【第2回】あなたの老後資金計画に「親の介護費用」は入っていますか?
全20回連載
「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」
親の介護、自分たちの介護、仕事とお金―50代・60代が今から考えたい20の現実
■老後資金は考えていても、「親の介護費用」は考えていない?
50代、60代になると、自分たちの老後について考える機会が増えてきます。
「年金はいくらもらえるのだろう?」
「退職金はいくら残るだろう?」
「老後の生活費はいくら必要だろう?」
「NISAなどでもう少し資産を増やした方がよいだろうか?」
こうしたことを考えたり、老後資金のシミュレーションをしたりしたことがある方も多いと思います。
ところが、ここで一つ質問があります。
その老後資金計画に、「親の介護費用」は入っているでしょうか?
さらに言えば、自分の両親だけではありません。
結婚している方であれば、
・自分の父親
・自分の母親
・配偶者の父親
・配偶者の母親
最大4人の親について、介護が必要になる可能性があります。
もちろん、4人全員に介護が必要になるとは限りません。
また、親の介護費用をすべて子どもが負担するという意味でもありません。
しかし、50代、60代のライフプランを考えるのであれば、「親の介護によって、自分たち夫婦のお金と働き方に何が起こる可能性があるのか?」という視点は、最初から入れておく必要があると私は考えています。
■介護は、決して一部の家庭だけの問題ではありません
総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年時点で介護をしている人は約629万人。
そのうち、仕事を持っている人は約365万人です。
つまり、多くの人が、「仕事をしながら家族の介護をする。」という状況に置かれています。
私たちが老後資金について考える50代・60代は、同時に親の高齢化が進む時期でもあります。
自分たちの老後を準備しなければならない。
でも、親の介護にも対応しなければならない。
ここに、ミドルシニア世代特有の難しさがあります。
【引用・参考】
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf
■「親のお金だから大丈夫」とは限らない
本来、親の介護に必要なお金は、まず親自身の年金や預貯金などから支払うことを基本に考えることが大切です。
しかし、実際に介護が始まったとき、
「親の年金額を知らない。」
「預貯金がどのくらいあるのか分からない。」
「どこの銀行に口座があるのか知らない。」
「生命保険に入っているのか分からない。」
「施設に入ることになったら、いくらまでなら払えるのか分からない。」
という家庭は珍しくありません。
親が元気なうちは、お金のことを聞くのに抵抗を感じる方も多いでしょう。
しかし、何も分からない状態で突然介護が始まると、目の前の支払いを子どもが一時的に立て替えることも起こり得ます。
交通費、入院用品、介護用品、施設探し、実家との往復...。
一つ一つはそれほど大きな金額ではなくても、長期間続くことで自分たちの家計に影響していきます。
■介護費用は「月々のサービス利用料」だけではありません
生命保険文化センターの2024年度調査によると、介護経験者が負担した介護の一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円でした。
介護期間は平均4年7カ月となっています。
また、介護を行った場所によっても費用は異なり、月々の平均費用は、
在宅 5.3万円
施設 13.8万円
となっています。
ただし、この数字を見て、
「9万円×55カ月だから約500万円」
「それが親4人だから約2,000万円」
などと単純に計算することは適切ではありません。
介護期間、要介護度、在宅か施設か、親本人の年金や資産、公的制度の利用状況などによって、実際の負担は大きく異なるからです。
重要なのは、「平均でいくらかかるか?」だけではありません。
自分の家庭では、「誰に介護が必要になったとき、誰のお金を使い、どのように対応するのか?」を考えておくことです。
【引用・参考】
公益財団法人 生命保険文化センター
「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html
■問題は「介護費用」だけではなく「自分の収入」です
ここが、私が特にお伝えしたいところです。
親の介護による家計への影響を考えるとき、「介護にいくら払うのか?」ばかりを考えてはいけません。
もう一つ考えなければならないのが、「介護によって、自分の収入がどう変化するか?」です。
例えば、50代の会社員が親の介護に直面したとします。
親の通院同行のために有給休暇を取る。
ケアマネジャーとの打ち合わせのために早退する。
急な入院で仕事を休む。
遠距離介護で週末ごとに実家へ帰る。
残業や出張が難しくなる。
転勤を断る。
管理職を続けることが難しくなる。
そして最悪の場合、「もう仕事と介護を両立できない。」と会社を辞めてしまう。
すると、介護費用という「支出の増加」と、給与という「収入の減少」が、同時に起こることになります。
