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【第2回】あなたの老後資金計画に「親の介護費用」は入っていますか?

第2回

全20回連載 
「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」

親の介護、自分たちの介護、仕事とお金―50代・60代が今から考えたい20の現実

■老後資金は考えていても、「親の介護費用」は考えていない?

50代、60代になると、自分たちの老後について考える機会が増えてきます。
 

「年金はいくらもらえるのだろう?」

「退職金はいくら残るだろう?」

「老後の生活費はいくら必要だろう?」

「NISAなどでもう少し資産を増やした方がよいだろうか?」
 

こうしたことを考えたり、老後資金のシミュレーションをしたりしたことがある方も多いと思います。
 

ところが、ここで一つ質問があります。
 

その老後資金計画に、「親の介護費用」は入っているでしょうか?


さらに言えば、自分の両親だけではありません。
 

結婚している方であれば、
 

・自分の父親
・自分の母親
・配偶者の父親
・配偶者の母親
 

最大4人の親について、介護が必要になる可能性があります。
 

もちろん、4人全員に介護が必要になるとは限りません。
 

また、親の介護費用をすべて子どもが負担するという意味でもありません。
 

しかし、50代、60代のライフプランを考えるのであれば、「親の介護によって、自分たち夫婦のお金と働き方に何が起こる可能性があるのか?」という視点は、最初から入れておく必要があると私は考えています。

■介護は、決して一部の家庭だけの問題ではありません

総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年時点で介護をしている人は約629万人。

そのうち、仕事を持っている人は約365万人です。
 

つまり、多くの人が、「仕事をしながら家族の介護をする。」という状況に置かれています。
 

私たちが老後資金について考える50代・60代は、同時に親の高齢化が進む時期でもあります。
 

自分たちの老後を準備しなければならない。

でも、親の介護にも対応しなければならない。
 

ここに、ミドルシニア世代特有の難しさがあります。
 

【引用・参考】
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf


■「親のお金だから大丈夫」とは限らない

本来、親の介護に必要なお金は、まず親自身の年金や預貯金などから支払うことを基本に考えることが大切です。
 

しかし、実際に介護が始まったとき、
 

「親の年金額を知らない。」

「預貯金がどのくらいあるのか分からない。」

「どこの銀行に口座があるのか知らない。」

「生命保険に入っているのか分からない。」

「施設に入ることになったら、いくらまでなら払えるのか分からない。」
 

という家庭は珍しくありません。
 

親が元気なうちは、お金のことを聞くのに抵抗を感じる方も多いでしょう。
 

しかし、何も分からない状態で突然介護が始まると、目の前の支払いを子どもが一時的に立て替えることも起こり得ます。

交通費、入院用品、介護用品、施設探し、実家との往復...。
 

一つ一つはそれほど大きな金額ではなくても、長期間続くことで自分たちの家計に影響していきます。

■介護費用は「月々のサービス利用料」だけではありません

生命保険文化センターの2024年度調査によると、介護経験者が負担した介護の一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円でした。

介護期間は平均4年7カ月となっています。
 

また、介護を行った場所によっても費用は異なり、月々の平均費用は、
 

在宅 5.3万円
施設 13.8万円
 

となっています。
 

ただし、この数字を見て、
 

「9万円×55カ月だから約500万円」

「それが親4人だから約2,000万円」
 

などと単純に計算することは適切ではありません。
 

介護期間、要介護度、在宅か施設か、親本人の年金や資産、公的制度の利用状況などによって、実際の負担は大きく異なるからです。
 

重要なのは、「平均でいくらかかるか?」だけではありません。
 

自分の家庭では、「誰に介護が必要になったとき、誰のお金を使い、どのように対応するのか?」を考えておくことです。


【引用・参考】
公益財団法人 生命保険文化センター
「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html

■問題は「介護費用」だけではなく「自分の収入」です

ここが、私が特にお伝えしたいところです。
 

親の介護による家計への影響を考えるとき、「介護にいくら払うのか?」ばかりを考えてはいけません。
 

もう一つ考えなければならないのが、「介護によって、自分の収入がどう変化するか?」です。
 

例えば、50代の会社員が親の介護に直面したとします。
 

親の通院同行のために有給休暇を取る。

ケアマネジャーとの打ち合わせのために早退する。

急な入院で仕事を休む。

遠距離介護で週末ごとに実家へ帰る。

残業や出張が難しくなる。

転勤を断る。

管理職を続けることが難しくなる。
 

そして最悪の場合、「もう仕事と介護を両立できない。」と会社を辞めてしまう。
 

すると、介護費用という「支出の増加」と、給与という「収入の減少」が、同時に起こることになります。


これが、親の介護を老後資金計画に入れておかなければならない最大の理由の一つです。

■自分の老後資金を準備する時期と、親の介護が重なる

50代は、本来であれば老後資金を最後に積み上げていきたい大切な時期です。
 

住宅ローンを終わらせる。

子どもの教育費が一段落する。

退職までの10年ほどで預貯金を増やす。

NISAなどを活用して資産形成を続ける。

定年後の働き方について考える。
 

ところが、その大切な時期に親の介護が始まり、「お金を積み立てる時期」から、「お金を取り崩す時期」へ突然変わってしまう可能性があります。
 

さらに、働き方まで変われば、老後資金計画そのものを見直さなければならなくなります。
 

だから私は、親の介護を「親だけの問題」として考えるのではなく、「自分たち夫婦のライフプランの一部」として考える必要があると思っています。

■介護する側も高齢化しています

2025年の厚生労働省「国民生活基礎調査」では、要介護者等と同居する主な介護者について、「要介護者と介護者がともに60歳以上」という組み合わせが79.0%でした。

「ともに65歳以上」も61.9%です。
 

介護する側自身も高齢化しているということです。

親の介護が長期化すれば、「親の介護をしていたら、自分自身も高齢者になっていた」ということも十分に考えられます。
 

そして親の介護が終わった後には、今度は、
 

自分自身の介護。

配偶者の介護。
 

という問題が待っているかもしれません。
 

だからこそ、老後資金計画を考えるときには、「自分たち夫婦の生活費」だけではなく、親の介護から自分たちの介護までを、一つの時間軸で考えていく必要があります。
 

【引用・参考】
厚生労働省
「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf

■大切なのは「親4人分のお金を準備すること」ではありません

ここまで読むと、「親4人の介護費用まで自分たちで準備しなければいけないのか?」と不安になる方もいるかもしれません。
 

そうではありません。
 

私がお伝えしたいのは、「子どもが親4人分の介護費用を貯めましょう。」という話ではありません。

むしろ逆です。
 

親の介護によって自分たちの老後資金を失わないために、親が元気なうちに、
 

・親自身の年金や資産を確認する
・どこで暮らしたいのかを聞く
・介護が必要になったときの希望を聞く
・兄弟姉妹の役割を話し合う
・費用を誰がどこまで負担するのか考える
・自分の勤務先の介護支援制度を確認する
 

こうした準備をしておくことが重要なのです。
 

つまり、「介護費用を準備する」だけではなく、「介護で自分たちの家計を壊さない仕組みを準備する」ということです。

■私自身、両親の介護に直面して感じたこと

私自身、両親の介護に直面して、改めて感じたことがあります。
 

親が元気なときには、「そのときになったら考えればいい」と思ってしまいがちです。

しかし、実際に入院や介護が始まると、短期間にさまざまな判断を求められます。
 

病院への対応。

介護認定。

介護サービス。

住まい。

お金。

仕事の調整。

家族との役割分担。
 

こうしたことが一度にやってきます。
 

その状態になってから、
 

「お父さん、預金はいくらあるの?」

「お母さん、施設に入りたい?」

「兄弟で誰がいくら負担する?」
 

と話し合うのは、簡単ではありません。
 

だからこそ、「まだ介護なんて必要ない」と思える時期に話を始めることが、とても大切なのだと感じています。

■今日からできること――「4人の親」を書き出してみる

今日、ぜひ一度やっていただきたいことがあります。
 

紙を1枚用意して、
 

自分の父
自分の母
配偶者の父
配偶者の母
 

を書き出してみてください。
 

そして、それぞれについて、
 

① 年齢

② 現在の健康状態

③ 一人暮らしか、夫婦暮らしか?

④ 年金や預貯金について家族が把握しているか?

⑤ 介護が必要になった場合、誰が最初に対応しそうか?

⑥ 在宅・施設など、本人の希望を聞いたことがあるか?
 

を確認してみてください。
 

すべて「分からない」でも構いません。
 

大切なのは、「自分が何を知らないのか?」に気づくことです。
 

それが、介護準備のスタートになります。

■老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる

老後資金計画というと、
 

「いくら貯めるか?」

「何%で運用するか?」
 

という話になりがちです。
 

もちろん、それも大切です。
 

しかしその前に、
 

親の介護による支出。

介護による自分の収入減少。

そして、その後に訪れる自分と配偶者の介護。
 

ここまで含めて考えて初めて、本当の意味での老後資金計画になるのではないでしょうか?
 

老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。

この視点を、50代・60代の方にぜひ持っていただきたいと思っています。

■次回予告

第3回は、「親4人、自分たち夫婦2人――最大6人の介護をどう考えるか?」をテーマにお伝えします。

「親の介護が終われば安心」というわけではありません。

その先にある自分自身と配偶者の介護まで含めて、人生後半の介護をどのように捉えればよいのかを考えていきます。
 

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2026年08月09日 17:38

想定外の介護|第5回退院が見えてきた父に、朝・昼・晩3回のインスリン注射が必要になった

第5回

病気は落ち着いたのに、自宅に戻れなくなった想定外

※この記事は、私自身の父の介護経験をもとに、本人の尊厳と個人情報に配慮しながら構成しています。
 治療内容や経過はあくまで父の場合であり、病状や治療方法は一人ひとり異なります。
 


「ようやく退院できる」——そう思った矢先でした

父が間質性肺炎で入院した時のことです。

入院当初は、もちろん父の病状が一番の心配でした。
 

このまま良くなるのだろうか?
どのくらい入院するのだろうか?
また以前のような生活に戻れるのだろうか?
 

