【第1回】老後資金を増やす前に、考えておかなければならないこと
全20回連載:「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」
親の介護、自分たちの介護、仕事とお金
50代・60代が今から考えたい20の現実
■老後資金の話が、資産運用の話だけになっていませんか?
50代、60代になり、老後のお金について考え始める方が増えています。
年金はいくら受け取れるのか?
退職金はいくら残るのか?
NISAやiDeCoを活用した方がよいのか?
預貯金だけでは、物価上昇に対応できないのではないか?
どれも大切な問題です。
私もファイナンシャルプランナーとして、老後に向けた資産形成や家計管理は必要だと考えています。
しかし、老後資金を考えるときに、見落とされやすい大きな問題があります。
それが「介護」です。
あなたの老後資金計画には、次のことまで組み込まれているでしょうか?
・自分の両親の介護
・配偶者の両親の介護
・自分自身の介護
・配偶者の介護
・介護によって働き方が変わる可能性
老後資金を考える際には、年金や生活費だけでなく、家族の介護についても考える必要があります。
■介護は「お金が出ていく問題」だけではありません
親の介護について考えるとき、多くの方は、介護サービスや施設に支払う費用を思い浮かべるのではないでしょうか?
生命保険文化センターの2024年度調査によると、介護にかかった一時的な費用は平均47.2万円、毎月の費用は平均9万円、介護期間は平均4年7カ月です。
介護期間が4年を超えた人も約4割います。
もちろん、これはあくまで平均です。
在宅介護か施設介護か、要介護度、介護期間、親の年金や預貯金などによって、実際の負担は大きく異なります。
また、介護保険サービスの自己負担以外にも、次のような支出が発生する可能性があります。
・実家までの交通費や宿泊費
・通院や入退院への付き添い
・紙おむつや配食などの保険外費用
・住宅改修や介護用品の購入費
・空き家となった実家の維持費
・親の費用の一時的な立て替え
しかし、家計にとってさらに大きな問題となる可能性があるのが、介護による「収入の減少リスク」です。
参考:公益財団法人 生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html
■支出の増加と収入の減少が同時に起こる可能性が...
親の通院同行やケアマネジャーとの打ち合わせ、入退院の手続き、緊急時の対応が必要になると、これまでどおりに働くことが難しくなる場合があります。
会社を辞めなかったとしても、次のような変化が起こるかもしれません。
・残業や休日出勤を減らす
・短時間勤務を選ぶ
・管理職や責任の重い役割を辞退する
・転勤や昇進を断る
・賞与や手当が減る
・学び直しや複業に使う時間を失う
厚生労働省の資料によると、2022年には家族の介護や看護を理由として約10万6千人が離職しています。
また、家族を介護しながら働いている人は、364万6千人に達しています。
介護離職をすると、給与がなくなるだけではありません。
厚生年金への加入期間、将来受け取る年金、退職金、再就職後の収入などにも影響する可能性があります。
つまり、親の介護が始まると、
「介護に関する支出が増える」ことに加えて、「働き方が変わり、収入が減る」という二つの問題が、同時に発生する可能性があるのです。
参考:厚生労働省「仕事と介護の両立支援」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001435348.pdf
■中流家庭でも家計が急速に弱る可能性がある
一定の収入と預貯金があり、これまで安定して暮らしてきた家庭でも、準備のないまま親の介護が始まると、家計が次のように変化することがあります。
親の介護費用を、子どもが立て替える。
通院や見守りのために仕事を休み、収入が減る。
家族の中の一人に負担が集中し、心身ともに疲弊する。
「仕事と介護の両立は無理だ」と考え、会社を辞める。
生活費や住宅ローンを支払うため、預貯金を取り崩す。
NISAなどの積立を中止し、保有している金融商品も売却する。
再就職しても、以前と同じ収入には戻れない。
その結果、自分と配偶者の老後資金や介護資金まで不足していく。
こうした連鎖が続けば、中流家庭でも老後資金を急速に失い、将来的には公的支援が必要になるほど家計が弱る可能性があります。
経済産業省は、仕事をしながら家族を介護する人が2030年に約318万人となり、介護離職や労働生産性の低下などによる経済損失が、約9兆円に上ると試算しています。
介護は、家庭だけの問題ではありません。
本人のキャリア、企業経営、そして社会全体にも影響する問題なのです。
参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
■NISAなどによる資産運用の検討を否定しているわけではありません
ここで、誤解していただきたくないことがあります。
私は、NISAやiDeCoなどの資産形成の検討を否定しているわけではありません。
長期的な資産形成は、人生100年時代を生きるうえで重要な選択肢です。
ただし、資産運用は、人生の目的や将来必要となる資金を整理したうえで行う「手段」です。
何のためのお金なのか?
