【第5回】介護離職対策は万全ですか? 経営者が確認したい5つの視点
社員50人以下の会社を守る!介護離職防止の実践講座
~小さな会社だからこそできる、人材を守る30の取り組み~
2026年11月8日時点の公的資料に基づいて作成
はじめに―「制度があるから大丈夫」と思っていませんか?
「うちには介護休業制度があるので、特に問題はありません」
「社員から介護の相談を受けたことがないので、今のところ大丈夫です」
経営者や人事担当者の皆様の中には、このように考えている方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、介護休業制度が整備されていることは大切です。
しかし、制度があることと、従業員が必要なときに実際に利用できることは、必ずしも同じではありません。
もし明日、長年会社を支えてきた社員から、「親の介護が始まりました。仕事を続けられるか不安です」と相談されたら、御社ではどのように対応するでしょうか。
制度の内容を説明できるでしょうか。
本人の希望を確認し、働き方について話し合えるでしょうか。
今回は、これまでの第1〜4回の内容を振り返りながら、社員50人以下の会社が介護離職防止対策を確認するための5つの視点をご紹介します。
この記事の最後には、経営者・幹部社員・人事担当者の皆様が活用できる10項目のセルフチェックも用意しました。
ぜひ、自社の状況を思い浮かべながらお読みください。
2026年現在、介護離職防止対策は既に企業の法的義務です
まず、制度の現状を確認しましょう。
2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法では、介護離職防止のための雇用環境整備、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認、40歳前後での情報提供などが事業主の義務となりました。
2026年11月現在、これらは既に施行されている義務です。
「これから法改正への準備を進める」という段階ではありません。
自社で必要な対応を実施できているか、そして実際に運用できているかを確認する段階です。
また、これらの義務は、従業員50人以下という会社規模だけを理由に免除されるものではありません。
本連載で「社員50人以下」としているのは、特に人員や予算に制約のある小規模企業に焦点を当てるためであり、法律上の適用範囲を示す区分ではありません。
【出典】厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
視点①|法令上必要な制度と雇用環境整備を確認していますか?
最初に確認したいのは、介護に関する制度と、法律で求められる雇用環境整備です。
2025年4月から、事業主は、介護休業・介護両立支援制度等を利用しやすい雇用環境を整えるため、次の4つから少なくとも1つの措置を実施しなければなりません。
-
介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
-
介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備
-
自社の労働者による制度利用事例の収集・提供
-
介護休業・介護両立支援制度等の利用促進方針の周知
厚生労働省は、複数の措置を実施することが望ましいとしています。
ここで注意したいのは、4つすべてが一律に義務づけられているわけではないことです。
また、従業員への声かけだけで、必ず法令上必要な環境整備を行ったことになるわけでもありません。
実施した措置の内容が適切であるかを確認する必要があります。
さらに、介護休業・介護休暇など、従来からある法定制度についても、自社の社内ルールや運用が適切か見直したいところです。
【経営者への問い】
「御社では、法令上必要な介護離職防止のための措置を、具体的に実施していますか?」
視点②|40歳前後の社員への早期情報提供はできていますか?
介護離職防止は、社員が介護に直面してから始めるものではありません。
2025年4月から、企業は介護に直面する前の早い段階で、介護休業制度等に関する情報を提供する義務があります。
情報提供を行う時期は、次のいずれかです。
-
労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度
-
労働者が40歳に達する日の翌日(40歳の誕生日)から1年間
また、情報提供する事項には、介護休業に関する制度、介護両立支援制度等、その申出先、介護休業給付金に関する情報が含まれます。
介護保険制度についても併せて周知することが望ましいとされています。
ここで重要なのは、対象者に対して、法令に沿った時期と内容で情報提供を行うことです。
また、これは法律上の義務とは別の提案ですが、私は40歳前後の社員だけでなく、全社員が必要なときに制度を確認できる状態を整えることもお勧めします。
親の介護が始まる時期には個人差があり、40歳になる前から家族介護に直面する社員もいるためです。
【経営者への問い】
「対象となる社員へ、必要な情報を適切な時期に提供できていますか?」
視点③|介護の相談を受けたときの対応手順は決まっていますか?
社員から突然、「母親の介護が必要になりました」と相談されたとします。
このとき、上司や人事担当者はどのように対応するでしょうか。
2025年4月から、介護に直面した旨の申し出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する個別周知と、制度利用の意向確認を行う必要があります。
個別に周知すべき事項は、主に次の3つです。
-
介護休業に関する制度・介護両立支援制度等
-
これらの制度の申出先
-
介護休業給付金に関すること
周知・意向確認の方法として、面談、書面交付、FAX、電子メール等が認められています。
ただし、FAXや電子メール等による方法は、労働者が希望した場合に限られます。
制度の利用を控えさせるような対応も認められません。
企業としては、少なくとも次の点を決めておきたいところです。
「誰が相談を受けるのか」
「誰が制度を説明するのか」
「どのように利用意向を確認するのか」
「必要な手続きをどう進めるのか」
厚生労働省は、企業向けに個別周知・意向確認書の記載例や相談対応ツールを公開しています。
こうした公的資料を利用することで、専任の人事担当者がいない会社でも、必要な体制を整えやすくなります。
【参考】
厚生労働省「企業による社員の仕事と介護の両立支援に向けた実務的な支援ツール」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61776.html
【経営者への問い】
「明日、社員から介護の相談を受けた場合、担当者は必要な制度周知と意向確認を行えますか?」
視点④|社員が安心して相談できる職場になっていますか?