そんなことを考えながら、病状の経過を見守っていました。
 

そして治療が進み、間質性肺炎の状態が落ち着いてきました。
 

やがて、退院の話も出始めました。
 

私は、「良かった!これで父はようやく家に帰れる。」と、正直ほっとしました。
 

ところが、その安心は長く続きませんでした。

退院後の生活について話を進めていく中で、思ってもいなかった問題が出てきたのです。
 


入院前は、糖尿病を内服薬で管理していた

父には糖尿病の持病がありました。

ただ、間質性肺炎で入院する前までは、糖尿病については内服薬で管理していました。
 

ですから私の中では、「糖尿病は以前からある持病」という認識はあっても、それが父の退院先を左右するような問題になるとは考えていませんでした。
 

ところが、間質性肺炎の治療ではステロイド系の薬が使われました。

父の場合、その治療を経て、血糖管理の方法が大きく変わりました。
 

退院後は、朝・昼・晩、1日3回のインスリン注射が必要になったのです。
 

私は、その話を聞いて戸惑いました。
 

間質性肺炎は落ち着いた。
退院も見えてきた。
 

なのに今度は、別の問題が出てきた。
 

しかも、それまでとはまったく違う生活上の問題でした。
 


「1日3回の注射」が、自宅に帰ることを難しくした

朝。

昼。

晩。
 

毎日3回のインスリン注射。
 

この「3回」という言葉を聞いた時、私は初めて現実を考えました。
 

自宅に戻った場合、誰が対応するのか?
朝だけなら、何とかなるかもしれない。
夜だけなら、家族が帰宅してから対応できるかもしれない。
 

しかし、昼があります。
 

私も含め、家族には仕事があります。
 

毎日、朝・昼・晩と父のそばにいて、必要な対応を続けることは、私たち家族にとって現実的ではありませんでした。
 

それまで私は、「病気が治まれば退院して、自宅に戻る。」という流れを、どこか当たり前のように考えていました。
 

でも、その当たり前が崩れました。
 

父は退院できる状態に近づいている。

なのに、自宅には戻せない。
 

この矛盾したような状況が、私には大きな想定外でした。
 


病気が良くなったのに、元の生活には戻れなかった

ここは、今振り返っても強く印象に残っています。
 

「病状が落ち着きました」
 

本来なら、家族にとって嬉しい言葉です。
私もそうでした。
 

でも、病気が良くなることと、以前の生活に戻れることは、同じではありませんでした。
 

父の場合、間質性肺炎そのものは落ち着いてきた。
 

けれど、その治療を経たことで糖尿病の管理方法が変わった。

そして、その新しい医療上の条件によって、自宅での生活が難しくなった。
 

一つの病気を治療する。

その結果、別の持病への対応が変わる。

その変化が、退院後の暮らし方まで変えてしまう。
 

そんなことが起きるとは、私は想像していませんでした。
 


病院のケースワーカーに相談することになった

では、父は退院後、どこで暮らすのか?

ここから、また新しい問題が始まりました。
 

自宅には戻れない。

しかし、病院にはずっと入院していられるわけではない。
 

私は病院のケースワーカーの方に相談しました。
 

父の状態。
糖尿病の管理。
インスリン注射。
家族の生活。
退院後に必要になる支援。
 

そうしたことを一つずつ整理していきました。
 

最終的に、私たち家族にとって現実的な選択肢となったのが、介護付き有料老人ホームへの入居でした。

これも、まったく想像していなかった展開です。
 

入院する前の父は、自宅で生活していました。
 

私も、「病院で治療して、良くなれば家に帰る」と思っていました。
 

それが、入院 → 治療 → 退院 → 自宅ではなく、

入院 → 治療 → 退院 → 介護施設

になったのです。
 

介護施設を探すことになるとは、入院した時には想像すらしていませんでした。
 


「退院」は、必ずしも「家に帰ること」ではない

この経験から、私は「退院」という言葉の受け止め方が変わりました。
 

以前の私は、
 

退院=良くなった
退院=家に帰る
退院=元の生活に戻る
 

というイメージを持っていました。
 

でも、高齢の親の場合、必ずしもそうではありません。
 

病気そのものは治療できても、
 

歩く力が落ちているかもしれない。

排せつに支援が必要になっているかもしれない。

服薬管理ができなくなっているかもしれない。

医療的な対応が増えているかもしれない。

認知面が変化しているかもしれない。
 

そして父のように、持病の管理方法そのものが変わることもある。
 

「退院できます」と言われて初めて、「では、退院した後はどこで、どう暮らすのか?」という、もう一つの現実が始まることがあります。
 


持病があることで、想定外が重なっていく

父には、間質性肺炎になる以前から、糖尿病という持病がありました。
 

今回私が強く感じたのは、高齢の親に複数の病気や持病がある場合、一つだけを見ていてはいけないということです。
 

間質性肺炎がどうなるか?
一命を落とすことはないのか?
 

当初、私の頭の中にあったのは主にそこでした。
 

でも実際には、
 

間質性肺炎を治療する。

治療によって血糖管理が変わる。

インスリン注射が必要になる。

本人(私)だけでは対応が難しい。

家族が在宅で支えることも難しい。

自宅への退院が難しくなる。

退院先として介護施設を探す。
 

と、次の問題がつながっていきました。
 

一つ解決すると、次の問題が出てくる。

それまで想定していなかったことが、次々と現実になる。
 

まさに、この連載のタイトルである「想定外の介護」そのものでした。
 


介護は、病気そのものだけを見ていても分からない

親が入院すると、どうしても病名に目が向きます。
 

肺炎なら肺炎。

骨折なら骨折。

心臓病なら心臓病。

がんならがん。
 

家族は、「その病気が治るか?」を心配します。

もちろん、それは当然です。
 

でも、高齢者の場合には、元々持っている病気、身体機能、認知機能、服薬、生活環境などが複雑に関係していることがあります。
 

そのため、主な病気が落ち着いたからといって、介護の問題まで元に戻るとは限らない。
 

私は父の経験から、そのことを知りました。
 


「良かった」と安心した直後に、次の想定外が来る

介護では、この感覚が何度もあります。
 

病状が落ち着いた。

良かった。
 

施設が決まった。

良かった。
 

状態が安定した。

良かった。
 

そのたびに、家族は少し安心します。
 

ところが、その直後に別の問題が出てくることがあります。
 

父の場合は、「間質性肺炎が落ち着いた」という安心の直後に、「朝・昼・晩3回のインスリン注射が必要」という現実が現れました。
 

そして、その一つの変化が、「自宅へ帰れるかどうか?」という大きな問題につながりました。
 

介護の想定外は、一つの大きな事件として起こるだけではありません。
 

治療の変化。

薬の変化。

できることの変化。

生活場所の変化。
 

それらが連鎖することがあります。
 


もし、あなたの親だったら...

少しだけ、自分の親に置き換えて考えてみてください。
 

親に何か持病はありますか?

どんな薬を飲んでいるでしょうか?

その病気の管理方法が変わったら、自宅で今までと同じように暮らせるでしょうか?

医療的な対応が1日数回必要になったら、誰が対応するでしょうか?

本人が対応できなくなったら、家族だけで支えられるでしょうか?
 

私は父が入院する前、そこまで考えたことはありませんでした。
 

だからこそ、「そんなことまで起こるのか?」と、読者の皆さんには知っておいていただきたいと思っています。
 


病気が落ち着けば元通り——ではなかった

今回の出来事で、私にとって一番の想定外は、インスリン注射そのものではありませんでした。
 

間質性肺炎が落ち着き、ようやく父が自宅に帰れると思った時に、別の持病への対応が変わったことで、自宅に戻れなくなったこと。
 

ここでした。

病気が一つ良くなっても、生活全体が元通りになるとは限らない。
 

一つの治療が、その人の別の病気や暮らし方に影響することがある。
 

そして、その結果として、住む場所まで変わることがある。
 

私は父の介護を経験するまで、その現実を知りませんでした。
 

介護は、一つの出来事ではなく、想定外が次々と起こるものです。
 

しかもその想定外は、本人だけではなく、家族の仕事や生活、そしてこれからの暮らし方まで変えていくことがあります。
 

この連載では、その現実をこれからもお伝えしていきたいと思います。
 

「うちの親は、まだ大丈夫」そう思っている方にこそ、「こんなことも起こるのか?」と、一度知っていただけたらと思っています。
 

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2026年08月08日 19:51

敬老会の外部レクを選ぶとき、施設長が確認したい5つのポイント

連載⑩

レクが変わると、施設が変わる。

「今年の敬老会は、外部の方にお願いしてみようか?」
 

そんな話が出たとき、次に悩むのが、「では、何を基準に選べばいいのか?」ということではないでしょうか?
 

演奏会、マジック、体操、ダンス、地域ボランティア、さまざまなパフォーマンス...。
 

高齢者施設で活用できる外部レクリエーションには、いろいろな選択肢があります。
 

もちろん、
 

「楽しそうだから」
「料金が予算内だから」
 

という理由も大切です。
 

しかし、敬老会のような特別イベントでは、それだけではなく、
 

利用者様に無理なく楽しんでいただけるか?
職員の皆さまに過度な負担がかからないか?
その施設らしい特別な時間になるか?
 

といった視点も必要です。
 

今回は、敬老会の外部レクを検討するときに、施設長や管理者の方に確認していただきたい5つのポイントを整理します。
 


ポイント① 利用者様にとって「安全に楽しめるか」

最初に確認したいのは、やはり安全性です。
 

外部レクの場合、普段施設にいない人が入り、いつもとは違う道具や音、動きが加わります。
 

だからこそ、

  • 会場に必要な広さはどのくらいか?

  • 車椅子の方でも参加できるか?

  • 座ったまま楽しめるか?

  • 使用する道具に危険性はないか?

  • 大きな音や急な動きはないか?

  • 利用者様の状態に合わせて内容を調整できるか?

といったことを、事前に確認しておくことが大切です。
 

「盛り上がる企画」であること以上に、安心して楽しめる企画であること。
 

これは高齢者施設の外部レク選びでは欠かせない条件だと思います。
 


ポイント② いろいろな方が「それぞれの形で参加できるか?」

次に大切なのが、参加しやすさです。
 

介護施設では、利用者様の身体状況や認知機能、その日の体調や気分も一人ひとり違います。
 

そのため、「全員で同じ動きをする」ことだけを前提にしてしまうと、参加しにくい方が出てくる場合があります。
 

私は、
 

見るだけでもいい。
拍手だけでもいい。
笑顔でその場にいるだけでもいい。
興味があれば少し体験してみてもいい。
 

そんな、参加方法に幅のあるレクが、高齢者施設には向いていると思います。
 

外部レクを選ぶ際には、「積極的に参加できない方でも、その場を楽しめるでしょうか?」

と確認してみてください。
 

これは、とても大切な質問です。
 


ポイント③ 職員の「準備と当日の負担」はどのくらいか?

外部レクを依頼したのに、「結局、準備はほとんど施設側だった。」
 

という状態になってしまっては、本来期待したメリットが小さくなってしまいます。
 

事前に確認しておきたいのは、

  • 会場設営はどこまで必要か?

  • 音響設備は施設側で準備するのか?

  • 道具は持参してもらえるのか?

  • 職員は何人程度サポートする必要があるのか?

  • 司会進行は誰が行うのか?

  • 終了後の片付けはどの程度必要か?

などです。
 

外部レクを活用する大きな意味の一つは、職員の皆さまが「運営する人」だけではなく、利用者様と一緒にその時間を過ごしやすくなることだと思います。
 

利用者様の隣で笑う。
普段とは違う表情に気づく。
楽しそうな様子をご家族に伝える。
 

そうした関わりに時間を使えるかどうかも、外部レク選びの大切な視点です。
 


ポイント④ 料金ではなく「費用と得られる価値」を見る

外部レクを比較するとき、当然ながら費用は重要です。
 

しかし、「一番安いところを選ぶ」だけではなく、「その費用で、どんな時間をつくれるのか?」
 

まで考えてみることをおすすめします。
 

たとえば、

  • 何分間のプログラムなのか?

  • 見るだけなのか、参加型なのか?

  • 何人まで参加できるのか?

  • 道具や音響は料金に含まれているのか?

  • 職員の準備時間をどの程度減らせるのか?

  • 敬老会らしい特別感があるか?

によって、同じ金額でも価値は変わります。
 

特に敬老会は、毎週行う通常レクとは少し性格が違います。
 

年に一度の大切な機会として、「いくらかかるか?」と同時に「どんな体験を届けられるか?」で考えることが大切ではないでしょうか?
 