いつ使う可能性があるのか?
急に現金が必要になったとき、取り崩しても問題がないのか?
親の介護、自分たちの介護、これからの働き方を確認しないまま資産運用を始めると、本来は近い将来に必要となるお金まで運用に回してしまう可能性があります。
だからこそ、順番が大切です。
「老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。」
これが、この連載を通して私がお伝えしたい中心的なメッセージです。
■私自身、両親の介護に直面して感じたこと
私は2023年3月から、私自身の両親の介護に直面しています。
介護や社会保障の制度を知っていても、ある程度の知識があっても、自分の家族の介護の問題になると、簡単にはことは運びません。
親にどのように話を切り出すのか?
病院や介護関係者とのやり取りを誰が行うのか?
仕事の予定をどう調整するのか?
家族の中で、誰がどこまで対応するのか?
親のお金について、どこまで確認してよいのか?
知識があることと、実際に家族として動けることは、別の問題だと痛感しました。
だからこそ私は、介護が始まってから慌てて対処するのではなく、親が元気なうちに、仕事・お金・家族関係を整理しておくことが必要だと考えています。
終活は、親に死の準備を迫ることではありません。
親がこれからも、どこで、誰と、どのように暮らしたいのかを聞き、もしものときに家族が困らないように、少しずつ確認していくことです。
■今日からできる最初の一歩
まずは、次の人たちの名前を紙に書き出してみてください。
・自分の父親、母親
・配偶者の父親、母親
・自分自身
・配偶者
すべての方が介護を必要とするとは限りません。
しかし、自分と配偶者の両親、自分たち夫婦まで含めれば、介護について考える対象は最大6人になり得ます。
そして、それぞれについて、次の三つを確認してみてください。
1.介護が必要になった場合、誰が最初に動くのか?
2.費用は、誰の年金や資産から支払うのか?
3.どこで、どのように暮らしたいと考えているのか?
答えが分からなくても問題ありません。
「分からないことに気づくこと」が、準備の第一歩です。
■これから全20回でお伝えすること
この連載では、次のようなテーマについて、全20回にわたってお伝えします。
・親の介護には実際にいくらかかるのか?
・介護離職が家計と将来の年金に与える影響は?
・親の介護費用を誰が負担するのか?
・兄弟姉妹で役割をどう分担するのか?
・親が元気なうちに確認したいことは?
・介護休業制度をどのように活用するのか?
・自分と配偶者の介護費用をどう準備するのか?
・介護資金と資産運用に回すお金をどう分けるのか?
老後資金を増やす方法を考える前に、介護によって人生と家計を壊さない準備を始めていきましょう。
■次回予告
第2回は、「あなたの老後資金計画に『親の介護』は入っていますか?」をテーマにお伝えします。
自分の両親と配偶者の両親の介護が、50代・60代の家計と働き方にどのような影響を与えるのかを、一緒に考えていきましょう。
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老後資金を考えるとき、年金やNISAなどの資産運用だけでなく、親の介護に伴う支出や収入減少、自分自身と配偶者の介護費用まで考えることが大切です。
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