これが、親の介護を老後資金計画に入れておかなければならない最大の理由の一つです。
■自分の老後資金を準備する時期と、親の介護が重なる
50代は、本来であれば老後資金を最後に積み上げていきたい大切な時期です。
住宅ローンを終わらせる。
子どもの教育費が一段落する。
退職までの10年ほどで預貯金を増やす。
NISAなどを活用して資産形成を続ける。
定年後の働き方について考える。
ところが、その大切な時期に親の介護が始まり、「お金を積み立てる時期」から、「お金を取り崩す時期」へ突然変わってしまう可能性があります。
さらに、働き方まで変われば、老後資金計画そのものを見直さなければならなくなります。
だから私は、親の介護を「親だけの問題」として考えるのではなく、「自分たち夫婦のライフプランの一部」として考える必要があると思っています。
■介護する側も高齢化しています
2025年の厚生労働省「国民生活基礎調査」では、要介護者等と同居する主な介護者について、「要介護者と介護者がともに60歳以上」という組み合わせが79.0%でした。
「ともに65歳以上」も61.9%です。
介護する側自身も高齢化しているということです。
親の介護が長期化すれば、「親の介護をしていたら、自分自身も高齢者になっていた」ということも十分に考えられます。
そして親の介護が終わった後には、今度は、
自分自身の介護。
配偶者の介護。
という問題が待っているかもしれません。
だからこそ、老後資金計画を考えるときには、「自分たち夫婦の生活費」だけではなく、親の介護から自分たちの介護までを、一つの時間軸で考えていく必要があります。
【引用・参考】
厚生労働省
「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf
■大切なのは「親4人分のお金を準備すること」ではありません
ここまで読むと、「親4人の介護費用まで自分たちで準備しなければいけないのか?」と不安になる方もいるかもしれません。
そうではありません。
私がお伝えしたいのは、「子どもが親4人分の介護費用を貯めましょう。」という話ではありません。
むしろ逆です。
親の介護によって自分たちの老後資金を失わないために、親が元気なうちに、
・親自身の年金や資産を確認する
・どこで暮らしたいのかを聞く
・介護が必要になったときの希望を聞く
・兄弟姉妹の役割を話し合う
・費用を誰がどこまで負担するのか考える
・自分の勤務先の介護支援制度を確認する
こうした準備をしておくことが重要なのです。
つまり、「介護費用を準備する」だけではなく、「介護で自分たちの家計を壊さない仕組みを準備する」ということです。
■私自身、両親の介護に直面して感じたこと
私自身、両親の介護に直面して、改めて感じたことがあります。
親が元気なときには、「そのときになったら考えればいい」と思ってしまいがちです。
しかし、実際に入院や介護が始まると、短期間にさまざまな判断を求められます。
病院への対応。
介護認定。
介護サービス。
住まい。
お金。
仕事の調整。
家族との役割分担。
こうしたことが一度にやってきます。
その状態になってから、
「お父さん、預金はいくらあるの?」
「お母さん、施設に入りたい?」
「兄弟で誰がいくら負担する?」
と話し合うのは、簡単ではありません。
だからこそ、「まだ介護なんて必要ない」と思える時期に話を始めることが、とても大切なのだと感じています。
■今日からできること――「4人の親」を書き出してみる
今日、ぜひ一度やっていただきたいことがあります。
紙を1枚用意して、
自分の父
自分の母
配偶者の父
配偶者の母
を書き出してみてください。
そして、それぞれについて、
① 年齢
② 現在の健康状態
③ 一人暮らしか、夫婦暮らしか?
④ 年金や預貯金について家族が把握しているか?
⑤ 介護が必要になった場合、誰が最初に対応しそうか?
⑥ 在宅・施設など、本人の希望を聞いたことがあるか?
を確認してみてください。
すべて「分からない」でも構いません。
大切なのは、「自分が何を知らないのか?」に気づくことです。
それが、介護準備のスタートになります。
■老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる
老後資金計画というと、
「いくら貯めるか?」
「何%で運用するか?」
という話になりがちです。
もちろん、それも大切です。
しかしその前に、
親の介護による支出。
介護による自分の収入減少。
そして、その後に訪れる自分と配偶者の介護。
ここまで含めて考えて初めて、本当の意味での老後資金計画になるのではないでしょうか?
老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。
この視点を、50代・60代の方にぜひ持っていただきたいと思っています。
■次回予告
第3回は、「親4人、自分たち夫婦2人――最大6人の介護をどう考えるか?」をテーマにお伝えします。
「親の介護が終われば安心」というわけではありません。
その先にある自分自身と配偶者の介護まで含めて、人生後半の介護をどのように捉えればよいのかを考えていきます。
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