ポイント⑤ 「今年は特別だったね」と思える時間になるか

最後に確認したいのが、特別感です。
 

敬老会は、日常のレクリエーションとは違う特別な行事です。
 

もちろん、豪華でなければならないわけではありません。
 

大切なのは、
 

「今日はいつもと少し違うね」

「楽しかったね」

「こんなの初めて見たね」
 

そんな会話が自然に生まれることです。
 

非日常の体験が加わることで、敬老会が利用者様にとって印象に残る一日になる可能性があります。
 

そして、その様子を職員やご家族が一緒に楽しめれば、施設全体にとっても良い時間になります。
 


外部レクは「何を呼ぶか?」より「何を届けたいか?」

ここまで5つのポイントをご紹介してきました。
 

改めて整理すると、

① 安全性

② 参加しやすさ

③ 職員の負担

④ 費用

⑤ 特別感

です。
 

ただ、最も大切なのは、この5項目をすべて満たす業者を探すことだけではありません。
 

その前に、「今年の敬老会で、利用者様にどんな時間を届けたいのか?」を施設内で共有することだと思います。
 

そこが決まれば、
 

演奏会がよいのか?
マジックがよいのか?
体操がよいのか?
サーカスがよいのか?
 

選択肢を比較しやすくなります。
 


室内サーカスという選択肢

私が現在、介護施設の特別イベントの一つとしてご紹介しているのが、室内で楽しめる参加型サーカスレクリエーションです。
 

ゴールドサーカスの高齢者施設向けプログラムでは、椅子に座ったまま行える準備運動や、スカーフジャグリング・お手玉などを使った参加型レク、そしてミニサーカスショーを組み合わせています。
 

車椅子や足腰に不安のある方も参加しやすいよう、安全面に配慮した柔らかく軽量な道具を使用し、利用者様の体調などに合わせた進行を基本としています。
 

「見る楽しさ」と「参加する楽しさ」の両方があることは、敬老会のような特別イベントとの相性が良いと感じています。
 

ただし、すべての施設にサーカスが合うわけではありません。
 

だからこそ、施設の状況や利用者様に合わせて、まず選択肢を整理することを大切にしています。
 


施設長向け「外部レク選び5項目チェック」

外部レクの候補が見つかったら、次の5項目を確認してみてください。
 

□ 安全性
利用者様の身体状況に合わせて実施できるか?
 

□ 参加しやすさ
見るだけ・拍手だけなど、複数の参加方法があるか?
 

□ 職員負担
事前準備・当日の運営にどの程度の職員対応が必要か?
 

□ 費用
料金だけでなく、内容・時間・準備負担などを含めて納得できるか?
 

□ 特別感
「今年の敬老会は楽しかった」と感じてもらえる体験になりそうか?
 

この5つを比較するだけでも、外部レク選びはずいぶん整理しやすくなると思います。
 


「秋の施設イベント30分無料相談」のご案内

「敬老会の企画を考えているけれど、何を選べばいいかわからない。」

「外部レクを検討したいが、どんなものが施設に合うかわからない。」

「利用者様には喜んでいただきたい。でも職員の準備負担は増やしたくない。」
 

そんな施設様を対象に、「秋の施設イベント30分無料相談」を行っています。
 

利用者様の人数や身体状況、会場、ご予算、希望される雰囲気などを伺いながら、貴施設に合ったイベントの方向性を一緒に整理します。
 

室内サーカスありきの相談ではありません。
 

今年の敬老会で、利用者様にどんな時間を届けたいのか?
 

そこから一緒に考えていきます。

▼秋の施設イベント無料相談のお申込みはこちらから

 

2026年08月07日 20:00

【第4回】家族が困るのは「気持ち」より先に「情報がないこと」

第4回

さいたま市で親の介護が心配になったら読む話

急な入院・介護で家族が慌てないためのやさしい準備

親が急に入院した。
転倒して救急搬送された。
認知症の疑いが出てきた。
一人暮らしを続けるのが難しくなってきた。
 

こうした出来事が起きた時、家族はもちろん気持ちの面でも大きく揺れます。
 

「大丈夫だろうか?」
「これからどうなるのだろう?」
「自分に何ができるだろう?」
「もっと早く気づいていればよかった...。」
 

そんな不安や戸惑いで頭がいっぱいになるのは、ごく自然なことです。
 

けれど、実際には、家族は気持ちを整理する間もなく、すぐに現実的な対応を求められることが少なくありません。
 

病院から連絡が来る。
必要な持ち物を準備する。
通院歴や持病を確認する。
飲んでいる薬を伝える。
保険証や診察券を探す。
今後の支援や退院後の生活を考える。
 

この時、家族が本当に困るのは、気持ちの問題そのものよりも、「必要な情報が手元にないこと」である場合がとても多いのです。

家族は「悲しむ前に動かなければならない」

親に何かあった時、家族はまず心配します。

それと同時に、すぐに動かなければなりません。

急な入院なら、病院からこんなことを聞かれるかもしれません。
 

・かかりつけ医はどこですか?
・持病はありますか?
・飲んでいる薬は分かりますか?
・アレルギーはありますか?
・保険証は持っていますか?
・普段はどのような生活をしていますか?
・ひとり暮らしですか?
・退院後に支援してくれる家族はいますか?
 

でも、その時に
 

「よく分かりません。」
「保険証がどこにあるか知りません。」
「薬の名前は分かりません。」
「どこの病院に通っていたか曖昧です。」
「誰に連絡したらいいのか分かりません。」
 

ということが起きると、家族は一気に慌てます。
 

つまり、家族が最初にぶつかる壁は、「どう気持ちを整理するか?」より前に、「必要な情報が見つからない」という現実なのです。

情報がないと、家族の負担は何倍にもなる

たとえば、親が入院した時に、必要な情報が整理されていないと、家族は次のような負担を抱えます。

1. 手続きに時間がかかる

保険証、診察券、お薬手帳、介護保険証、病院の書類など、必要なものがどこにあるか分からないと、それだけで大きな負担になります。

2. 医療者や支援者に正確に伝えられない

持病や服薬内容、これまでの通院先が分からないと、医師や看護師、ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員にも、必要な情報を十分に伝えられません。

3. 家族間で認識のズレが起こる

きょうだい、配偶者、親族の間で、誰が何を知っているかがバラバラだと、連携が取りにくくなります。

4. 不安がさらに大きくなる

本来なら親の体調や今後を考えたいのに、「まず書類を探さなければ」「誰に聞けばいいのか分からない」という状態になると、不安や疲れが何倍にも膨らみます。

「情報を整理すること」は冷たいことではない

ここで誤解してほしくないのは、情報を整理することは、親を「管理すること」ではない、ということです。
 

中には、こう感じる方もいらっしゃるかもしれません。
 

「親の保険証の場所を聞くなんて、気が引ける。」
「薬のことを確認すると、監視しているみたいで嫌がられそう。」
「お金や書類の話をすると、親を追い詰めるような気がする。」
 

たしかに、言い方やタイミングには配慮が必要です。

でも、本来これは、親を縛るためではなく、親に何かあった時に、親をきちんと支えるための準備です。
 

たとえば、
 

「急な入院の時に困らないように、保険証の場所だけ確認しておきたい。」
「何かあった時にお母さんの希望を大切にしたいから、病院のことを少し教えてほしい。」
「家族が慌てないように、必要なものを一緒に整理しておきたい。」
 

このように伝えれば、目的は「支配」ではなく「安心」だということが伝わりやすくなります。

最初に整理しておきたい情報

では、何を整理しておくとよいのでしょうか?
 

全部を一度にやる必要はありません。
まずは、次のような基本情報からで十分です。

1. 通院先・かかりつけ医

  • どこの病院、クリニックに通っているか

  • 何科に通っているか

  • 主治医の名前

  • 次回の受診予定

2. 薬の情報

  • 飲んでいる薬

  • お薬手帳の有無

  • 薬の保管場所

  • 飲み忘れの有無や管理方法

3. 保険証・診察券などの場所

  • 健康保険証

  • 診察券

  • 介護保険証

  • 限度額認定証など必要な書類

4. 緊急連絡先

  • 家族の連絡先

  • 近くに住む親族

  • 親が頼っている人

  • 緊急時に連絡してほしい順番

5. 親の基本情報

  • 生年月日

  • 住所

  • 既往歴

  • アレルギー

  • これまでの入院歴や大きな病気

6. 本人の希望

  • 具合が悪くなった時、誰に頼りたいか

  • どこで暮らしたいと思っているか

  • どのような支援なら受け入れやすいか

7. 相談先

  • 親の住んでいる地域のシニアサポートセンター

  • 自分の住んでいる地域の相談先

  • 必要に応じた専門機関

「連絡ノート」を1冊作るだけでも違う

情報整理というと、大げさに感じるかもしれません。

でも、まずはノート1冊でも十分です。

たとえば、「連絡ノート」として、

  • 通院先

  • かかりつけ医

  • 緊急連絡先

  • 保険証の場所

  • 大切な書類の置き場所

  • 親が気にしていること

  • 何かあった時に家族で共有したいこと

などを書いておくだけでも、いざという時の安心感は大きく変わります。
 

手書きでもかまいません。
完璧でなくても大丈夫です。

「分かる人しか分からない状態」から、「家族が見て分かる状態」に近づけることが大切です。

家族だけで抱え込まないために

情報が整理されていないと、家族は「自分が何とかしなければ」と背負い込みやすくなります。
 

でも、すべてを家族だけで解決しようとしなくて大丈夫です。

介護や高齢者支援には、相談できる窓口があります。

さいたま市では、シニアサポートセンターが、地域の高齢者や家族の相談窓口になっています。
 

「まだ介護ではない」
「まだ元気だから相談するのは早い」

と思うような段階でも、
 

・最近、親の物忘れが気になる
・一人暮らしが心配
・何から整理すればよいか分からない
・家族で話し合うきっかけがほしい
 

そんな時に、早めに相談先を知っておくことは大きな安心につながります。

情報があるだけで、家族は落ち着いて動ける

親に何かあった時、家族の不安をゼロにすることはできません。

大切な親のことですから、心配になるのは当たり前です。

でも、必要な情報が分かっているだけで、家族はずいぶん落ち着いて動けるようになります。
 

保険証の場所が分かる。
かかりつけ医が分かる。
飲んでいる薬が分かる。
緊急連絡先が分かる。

どこに相談すればよいか分かる。
 

たったそれだけでも、「どうしよう」と立ち尽くす時間は減らせます。
 

介護準備や終活は、難しい制度の勉強から始める必要はありません。

まずは、情報を分かる形にしておくこと
それが、家族を助け、親を支える大きな一歩になります。

今日からできる小さな一歩

今日からできることとして、まずおすすめしたいのは次の3つです。
 

1つ目。
親の通院先、かかりつけ医を確認すること。
 

2つ目。
保険証、診察券、お薬手帳の場所を確認すること。
 

3つ目。
家族の連絡先を、親にも家族にも分かる形で整理すること。
 

そして、できればノートやメモに書き出してみてください。
 

家族が困るのは、気持ちが弱いからではありません。
情報がない中で、急に判断や対応を求められるからです。
 

だからこそ、今のうちに少しだけ整理しておく。
その小さな準備が、いざという時に親も家族も支えてくれます。
 

介護準備は、やさしい確認から。
終活は、安心して暮らし続けるための整理から。

まずは、今日できる一歩から始めてみませんか?

