない会話からでもいいのではないでしょうか?


▼親が倒れる前の介護準備 簡易診断アプリはこちらから
 

▼親が倒れる前の介護準備チェックシートはこちらから
 

▼親の介護や介護準備が気になっている方はこちらをご覧ください。
 

2026年09月11日 18:39