 

親の介護が心配。でも、何から始めればよいか分からない方へ

 

親が倒れる前の介護準備チェックシートはこちらから

 

2026年08月04日 17:02

第4回「忘れる人」ではなく、「困っている人」として見てみる

第4回

「忘れた」のではなく、今いる世界で迷っている

「さっき説明したばかりなのに、もう忘れている。」
「同じことを何度も聞かれると、ついイライラしてしまう。」
「どうして自分の家なのに、分からなくなるのだろう?」
 

認知症のある方と接していると、家族はこのような戸惑いを感じることがあります。
 

今日の予定を何度も確認する。
大切な物をどこに置いたか分からなくなる。
今いる場所が自宅だと分からず、「家に帰りたい」と訴える。
途中までできていたことの、次の手順が分からなくなる。
 

周囲から見れば、どれも「忘れてしまった」と見える出来事です。
 

もちろん、認知症によって記憶することや、時間・場所を正しく捉えることが難しくなる場合があります。
 

しかし、本人の立場に立ってみると、単に記憶が抜け落ちているだけではなく、
 

「今、何が起きているのか分からない?」
「次に何をすればよいのか分からない?」
「自分だけが状況を理解できていない?」
 

という不安や戸惑いの中にいるのかもしれません。
 

認知症のある方を「忘れる人」としてだけ捉えるのではなく、分からない世界の中で迷い、困っている人として見てみる。
 

今回は、その視点について考えてみたいと思います。
 


本人にとっては、毎回が「初めての質問」かもしれない

たとえば、朝、家族が伝えます。
 

「今日は午後3時に病院へ行くよ。」
 

その30分後、本人から聞かれます。
 

「今日はどこかへ行くの?」
 

家族はもう一度、「午後3時に病院へ行くよ」と答えます。
 

ところが少しすると、また、「病院はいつ行くの?」と尋ねられます。
 

何度も同じ質問を受ける家族は、
 

「さっきも言ったでしょう!」
「何回同じことを聞くの?」
 

と言いたくなるかもしれません。
 

しかし本人は、質問したことや、説明を受けたこと自体を覚えていない可能性があります。
 

本人にとっては、同じ質問を繰り返しているのではなく、毎回初めて確認している感覚なのかもしれません。
 

さらに、
 

「予定を間違えたらどうしよう?」
「自分だけ置いていかれるのではないか?」
「何か大切なことを忘れている気がする...。」
 

といった不安を抱えていることもあります。
 

そう考えると、「また同じことを聞いている」ではなく、

「予定が分からなくなり、また不安になったのかもしれない」

と見てみることができます。
 


「分からない」と言えないつらさもある

私たちは、説明が分からなければ、
 

「もう一度教えてください。」
「少しゆっくり話してください。」
「今の部分が理解できませんでした。」
 

と伝えることができます。
 

しかし、認知症のある方は、自分が何を分かっていないのかを整理できなかったり、うまく言葉にできなかったりすることがあります。
 

周囲から何度も、
 

「また忘れたの?」
「それも分からないの?」
「さっき説明したでしょう...。」
 

と言われるうちに、質問すること自体が怖くなる方もいるかもしれません。
 

分からないと言えば叱られる。
間違えれば家族が困った顔をする。
自分は迷惑をかけているのではないか?
 

そのように感じると、本当は困っていても、黙り込んだり、話を合わせたり、別の話題に変えたりすることがあります。
 

一見すると、本人が何も気にしていないように見えても、心の中では、
 

「何かがおかしい。」
「自分だけ分かっていない。」
「失敗したくない。」
 

と感じているかもしれません。
 

本人の言葉だけではなく、表情やしぐさ、落ち着かなさにも目を向けることが大切です。
 


「覚えている?」が、毎日の試験になっていないか?

家族は本人の状態が心配だからこそ、つい確認したくなります。
 

「今日が何日か分かる?」
「昨日、誰が来たか覚えている?」
「この人が誰か分かる?」
「さっき何を食べたか言える?」
 

もちろん、変化に早く気づくことは大切です。
 

ただ、日常の中で何度も記憶を試されると、本人にとっては、生活そのものが試験のように感じられることがあります。
 

答えられなければ、家族の表情が曇る。
間違えれば、訂正される。
何度も考えても思い出せない。
 

それでは、安心して会話を楽しむことが難しくなります。
 

日常会話では、本人に答えを求めるのではなく、こちらから自然に情報を添える方法もあります。
 

「今日は8月1日だね。暑い一日になりそうだね。」

「昨日は孫の〇〇ちゃんが来てくれて、楽しかったね。」

「こちらは近所の田中さんだよ。いつも声をかけてくださる方だよ。」
 

思い出せるかどうかを確かめるより、必要な情報をそっと渡す。
それは、本人の自尊心を守りながら、安心して会話に参加してもらうための工夫でもあります。
 


大切な物が見つからない時、本人には何が起きているのか?

財布や通帳、印鑑、鍵などを大切に思うあまり、本人がいつもとは違う場所にしまうことがあります。
 

ところが、しまったこと自体を忘れてしまう。

本人の感覚では、「ここに置いたはずなのに、なくなっている」ということになります。
 

探しても見つからない。
家族は「自分でどこかに置いたのでしょう」と言う。

しかし、本人には移動させた記憶がありません。

本人の世界では、本当に、「あったはずの物が突然なくなった」と感じられているのかもしれません。
 

それならば、
 

「誰かが持っていったのではないか?」
「盗られたのではないか?」
 

と考えることも、本人なりの理由があるように見えてきます。
 

そんな時に、

「またなくしたの?」
「自分で隠したのでしょう...。」
「誰も盗るわけがないでしょう?!」
 

と正しさだけを伝えても、不安はなかなか消えません。
 

まずは、

「見つからなくて心配なんですね。」
「一緒に探してみましょう。」
 

と、困っている気持ちを受け止める。
 

そのうえで、よくしまう場所を一緒に確認したり、保管場所をできるだけ固定したり、箱や引き出しに分かりやすい目印を付けたりすることができます。
 

本人に「忘れないように頑張ってもらう。」だけではなく、「忘れても困りすぎない環境を整える。」という考え方が大切です。
 


途中で分からなくなっているのかもしれない

認知症のある方は、何もかもできなくなるわけではありません。
 

料理を始めることはできる。
洗濯物を洗濯機に入れることもできる。
着替えようと服を取り出すこともできる。
 

ところが、途中で次に何をすればよいか分からなくなることがあります。
 

料理では、材料を出したものの、どの順番で調理するのか分からなくなる。

着替えでは、服を手に取ったものの、どちらから着ればよいのか分からなくなる。

外出では、玄関を出たものの、目的地までの道順が分からなくなる。
 

周囲から見ると、

「途中でやめてしまった。」
「やる気がない。」
「何をしているのか分からない?」
 

ように見えるかもしれません。
 

しかし本人は、慣れた道を歩いていたはずなのに、突然、道しるべを見失ったような状態なのかもしれません。
 

そんな時は、一度に多くのことを伝えるより、
 

「まず、この服を着ましょう。」
「次に、このお皿をテーブルへ運んでもらえますか。」
「ここを一緒に曲がりましょう。」
 

と、今必要なことを一つずつ伝える方が分かりやすくなります。
 

途中までできたことにも目を向け、
 

「ここまでできましたね。」
「手伝ってくれてありがとう。」
 

と声をかけることも、本人の安心や自信につながります。
 


すべての間違いを訂正しなくてもよい

すでに退職している父親が、朝になると、「会社へ行かなければ」と出勤の準備を始める。
 

そんな時、家族は、
 

「もう会社は辞めたでしょう?!」
「何年前の話をしているの?」
 

と事実を説明したくなるかもしれません。
 

もちろん、安全に関わる場合や、外出を防ぐ必要がある場合には、現実的な対応が必要です。
 

ただ、いつでも強く訂正すればよいとは限りません。
 

本人にとって仕事は、長年続けてきた大切な役割だったのかもしれません。
 

「会社へ行かなければ」という言葉の奥には、

「自分にはやるべきことがある。」
「誰かに必要とされている。」
「責任を果たさなければならない。」
 

という思いが残っている可能性もあります。
 

そんな時は、
 

「長い間、お仕事を頑張ってきたんだね。」
「今日は少しお茶を飲んでからにしようか?」
 

と、言葉の奥にある気持ちを受け止めることもできます。
 

大切なのは、本人を言い負かすことではありません。
 

今、何を心配しているのか?
どのような役割を求めているのか?
何があれば安心できるのか?
 

本人の歩んできた人生を知ることが、関わり方を考える手掛かりになります。
 


「本人のため」の先回りが、本人の機会を奪うこともある

家族は、本人が困らないように先回りします。
 

予定をすべて管理する。
持ち物をすべて準備する。
本人に尋ねず、家族だけで予定を決める。
危ないからと、外出や家事をやめてもらう。
 

家族としては、失敗を防ぎたいのです。

その気持ちは自然なものです。
 

しかし、先回りしすぎると、本人が自分で選んだり、考えたり、希望を伝えたりする機会まで少なくなることがあります。
 

認知症があっても、本人の意思や好みがすべてなくなるわけではありません。
 

たとえば、
 

「今日は青い服と白い服の、どちらにしますか?」
「散歩は午前と午後、どちらがよいですか?」
「お茶とコーヒーなら、どちらを飲みたいですか?」
 

と、選択肢を少なくして尋ねれば、本人が選べる場合があります。
 

「どうせ分からないから」と決めつけるのではなく、本人が参加しやすい形を整える。
 

それも、「困っている人として見てみる」から生まれる支援です。
 


本人の気持ちを理解することと、家族が我慢し続けることは違う

ここまで、本人の立場を想像することの大切さをお伝えしてきました。
 

ただし、家族がどのような時も穏やかに対応できるわけではありません。
 

同じ質問が一日に何十回も続く。
物探しに長い時間付き合う。
夜中に何度も起こされる。
外へ出ないよう、常に見守る。
 

仕事や家事を抱えながら対応していれば、疲れるのは当然です。
 

「本人も困っているのだから、我慢しなければ...。」と考えすぎないでください。
 

本人を理解しようとすることと、家族が一人ですべてを背負うことは同じではありません。
 

イライラしてしまう。
強い口調になってしまう。
もう限界だと感じる。
 

そのような時は、介護者として失格なのではなく、支援が必要になっているサインかもしれません。
 

地域包括支援センター、かかりつけ医、ケアマネジャーなどに、
 

「同じ質問が何度も続き、対応がつらい。」
「物を盗ったと疑われ、精神的に苦しい。」
「昼夜を問わず見守りが必要になっている。」
 

と、具体的に相談してください。
 

本人だけでなく、支える家族にも支援が必要です。
 


「忘れる人」から「迷い、困っている人」へ

同じ質問を繰り返す。
大切な物をなくす。
予定が分からなくなる。
途中で何をしていたのか分からなくなる。
 

その姿だけを見れば、「また忘れた」と思うでしょう。
 

しかし本人は、記憶という道しるべを見失い、今いる場所で迷っているのかもしれません。
 

そんな時、周囲の人ができることは、間違いを指摘し続けることではなく、安心できる道しるべになることです。
 

「大丈夫ですよ。」
「一緒に確認しましょう。」
「ここに書いてありますよ。」
「次は、これをしましょう。」
 

忘れないように強く求めるのではなく、忘れても困りすぎない暮らしを一緒につくる。
 

認知症のある方への支援とは、本人を以前の状態に戻そうとすることだけではありません。
 

今の本人が少しでも安心して歩けるように、道を分かりやすく整えることでもあるのだと思います。
 


今日の小さな一歩

身近な方が同じことを尋ねた時、「さっきも言ったでしょう!」と答える前に、ほんの少しだけ間を置いてみてください。
 

そして、「この人は今、何が分からなくて困っているのだろう?」と考えてみます。
 

予定が見えず、不安なのかもしれない。
自分だけ取り残されたと感じているのかもしれない。
失敗することを怖がっているのかもしれない。
 

すぐに答えが見つからなくても構いません。
 

「忘れる人」として決めつけるのではなく、

「分からない世界で迷い、困っている人」として見てみる。
 

その小さな視点の変化が、本人に届ける言葉を少しやさしく変えてくれるかもしれません。
 

「認知症世界の歩き方」実践ワークショップに参加してみませんか?
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2026年08月01日 19:26

【第1回】老後資金を増やす前に、考えておかなければならないこと

第1回

全20回連載:「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」

親の介護、自分たちの介護、仕事とお金
50代・60代が今から考えたい20の現実

■老後資金の話が、資産運用の話だけになっていませんか?

50代、60代になり、老後のお金について考え始める方が増えています。
 

年金はいくら受け取れるのか?
退職金はいくら残るのか?
NISAやiDeCoを活用した方がよいのか?
預貯金だけでは、物価上昇に対応できないのではないか?
 

どれも大切な問題です。
 

私もファイナンシャルプランナーとして、老後に向けた資産形成や家計管理は必要だと考えています。
 

しかし、老後資金を考えるときに、見落とされやすい大きな問題があります。

それが「介護」です。
 

あなたの老後資金計画には、次のことまで組み込まれているでしょうか?
 

・自分の両親の介護
・配偶者の両親の介護
・自分自身の介護
・配偶者の介護
・介護によって働き方が変わる可能性

 

老後資金を考える際には、年金や生活費だけでなく、家族の介護についても考える必要があります。

■介護は「お金が出ていく問題」だけではありません

親の介護について考えるとき、多くの方は、介護サービスや施設に支払う費用を思い浮かべるのではないでしょうか?
 

生命保険文化センターの2024年度調査によると、介護にかかった一時的な費用は平均47.2万円、毎月の費用は平均9万円、介護期間は平均4年7カ月です。

介護期間が4年を超えた人も約4割います。

もちろん、これはあくまで平均です。
 

在宅介護か施設介護か、要介護度、介護期間、親の年金や預貯金などによって、実際の負担は大きく異なります。

また、介護保険サービスの自己負担以外にも、次のような支出が発生する可能性があります。
 

・実家までの交通費や宿泊費
・通院や入退院への付き添い
・紙おむつや配食などの保険外費用
・住宅改修や介護用品の購入費
・空き家となった実家の維持費
・親の費用の一時的な立て替え

 

しかし、家計にとってさらに大きな問題となる可能性があるのが、介護による「収入の減少リスク」です。

参考:公益財団法人 生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html

■支出の増加と収入の減少が同時に起こる可能性が...

親の通院同行やケアマネジャーとの打ち合わせ、入退院の手続き、緊急時の対応が必要になると、これまでどおりに働くことが難しくなる場合があります。

会社を辞めなかったとしても、次のような変化が起こるかもしれません。
 

・残業や休日出勤を減らす
・短時間勤務を選ぶ
・管理職や責任の重い役割を辞退する
・転勤や昇進を断る
・賞与や手当が減る

・学び直しや複業に使う時間を失う

厚生労働省の資料によると、2022年には家族の介護や看護を理由として約10万6千人が離職しています。

また、家族を介護しながら働いている人は、364万6千人に達しています。
 

介護離職をすると、給与がなくなるだけではありません。

厚生年金への加入期間、将来受け取る年金、退職金、再就職後の収入などにも影響する可能性があります。
 

つまり、親の介護が始まると、
 

「介護に関する支出が増える」ことに加えて、「働き方が変わり、収入が減る」という二つの問題が、同時に発生する可能性があるのです。
 

参考:厚生労働省「仕事と介護の両立支援」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001435348.pdf

■中流家庭でも家計が急速に弱る可能性がある

一定の収入と預貯金があり、これまで安定して暮らしてきた家庭でも、準備のないまま親の介護が始まると、家計が次のように変化することがあります。
 

親の介護費用を、子どもが立て替える。
通院や見守りのために仕事を休み、収入が減る。
家族の中の一人に負担が集中し、心身ともに疲弊する。
「仕事と介護の両立は無理だ」と考え、会社を辞める。
生活費や住宅ローンを支払うため、預貯金を取り崩す。
NISAなどの積立を中止し、保有している金融商品も売却する。
再就職しても、以前と同じ収入には戻れない。

 

その結果、自分と配偶者の老後資金や介護資金まで不足していく。

こうした連鎖が続けば、中流家庭でも老後資金を急速に失い、将来的には公的支援が必要になるほど家計が弱る可能性があります。
 

経済産業省は、仕事をしながら家族を介護する人が2030年に約318万人となり、介護離職や労働生産性の低下などによる経済損失が、約9兆円に上ると試算しています。
 

介護は、家庭だけの問題ではありません。

本人のキャリア、企業経営、そして社会全体にも影響する問題なのです。
 

参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html

■NISAなどによる資産運用の検討を否定しているわけではありません

ここで、誤解していただきたくないことがあります。

私は、NISAやiDeCoなどの資産形成の検討を否定しているわけではありません。
 

長期的な資産形成は、人生100年時代を生きるうえで重要な選択肢です。

ただし、資産運用は、人生の目的や将来必要となる資金を整理したうえで行う「手段」です。
 

何のためのお金なのか?
いつ使う可能性があるのか?
急に現金が必要になったとき、取り崩しても問題がないのか?
 

親の介護、自分たちの介護、これからの働き方を確認しないまま資産運用を始めると、本来は近い将来に必要となるお金まで運用に回してしまう可能性があります。

だからこそ、順番が大切です。
 

「老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。」

これが、この連載を通して私がお伝えしたい中心的なメッセージです。

■私自身、両親の介護に直面して感じたこと

私は2023年3月から、私自身の両親の介護に直面しています。

介護や社会保障の制度を知っていても、ある程度の知識があっても、自分の家族の介護の問題になると、簡単にはことは運びません。
 

親にどのように話を切り出すのか?
病院や介護関係者とのやり取りを誰が行うのか?
仕事の予定をどう調整するのか?
家族の中で、誰がどこまで対応するのか?
親のお金について、どこまで確認してよいのか?

 

知識があることと、実際に家族として動けることは、別の問題だと痛感しました。
 

だからこそ私は、介護が始まってから慌てて対処するのではなく、親が元気なうちに、仕事・お金・家族関係を整理しておくことが必要だと考えています。

終活は、親に死の準備を迫ることではありません。
 

親がこれからも、どこで、誰と、どのように暮らしたいのかを聞き、もしものときに家族が困らないように、少しずつ確認していくことです。

■今日からできる最初の一歩

まずは、次の人たちの名前を紙に書き出してみてください。
 

・自分の父親、母親
・配偶者の父親、母親
・自分自身
・配偶者
 

すべての方が介護を必要とするとは限りません。
 

しかし、自分と配偶者の両親、自分たち夫婦まで含めれば、介護について考える対象は最大6人になり得ます。
 

そして、それぞれについて、次の三つを確認してみてください。
 

1.介護が必要になった場合、誰が最初に動くのか?
2.費用は、誰の年金や資産から支払うのか?
3.どこで、どのように暮らしたいと考えているのか?

 

答えが分からなくても問題ありません。
 

「分からないことに気づくこと」が、準備の第一歩です。

■これから全20回でお伝えすること

この連載では、次のようなテーマについて、全20回にわたってお伝えします。
 

・親の介護には実際にいくらかかるのか?
・介護離職が家計と将来の年金に与える影響は?
・親の介護費用を誰が負担するのか?
・兄弟姉妹で役割をどう分担するのか?
・親が元気なうちに確認したいことは?
・介護休業制度をどのように活用するのか?
・自分と配偶者の介護費用をどう準備するのか?
・介護資金と資産運用に回すお金をどう分けるのか?

 

老後資金を増やす方法を考える前に、介護によって人生と家計を壊さない準備を始めていきましょう。

■次回予告

第2回は、「あなたの老後資金計画に『親の介護』は入っていますか?」をテーマにお伝えします。

自分の両親と配偶者の両親の介護が、50代・60代の家計と働き方にどのような影響を与えるのかを、一緒に考えていきましょう。
 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「介護と老後資金」を一度整理してみませんか?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 

老後資金を考えるとき、年金やNISAなどの資産運用だけでなく、親の介護に伴う支出や収入減少、自分自身と配偶者の介護費用まで考えることが大切です。

■実践セミナーのご案内

50代から始める「介護と老後資金」の見える化 実践セミナー
~親の介護で、自分の老後を壊さないための7つの準備~

親が元気な今のうちに、家族の介護方針、費用負担、仕事との両立、自分たちの老後資金について整理するためのセミナーです。
 

▼イベントの詳細・お申込み

■60分無料個別相談のご案内

「自分の家庭では、何から準備すればよいのか分からない」
「親のお金や介護について、どう話を切り出せばよいのか悩んでいる」
「介護と仕事、老後資金をまとめて整理したい」
 

そのような方を対象に、60分の無料個別相談を行っています。
 

ご家庭の状況を伺いながら、
 

・今すぐ始めること
・まだ急がなくてよいこと
・最初に取り組むべき行動
 

を一緒に整理します。
 

▼無料個別相談の詳細・お申込み

※無料相談は、お一人様1回です。
※対面・オンラインの両方に対応しています。(対面は埼玉県と東京都)
※金融商品の販売や強引な勧誘を目的とした相談ではありません。
※継続支援が必要な場合も、内容と料金をご説明し、ご本人が納得された場合のみご利用いただきます。
※ご安心してお申込み頂ければ幸いです。

2026年07月28日 17:57

想定外の介護|第4回「トイレに行けない」だけではなかった。

第4回

排せつが一日の暮らしを変えていた

※この記事は、介護施設の対応を批判するものではありません。施設職員の方々が日々の生活を支え、家族が見えていなかった状況を丁寧に共有してくださったことで知ることができた、介護の現実をもとに構成しています。本人の尊厳と個人情報に配慮し、一部の表現を整えています。

「トイレまで連れて行けばよい」と思っていた

母について施設から連絡をいただいた時、私が特に驚いたのは、排せつに関する状況でした。
 

母は、自分からトイレに行くことがほとんどなくなり、職員の方から声をかけ、誘導していただく必要があるとのことでした。

父についても、長い距離を歩くことが難しく、排せつ後には毎回、状態を確認していただいていると聞きました。
 

私はそれまで、排せつ介助について、どこか単純に考えていたのかもしれません。
 

「一人で行けないなら、トイレまで付き添えばよい。」

「間に合わないなら、リハビリパンツやパットを使えばよい。」
 

その程度のイメージしか持っていませんでした。

ところが、実際の排せつ支援は、トイレまで連れて行けば終わるものではありませんでした。
 


トイレに行く前から、支援は始まっている

まず、本人が「トイレに行きたい」と気づけるとは限りません。

尿意や便意があっても、それをうまく言葉にできないことがあります。

トイレの場所が分かっていても、自分から立ち上がり、歩き始める行動につながらないこともあります。
 

家族から見ると、
 

「行きたいなら言ってくれればいいのに」

「トイレはすぐそこなのに」
 

と思ってしまうかもしれません。
 

しかし、認知機能や身体機能が低下すると、
 

排せつしたいという感覚を認識すること。
それを人に伝えること。
トイレへ行こうと判断すること。
立ち上がること。
安全に歩くこと。
 

その一つひとつが難しくなります。
 

つまり排せつ介助は、トイレの中だけで始まるのではありません。

本人の表情や動作を見ながら、適切な時間に声をかけるところから始まっているのです。
 


トイレまで歩けても、安心ではなかった

父母は、まったく歩けないわけではありません。

短い距離であれば、手すりや周囲の支えを使いながら歩けることもあります。
 

その姿だけを見ると、「まだ自分でトイレに行けるのではないか?」と思うかもしれません。
 

しかし、歩けることと、安全に排せつを終えられることは別です。
 

トイレまで間に合うのか?
途中で転倒しないか?
便座の前で方向転換できるか?
安全に腰を下ろせるか?
立ち上がることができるか?
衣類を上げ下げできるか?
 

排せつには、家族が想像する以上に多くの動作が必要です。
 

しかも、急いでいる時ほど転倒の危険は高まります。
 

「トイレまで歩けた」という一場面だけでは、生活全体が自立しているとは言えないのです。
 


排せつが終わった後にも、支援は続く

さらに私が想像できていなかったのは、排せつ後の対応でした。
 

排せつが終わったことを本人が理解できるか?
きれいに拭くことができるか?
汚れが残っていないか?
パットや衣類の交換が必要か?
皮膚に赤みやただれがないか?
 

こうした確認が、その都度必要になります。
 

適切に清潔を保てなければ、皮膚トラブルにつながることがあります。

本人が汚れに気づかないまま過ごしてしまえば、衣類だけでなく、椅子や寝具の交換が必要になることもあります。
 

つまり、一度の排せつが、
 

衣類の交換
身体の清拭
皮膚状態の確認
汚れた衣類や寝具の処理
室内の清掃
 

といった複数の対応につながることがあるのです。
 

「トイレに行けない」という短い言葉の裏側に、これほど多くの支援があるとは、私は十分に理解できていませんでした。
 


夜中にも、同じことが起こる

排せつは、家族や介護者の都合に合わせてくれるものではありません。

朝も、昼も、夜もあります。
 

家族が眠っている時間にも、トイレに行こうとすることがあります。
 

暗い部屋の中で一人で立ち上がり、転倒するかもしれません。

トイレの場所が分からず、別の場所へ行ってしまうかもしれません。

間に合わず、衣類や寝具の交換が必要になることもあります。

在宅介護であれば、そのたびに家族が起きて対応する可能性があります。
 

一度だけなら対応できるかもしれません。
 

しかし、それが毎日、何度も続いたらどうでしょうか。
 

排せつ介助は、本人の日常だけでなく、介護する家族の睡眠や体調、仕事にも影響します。

排せつが一日の暮らしを変えるというのは、本人だけの話ではないのです。
 


ポータブルトイレを置けば解決、でもなかった

自宅での介護を考えた時、居室内にポータブルトイレを置く方法があります。

トイレまでの距離を短くできるため、負担を減らすための大切な福祉用具です。
 

ただ、施設の方から教えていただいたのは、置けばそれだけで解決するわけではないということでした。
 

本人がポータブルトイレをトイレとして認識できるか?
安全に移動し、座ることができるか?
使用方法を覚えられるか?
使用後に衣類を整えられるか?
パットや皮膚の確認を誰が行うか?
排せつ物の処理や清掃を誰が行うか?
 

実際に使用するには、事前の練習や継続的な見守りが必要になる場合があります。
 

福祉用具は、置くだけで介護をなくすものではありません。

本人の状態と支える人の体制があって、初めて機能するのだと知りました。
 


施設だから起きているのではない

ここで、改めてお伝えしたいことがあります。
 

父母に起きている排せつの問題は、施設に入居しているから起きたものではありません。

身体機能や認知機能、病気、年齢による変化によって起きていることです。

自宅で暮らしていたとしても、同じことが起こる可能性があります。
 

施設では、職員の方々が、
 

時間を見ながら声をかける。
トイレまで安全に誘導する。
排せつ後の状態を確認する。
必要に応じて衣類やパットを交換する。
皮膚の異常に気づく。
夜間も見守る。
 

という支援を続けてくださっています。
 

家族が面会している短い時間には、その支援の多くは見えません。

しかし、その見えない支援があるからこそ、父母の一日が成り立っています。
 

施設職員の方から詳しく状況を伝えていただかなければ、私はその現実を知らないままだったと思います。
 


排せつは、本人の尊厳にも深く関わる

排せつの話は、家族でも話しにくいテーマです。
 

親に聞くことをためらう人もいるでしょう。

本人も、できなくなったことを知られたくないと思うかもしれません。
 

失敗したことを恥ずかしいと感じることもあるでしょう。

だからこそ、排せつ介助は単なる作業ではありません。
 

本人の恥ずかしさや自尊心に配慮しながら、必要な支援を行うことが求められます。

家族であれば簡単にできる、とも限りません。
 

親子だからこそ、本人が強く拒否することもあります。

介護する側も、戸惑いや抵抗感を持つことがあります。
 

「親の排せつ介助まで、自分にできるだろうか?」

そう感じても、それは決して冷たいことではありません。
 

排せつ介助は、身体的にも心理的にも負担の大きい支援だからです。
 


「うちの親はまだ大丈夫」と思っていても

親が一人でトイレに行っているように見える。

電話では、特に困っている様子がない。

面会では、椅子に座って普通に話している。
 

その姿だけを見ると、
 

「まだ介護は必要ない。」

「排せつは自分でできている。」
 

と思うかもしれません。
 

しかし、本当に一人で安全にできているのでしょうか?

トイレまで間に合っているのか?
衣類の汚れは増えていないか?
夜中に転倒していないか?
パットや下着を適切に交換できているか?
皮膚に赤みやただれがないか?
 

家族が見えていないだけで、本人が困っている可能性があります。
 

介護は、ある日突然「トイレに行けなくなる」だけではありません。
 

少しずつ間に合わなくなる。
歩くことが難しくなる。
声かけが必要になる。
確認や交換が増えていく。
 

その小さな変化が積み重なり、いつの間にか一日の暮らし全体を変えていきます。
 


想定外の介護は、日常の中に現れる

介護の想定外というと、救急搬送や入院のような大きな出来事を思い浮かべるかもしれません。
 

しかし実際には、もっと日常的な場面にも現れます。
 

トイレまで一人で行けない。
声をかけなければ排せつにつながらない。
衣類や寝具の交換が必要になる。
皮膚状態を毎回確認しなければならない。
夜間にも見守りが必要になる。
 

一つひとつは小さな出来事に見えるかもしれません。
 

でも、それが一日に何度も、毎日続く。

そこに介護の現実があります。
 

施設に入居していても、在宅で暮らしていても、親の身体や認知機能が変化すれば、同じ問題が起こる可能性があります。
 

私は父母の状況を知り、「トイレに行けない」という言葉だけでは、介護の現実をまったく理解できていなかった。

と感じました。
 

読者の皆さんにも、まずは知っていただきたいと思います。
 

排せつは、トイレの中だけの問題ではありません。

本人の移動、判断、清潔、皮膚状態、睡眠、そして家族の暮らしにまで影響するものです。
 

介護は一つの出来事ではなく、こうした想定外が、日常の中で次々と起こるものなのです。
 


私が作成した「親が倒れる前の介護準備チェックシート」では、健康・医療、介護・暮らし、お金・資産、家族の役割、終末期・終活、親への切り出し方まで、30項目で確認できるようにしています。
 

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2026年07月25日 16:32

「今年の敬老会、何をしよう?」企画を職員だけで抱えないための3つの方法

連載⑨

レクが変わると、施設が変わる。

「今年の敬老会、何をしよう?」
 

介護施設では、そろそろそんな会話が出てくる時期ではないでしょうか?

敬老会は、利用者様への感謝や長寿をお祝いする大切な行事です。
 

だからこそ、

「去年と同じ内容でいいのだろうか?」
「今年は何か新しいことをしたい...。」
「利用者様にもっと喜んでいただきたい...。」

と、企画を担当する職員の皆さまが頭を悩ませることもあると思います。
 

一方で、日々の介護業務や記録、ご家族への対応などがある中、敬老会の企画・準備まで一部の職員だけで担うとなると、負担が大きくなりがちです。
 

大切なのは、

「良い敬老会にするために、職員がもっと頑張る」ことではないと思っています。
 

むしろ、

「職員の皆さまだけで抱え込まず、どうすれば施設全体で良い時間をつくれるか?」

という視点ではないでしょうか?
 

今回は、今年の敬老会を考えるうえで役立つ、3つの方法をご紹介します。
 


方法① 「何をやるか」より先に、「どんな時間にしたいか」を考える

敬老会の企画というと、最初に、
 

「歌にしようか?」
「ゲームにしようか?」
「演奏会をお願いしようか?」
 

と、内容から考えがちです。
 

でも、その前に考えていただきたいことがあります。
 

それは、「今年の敬老会で、利用者様にどんな気持ちになっていただきたいか?」ということです。
 

たとえば、
 

「みんなで笑える時間にしたい。」

「普段レクに参加されない方にも楽しんでいただきたい。」

「ご家族にも一緒に喜んでいただきたい。」

「いつもの日常とは少し違う、特別な時間を届けたい。」
 

目的が明確になると、企画の選び方も変わります。
 

「何をやるか」から考えるのではなく、「どんな体験を届けたいか?」から考える。

これが、企画を考えやすくする一つ目のポイントです。
 


方法② 一部の職員だけで考えず、「参加のアイデア」を集める

敬老会の企画が、毎年同じ担当者に集中していないでしょうか?
 

もちろん、担当者を決めることは必要です。
 

しかし、企画そのものまで一人、あるいは少人数で抱え込む必要はありません。
 

たとえば、
 

「利用者様が最近楽しそうにされていたことは?」

「ご家族から喜ばれた行事は?」

「普段あまりレクに参加されない方は、どんなことなら楽しめそう?」
 

と、職員の皆さまから少しずつ意見を集めるだけでも、企画のヒントになります。
 

さらに、施設によっては、ご家族や地域の方とのつながりを活かす方法もあります。
 

大切なのは、全員で会議を重ねることではありません。
 

一人の担当者がゼロから全部を考えなくてもいい仕組みをつくること。

それだけでも、心理的な負担は変わってくると思います。
 


方法③ 「施設内ですること」と「外部に任せること」を分ける

3つ目は、すべてを施設の中だけで完結させようとしないことです。
 

敬老会では、
 

企画
会場準備
飾り付け
司会進行
出し物
音響
写真撮影
利用者様の誘導
 

など、さまざまな役割があります。
 

これらをすべて職員の皆さまで担うと、当日までの準備だけでなく、当日も「楽しむ側」ではなく「運営する側」になってしまいます。
 

そこで考えたいのが、外部サービスを上手に活用するという選択肢です。
 

たとえば、演奏会、マジック、体操、パフォーマンスなど、施設の外にはさまざまな専門サービスがあります。
 

一部を外部に任せることで、職員の皆さまは、
 

利用者様の隣で一緒に笑う。
安心して参加できるように声をかける。
普段とは違う利用者様の表情を見る。
 

そんな、利用者様との関わりに時間を使いやすくなります。
 

外部レクを使うことは、施設の取り組みを減らすことではありません。
 

むしろ、

施設内で大切にしたいことに、職員の皆さまが集中するための方法の一つだと思います。
 


敬老会は「全員が同じことをする」必要はありません

敬老会を考えるときに、もう一つ大切にしたいことがあります。
 

それは、参加の形は、一人ひとり違っていいということです。
 

積極的に参加する方。

笑顔で見ている方。

拍手をする方。

職員と一緒にその場の雰囲気を楽しむ方。
 

利用者様の身体状況やその日の体調、気持ちはそれぞれ違います。
 

だからこそ、
 

「全員に何かをしてもらうイベント」

ではなく、
 

「それぞれの方法で楽しめるイベント」

という視点も大切です。
 

見るだけでも楽しい。

拍手だけでも参加できる。

少し興味があれば体験できる。
 

そうした選択肢のある企画は、幅広い利用者様が一緒に楽しみやすくなります。
 


「今年は少し特別にしたい」と思ったら

毎年の敬老会を大切に続けてきた施設だからこそ、「今年は少し違うことをしてみたい」と思うこともあるのではないでしょうか?
 

そのようなとき、選択肢の一つになるのが、外部の特別レクリエーションです。
 

演奏やマジックなど、さまざまな選択肢がありますが、最近私が介護施設との相性が良いと感じているものの一つに、室内で楽しめるサーカス型レクリエーションがあります。

見る楽しさがあり、拍手でも参加でき、希望される方は簡単な体験にも加われる。
「見る」と「参加する」の両方があることで、それぞれの利用者様に合った楽しみ方をつくりやすいのが特徴です。
 

ただし、大切なのは、「敬老会だからサーカスをやりましょう。」ということではありません。
 

施設によって利用者様も、会場も、予算も違います。

まず考えるべきなのは、「自分たちの施設では、今年どんな時間を届けたいのか?」ということだと思います。
 


今年の敬老会を考える「3つのチェック」

敬老会の準備を始める前に、ぜひ一度確認してみてください。

□ 1.今年、利用者様にどんな「体験」を届けたいか決まっていますか?

□ 2.企画や準備が、一部の職員だけに集中していませんか?

□ 3.施設内で行うことと、外部の力を活用することを分けて考えていますか?

一つでも「まだ考えていなかった」という項目があれば、今年の敬老会を見直すヒントになるかもしれません。
 


「秋の施設イベント30分無料相談」のご案内

今年の敬老会や秋のイベントについて、
 

「まだ企画が決まっていない。」

「毎年同じような内容になっている。」

「職員の企画・準備負担をできるだけ増やしたくない。」

「利用者様に少し特別な体験を届けたい。」
 

そんな施設様を対象に、

「秋の施設イベント30分無料相談」

を行っています。

施設の規模、利用者様の状況、会場、ご予算などを伺いながら、貴施設に合ったイベントの方向性を一緒に整理します。

室内サーカスありきのご相談ではありません。

まずは、利用者様にどのような時間を届けたいのか、一緒に考えるところから始めます。

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2026年07月20日 20:07

第3回 認知症の人を“問題行動”で見ない

第3回

行動の奥にある困りごと

認知症のある方と暮らしていると、家族が戸惑う場面は少なくありません。
 

「何度言っても同じことを聞いてくる」
「財布を盗られたと言い出す」
「家にいるのに『家に帰る』と言う」
「突然、怒ったような態度をとる」
「外に出て行こうとする」
 

こうした行動が続くと、家族は疲れてしまいます。
 

「どうしてこんなことをするのだろう」
「困った行動ばかりするようになった」
「以前の親とはまるで別人のようだ」

そう感じてしまうこともあるでしょう。
 

でも、ここで少し立ち止まって考えてみたいことがあります。
 

私たちから見れば「困った行動」に見えることも、本人から見れば、何かに困った結果として起きている行動なのかもしれない、ということです。
 

認知症の方を「問題行動をする人」として見るのではなく、「この人は今、何に困っているのだろう?」と考えてみる。

その視点が、本人への理解を深める大切な第一歩になります。
 


「何度も同じことを聞く」のは、困らせたいからではない

たとえば、こんな場面があります。
 

「今日、病院に行くんだっけ?」
 

家族が答えます。
 

「病院は明日だよ」
 

ところが、10分後。
 

「今日、病院に行くんだっけ?」
 

また同じ質問です。
 

さらに少しすると、

「病院は今日だったかな?」
 

家族としては、

「さっき言ったでしょ」
「何回同じことを聞くの?」

と言いたくなるかもしれません。
 

しかし、本人にとっては、10分前に質問したこと自体を覚えていない可能性があります。
 

さらに、

「病院はいつだっただろう」
「忘れてしまった」
「間違えたらどうしよう」

という不安を感じていることもあります。
 

本人は家族を困らせたくて何度も質問しているわけではありません。
不安だから確認している。

でも、その確認をしたこと自体を忘れてしまう。

そう考えると、見え方が少し変わってきます。
 

「何度も同じことを聞く人」ではなく、「予定が分からなくなり、不安になっている人」として見ることができるからです。
 


「財布を盗られた」には、不安が隠れているかもしれない

認知症のある方との生活で、家族がつらい思いをすることの一つに、

「財布を盗られた」
「通帳を誰かに持っていかれた」

と言われる場面があります。
 

特に、「あなたが盗ったんでしょう」と家族が疑われると、ショックを受けるでしょう。
 

「そんなわけないでしょ」
「自分でどこかに置いたんでしょう」
 

と強く否定したくなる気持ちも当然です。
 

でも、本人の立場から考えてみます。
 

確かにここに置いたはずの財布がない。

どこに置いたのか思い出せない。

自分が移動させた記憶もない。
 

本人からすると、

「あったはずのものが突然なくなった」という感覚なのかもしれません。
 

それは、とても不安なことです。

その不安を説明するために、

「誰かが持っていったのではないか」

という考えにつながっている可能性があります。
 

そんな時、

「盗ってない!」
「また自分でなくしたんでしょう!」

と否定するだけでは、本人の不安は消えません。
 

まずは、「財布が見つからなくて心配なんですね」「一緒に探してみましょうか」

と、本人の不安に寄り添う。

そして一緒に探す。
 

大切なのは、「誰が正しいか」を決着させることよりも、本人が感じている不安を少しでも和らげることです。
 


「家に帰りたい」は、住所の話だけではないかもしれない

自宅にいるのに、「そろそろ家に帰ります」と言う方もいます。
 

家族は驚きます。

「ここが家だよ」
 

そう説明しても、「違う。私の家はここじゃない」と言われることがあります。
 

家族としては、「自分の家なのに、どうして分からないの?」と思うでしょう。
 

でも、「家に帰りたい」という言葉が、必ずしも住所としての家を意味しているとは限りません。
 

その人が求めているのは、

安心できる場所。
自分の役割があった場所。
若い頃に家族と暮らしていた場所。
 

そうした「安心できた時代」や「安心できる感覚」なのかもしれません。
 

「ここが家です」

と正しさを伝えるだけでは、その不安は解消しないことがあります。
 

「帰りたいんですね」
「どんなお家でしたか?」
「少しお茶を飲んでから考えましょうか」
 

そんなふうに気持ちを受け止めることで、落ち着くこともあります。
 


怒りの奥には、「分からない怖さ」があるかもしれない

認知症のある方が、突然怒ったように見えることがあります。
 

着替えを勧めたら怒った。
お風呂に誘ったら拒否された。
介助しようとしたら手を払われた。
 

周囲から見ると、「なぜそんなに怒るのだろう」と思います。
 

しかし、本人には何が起きているのでしょうか。
 

知らない人が突然近づいてきたように感じた。
なぜ服を脱がなければならないのか分からない。
これから何をされるのか分からない。
自分の意思を無視されたように感じた。
 

もし私たちが同じ状況になったら、怖くなり、抵抗するかもしれません。
 

本人の「怒り」や「拒否」は、
 

「怖い」
「分からない」
「やめてほしい」

 

という気持ちの表現かもしれないのです。
 

行動だけを見るのではなく、その奥にある感情を想像してみることが大切です。
 


「徘徊」という言葉の前に、本人の目的を考えてみる

認知症のある方が一人で外に出てしまうことがあります。

家族にとっては、事故や行方不明につながる可能性もあり、大きな心配です。
 

安全対策はもちろん必要です。
 

ただ、
 

「また勝手に出て行った」
「意味もなく歩き回っている」
 

と決めつける前に、「どこへ行こうとしているのだろう?」と考えてみることも重要です。
 

会社に行こうとしている。
子どもを迎えに行こうとしている。
買い物に行かなければと思っている。
自分の家に帰ろうとしている。
 

本人の中では、何らかの目的がある場合があります。
 

その目的が、現在の状況とは一致していなくても、本人にとっては意味のある行動なのです。
 

「なぜそんなことをするのか」ではなく、「何をしようとしているのか」と考える。

この問いが、本人理解のヒントになります。
 


行動には、必ず理由があるとは限らない。でも、背景を探す価値はある

もちろん、認知症の方のすべての行動について、明確な理由が分かるわけではありません。

本人自身もうまく説明できないことがあります。
 

それでも、
 

体調が悪くないか。
眠れているか。
お腹が空いていないか。
トイレに行きたいのではないか。
暑くないか、寒くないか。
周囲が騒がしくないか。
不安なことはないか。
急かされていないか。
 

こうしたことを一つずつ考えてみると、行動の背景が見えてくることがあります。
 

「認知症だから仕方がない」で終わらせず、「何か理由があるのかもしれない」と考えてみる。

それだけでも、本人への接し方は変わってきます。
 


家族が疲れている時は、一人で解決しようとしない

ここで忘れてはいけないのが、家族の負担です。
 

毎日のように同じ質問をされる。
物を盗ったと疑われる。
夜中に起こされる。
外出を心配し続ける。
 

どれほど本人の気持ちを理解しようと思っても、家族にも限界があります。

いつでも穏やかに対応できるわけではありません。
 

イライラすることもあります。
強い口調になることもあります。
「もう無理」と思うこともあります。
 

そんな自分を責めすぎないでください。

大切なのは、家族だけで抱え込まないことです。
 

地域包括支援センターや医療機関、ケアマネジャー、介護サービスなどに相談し、

「最近、このような行動が増えて困っている」

と具体的に伝えることが、支援につながる第一歩です。
 

本人の行動を理解することと、家族が我慢し続けることは同じではありません。
 

本人も支える。
家族も支える。

両方が必要です。
 


「問題のある人」から「困っている人」へ

認知症のある方の行動だけを見ると、「困った人だ」と思ってしまうことがあります。
 

でも視点を少し変えて、「この人は今、困っているのではないか」と考えてみる。
 

同じ質問を繰り返す人ではなく、

不安を抱えている人。

財布を盗られたと言う人ではなく、
大切な物が見つからず心細い人。
 

家に帰りたいと言う人ではなく、
安心できる場所を求めている人。

怒っている人ではなく、
何をされるのか分からず怖がっている人。
 

こうして見ると、私たちの声のかけ方も変わってきます。
 

認知症への理解とは、症状の名前を覚えることだけではありません。
 

目の前の行動の奥に、「どんな困りごとがあるのだろう」と想像してみること。

そこから、本当の意味での「寄り添う」が始まるのではないでしょうか。
 


今日の小さな一歩

認知症のある方の行動に戸惑った時、すぐに、「どうしてこんなことをするの?」と考える代わりに、一度だけ問いを変えてみてください。
 

「この人は今、何に困っているのだろう?」
 

不安なのかもしれない。
分からないのかもしれない。
怖いのかもしれない。
何かを伝えたいのかもしれない。
 

すぐに答えが見つからなくても構いません。
 

「問題行動」と決めつける前に、その人の世界を少し想像してみる。

その小さな視点の変化が、本人との関係を変える一歩になるかもしれません。
 

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2026年07月17日 17:02

想定外の介護|第3回母だけではなかった。父にも、家族が見えていなかった変化が起きていた

第3回

母だけではなかった。父にも、家族が見えていなかった変化が起きていた

排せつ、インスリン、服薬、入浴、そして突然の急変―施設でも在宅でも起こりうる介護の現実

※この記事は、介護施設の対応を批判するものではありません。日々、父母の生活を支えてくださっている施設職員の方から丁寧に状況を共有いただいたことで、家族が初めて知ることのできた介護の現実をもとに書いています。本人の尊厳と個人情報に配慮し、一部の表現を整えています。

母の状態に驚いていた私に、もう一つの連絡が届いた

前回の記事では、特養に入居している母について書きました。
 

面会時の母は、表面的には元気そうに見えました。

表情は穏やかで、こちらの問いかけにも反応してくれました。
 

私は正直なところ、「思っていたより元気そうだ」「施設で落ち着いて過ごせているのかもしれない」と、少し安心していました。
 

ところが、施設の方から日常生活の状況を詳しく教えていただき、母の生活力の低下が、私の想像以上に進んでいたことを知りました。
 

自分からトイレに行くことが難しくなっている
声かけや誘導が必要になっている
歩ける距離も短くなっている

面会で見えていた姿と、日々の生活の現実は違っていました。
 

私は、母の状態について考えていました。

ところが、その後、父についても新たな情報が入りました。
 

私は、再び言葉を失いました。

母だけではなかったのです。

父にもまた、私たち家族が見えていなかった変化が起きていました。

父は「まだ大丈夫」ではなかった

父にも、排せつに関する支援が必要になっていました。

長い距離を歩くことは難しくなり、排せつ後には毎回の確認が必要になっているとのことでした。
 

きちんと確認や清潔保持を行わなければ、皮膚が赤くなったり、ただれたりする可能性があります。


排せつの支援というと、私はどこかで、「トイレまで連れて行けばよい」「パットを交換すればよい」

という程度に考えていたのかもしれません。
 

しかし、現実はそれほど単純ではありません。
 

トイレまで安全に移動できるか?
排せつが終わったことを理解できるか?
衣類を整えられるか?
汚れが残っていないか?
皮膚に異常がないか?
 

一度対応すれば終わりではなく、その都度、確認する必要があるのですね。
 

仮に家族が在宅で介護するとすれば、こうした対応が、朝も昼も夜も生活の中に入ってくる可能性があります。

毎日11時30分に必要なインスリン注射

さらに父には、糖尿病の持病があるため、毎日11時30分にインスリン注射が必要です。

しかも、父自身では注射を行うことができません。
 

介護というと、食事や歩行、排せつ、入浴など、日常生活の手伝いを思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、実際には、医療に関わる対応が日常生活の中に組み込まれることがあります。
 

しかも、インスリンは、「今日は忙しいから後で」「家族が帰宅してから」「時間のある時に」というわけにはいきません。

決められた時刻が来れば、時間通りに対応しなければなりません。
 

施設では、職員の方々が時間を確認しながら対応してくださっています。
 

もし在宅で介護していたら。

誰が11時30分に対応するのか?
仕事をしている家族はどうするのか?
一人になる時間帯はどうするのか?
 

その現実を、私は正直十分に認識ができておらず任せっきりになっていました。

薬は、置いておけば飲めるものではなかった

父の内服薬には、食事の前に飲む薬と、食事の後に飲む薬がありました。

これも毎回の確認が必要だと教えていただきました。
 

薬を用意しておけば、自分で飲んでくれる。

家族は、そう考えてしまうことがあります。
 

しかし実際には、
 

飲んだかどうかを忘れる。
食前と食後の薬を間違える。
薬が目の前にあっても、飲む行動につながらない。
飲んだつもりになっている。
 

そうしたことが起こり得ます。

会話ができることと、薬を正しく管理できることは同じではありません。
 

「自分でできる」と本人が話していても、実際には誰かの確認が必要になっていることがあります。

ここにも、家族には見えにくい介護の現実であり、しっかりと認識する必要性をあらためて感じました。

入浴は、浴室へ連れて行けば終わりではない

父は、声のかけ方や対応の仕方によっては、入浴を拒否することがあるそうです。
 

「面倒だから今日は入らない。」
 

本人にそう言われた場合、強く勧めれば反発するかもしれません。

そのまま受け入れれば、入浴できない日が続くかもしれません。
 

どのタイミングで声をかけるのか?
どんな言葉を使うのか?
誰が声をかけるのか?
本人の気分や体調はどうか?
 

施設職員の方は、父の様子を見ながら、入浴につながるよう工夫してくださっていました。

家族から見れば、「お風呂に入ってもらう」という一つの出来事です。
 

しかし、その一つの出来事の前には、本人の気持ちを読み、拒否を強めないように働きかける、細やかな対応が必要になります。

在宅介護でも、同じことは起こり得ます。
 

家族だから素直に応じてくれるとは限りません。

むしろ家族だからこそ、強く反発されることもあるのだと思います。

朝は普通だった父が、数時間後には危険な状態に

私が最も驚いたのは、父の急変の予兆があったことでした。
 

ある日の朝食時、父には特に目立った症状がなかったそうです。
 

ところが、その日の10時頃、間質性肺炎の急性増悪が起こったとのことでした。

酸素飽和度が大きく下がり、一時的に危険な状態になったと教えていただきました。
 

朝食を食べていた時には、普段と大きく変わらなかった。

それなのに、わずか数時間後には、最悪の場合命に関わりかねない状態になっていたのです。
 

私は介護について、それなりに理解しているつもりでした。

父が間質性肺炎であることも知っていました。
 

それでも、

「朝はいつもどおりだったのに、数時間後には危険な状態になる。」

という現実を、最近は具体的には想像できていませんでした。
 

介護では、「さっきまで大丈夫だった。」が通用しないことがあります。
 

昨日できていたことが、今日はできない。
朝は落ち着いていたのに、昼には急変する。
一つの問題が落ち着いたと思ったら、別の問題が出てくる。
 

介護は、一つの出来事ではなく、想定外が次々と起こるものなのだと、改めて感じました。

施設にいるから起きたことではない

ここで誤解していただきたくないのは、これらの出来事が、施設に入居しているから起きたわけではないということです。
 

排せつの問題
インスリン注射
食前・食後の服薬確認
入浴拒否
突然の体調悪化
 

これらは、父の病気や身体機能、認知機能、生活力の変化によって起きていることです。
 

自宅で暮らしていたとしても、同じことが起こる可能性があります。

施設では、その一つひとつを職員の方々が見守り、対応してくださっています。
 

決まった時間にインスリンを行う。
薬が正しく飲めているか確認する。
排せつ後の状態を見る。
皮膚の変化に気づく。
入浴を拒否した時に、言葉やタイミングを変えて働きかける。
急変時に酸素の状態を確認し、必要な対応を取る。
 

施設の方から教えていただかなければ、私は父が日常生活の中でどれほど多くの支援を受けているのかを知りませんでした。
 

施設に入っているから大丈夫なのではありません。

施設の方々が日々対応してくださっているから、父母の生活が成り立っているのです。

面会だけでは分からない、二人の生活

面会では、父も母も、比較的落ち着いて見えることがあります。
 

会話ができる。
椅子に座っている。
こちらを見て反応してくれる。
 

そうした姿を見ると、家族は安心します。

でも、面会の時間は、父母の一日のごく一部です。
 

面会が終わった後には、
 

排せつがある
薬を飲む時間がある
インスリンの時間がある
入浴への声かけがある
夜間の見守りがある
突然の体調変化があるかもしれない
 

家族が見ていない時間の中に、介護の現実があります。
 

母の状態に驚いた後、父についても詳しい状況を知り、私はこう思いました。

「見えていなかったのは、母だけではなかった。」

父も母も、それぞれ違う形で、私が想像していた以上の支援を必要としていました。

「うちの親は大丈夫」は、何を見て判断しているのか?

親と電話で話した。
声は元気だった。

面会に行った。
受け答えもできた。

一人で歩いていた。
食事も食べていた。
 

そうした姿から、「まだ大丈夫」「介護はもう少し先」「そこまで状態は悪くない」と判断してしまうことがあります。
 

しかし、本当に見なければならないのは、表面的な受け答えだけではありません。
 

トイレに自分から行けているのか?
薬を正しく飲めているのか?
食事の前後を理解できているのか?
入浴や着替えができているのか?
一人の時間に急変したら対応できるのか?
 

家族が知らないだけで、すでに支援が必要な状態になっていることがあります。
 

読者の皆さんの親御さんにも、まだ見えていない変化があるかもしれません。

介護は、想定外が一度起きて終わるものではない

母の生活力の低下を知った時、私は驚きました。
 

しかし、それで終わりではありませんでした。
 

父にもまた、排せつ、インスリン、服薬、入浴、急変という、別の想定外が起きていました。
 

介護は、一つの大きな出来事が起きて、それを解決すれば終わるものではありません。

一つの問題に対応している間に、別の問題が現れる。
 

親の身体機能が変わる
認知機能が変わる
必要な医療が増える
家族が判断を求められる

 

しかも、父と母が同時に、それぞれ違う課題を抱えることもあります。

これこそが、私がこの連載で伝えたい「想定外の介護」の現実です。
 

不安をあおりたいわけではありません。
 

ただ、
 

そんなことも起こるのか?
施設にいても、これほど多くの対応が必要なのか?
在宅であれば、それらのことを家族が担う可能性もあるのか?
うちの親も、見えていないだけかもしれない?
 

と、一度立ち止まって考えていただきたいのです。
 

親の介護準備は、何か重大な決断をするところから始まるとは限りません。
 

まずは、今の親の生活を、家族がどこまで知っているのか?

そこに気づくことが、最初の一歩なのだと思います。
 

私が作成した「親が倒れる前の介護準備チェックシート」では、健康・医療、介護・暮らし、お金・資産、家族の役割、終末期・終活、親への切り出し方まで、30項目で確認できるようにしています。
 

「まだ大丈夫」と思っている今だからこそ、家族が慌てないために、親が元気なうちに現状の確認と整理するところから始めてみませんか?
 

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2026年07月13日 19:01

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