介護離職防止を考えるうえで、もう一つ重要なのが相談しやすい職場環境です。
これまでの第3回・第4回でもお伝えしましたが、会社に介護の相談がないことと、介護に関する問題が存在しないことは同じではありません。
社員が、
「周囲に迷惑をかけたくない」
「介護していると知られたら、重要な仕事を任せてもらえなくなるかもしれない」
「家族の事情を会社に知られたくない」
と考える可能性もあります。
もちろん、社員の家庭事情を会社が無理に聞き出すべきではありません。
大切なのは、本人が必要だと感じたときに、安心して相談できることです。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
-
社内の相談先や連絡方法を明確にする
-
管理職に相談対応の基本を伝える
-
相談内容を共有する範囲や管理方法を決める
-
社員の希望を確認し、必要な制度や支援策につなぐ
ここで、法令上の義務と実務上の改善策を区別しておきましょう。
相談体制の整備は、先ほどの雇用環境整備に関する4つの措置のうちの1つです。
したがって、すべての事業主に相談窓口の設置自体が一律に義務づけられているわけではありません。
ただし、介護に直面した社員への個別周知・意向確認など、別途求められる法令上の対応は必要です。
私は、会社の規模が小さくても、安心して相談できる体制を明確にすることには大きな意味があると考えています。
【経営者への問い】
「御社の社員は、介護に直面したとき、誰に相談すればよいか分かっていますか?」
視点⑤|社員が急に休んでも、業務を続けられますか?
最後の視点は、事業継続と業務の引き継ぎです。
例えば、従業員30人の会社で、主要顧客を担当しているベテラン社員が、親の介護のために急な休暇を取得することになったとします。
そのとき、会社は対応できるでしょうか。
顧客との関係が特定の社員だけに集中している。
現場の業務手順を、その社員しか理解していない。
仕事の進捗状況が社内で共有されていない。
このような状態では、社員が介護や病気などで一時的に休む場合にも、業務の継続が難しくなる可能性があります。
そこで、私は次のような取り組みをお勧めします。
-
重要な業務の手順を文書に残す
-
複数の社員が対応できる仕事を増やす
-
顧客情報や業務の進捗を適切に共有する
-
急な欠勤に備えた引き継ぎ方法を決める
-
必要に応じて勤務時間や担当業務の調整を検討する
これらは、すべてが介護離職防止のための個別の法的義務というわけではありません。
企業が人材を守り、事業を継続していくために、私がお勧めする経営上の対策です。
【経営者への問い】
「主力社員が介護のために急に休むことになっても、事業を継続できる体制がありますか?」
【実践編】介護離職防止・10項目セルフチェック
ここまでの5つの視点をもとに、経営者・幹部社員・人事担当者が自社の状況を振り返るためのチェックリストを作成しました。
それぞれについて、「できている」「できていない」「分からない」のいずれかで確認してみてください。
A.法令への対応状況
□ ① 介護休業・介護休暇等の法定制度について、自社の規程や運用を確認している。
□ ② 介護離職防止のために、法令で定められた雇用環境整備の措置を少なくとも1つ実施している。
□ ③ 40歳前後の対象社員に、法令で定められた時期と内容で情報提供を行っている。
□ ④ 介護に直面した社員への個別周知・意向確認を実施できる手順がある。
B.社内での実際の運用状況
□ ⑤ 制度の申出先や利用方法を、社員が確認できる。
□ ⑥ 介護について相談があった場合、担当者が本人の希望を尊重して適切に対応できる。
□ ⑦ 相談内容や個人情報の取扱いについて、社内でルールを設けている。
C.人材定着と事業継続の取り組み
□ ⑧ 重要な業務について、担当者が不在の場合の対応方法を考えている。
□ ⑨ 特定の社員に依存する業務を減らすための取り組みを進めている。
□ ⑩ 介護に直面した社員の希望を踏まえ、利用可能な制度や働き方の調整について検討できる。
いかがでしょうか。
「できていない」「分からない」という項目があった場合は、その内容を確認することから始めましょう。
ただし、この10項目は、私が企業の現状把握のために作成した簡易チェックリストです。
法令上のすべての義務を網羅しているものではなく、チェックがすべて付いても、法令への適合性が保証されるわけではありません。
また、チェック項目の達成数から介護離職の発生確率を計算できるものでもありません。
法令上必要な措置については、個別に要件を確認する必要があります。
まず30分、自社の介護離職防止対策を考える時間を
「やるべきことは分かったけれど、何から始めればよいか分からない」
そのような場合、私はまず30分ほど時間を設けて、経営者と人事担当者が自社の対応状況を確認することをお勧めします。
最初の10分:法令上の義務を確認する
雇用環境整備、40歳前後の情報提供、介護に直面した社員への個別周知・意向確認について確認します。
次の10分:相談体制と情報提供の方法を確認する
社員が制度を確認できるか、相談を受ける担当者が適切に対応できるかを考えます。
最後の10分:改善する項目を一つ決める
制度の案内資料を整える。
相談先を明確にする。
管理職に相談対応の研修を実施する。
重要な業務の引き継ぎ方法を見直す。
まずは、実行できる取り組みから始めましょう。
なお、法令上の未対応事項が判明した場合には、通常の改善活動よりも優先して、速やかに対応する必要があります。
2026年現在、企業が活用できる公的支援ツール
厚生労働省は、仕事と介護の両立支援に関する実務ツールを公開しています。
例えば、
-
企業向けの社内研修資料
-
介護休業・介護両立支援制度等の周知資料
-
40歳前後の社員への情報提供の記載例
-
個別周知・意向確認書の記載例
-
介護相談を受けた場合の対応ポイント
-
面談シートや仕事と介護の両立支援プラン
などです。
また、2026年度からは、従来の「介護支援プラン」が「仕事と介護の両立支援プラン」という名称に変更されています。
これは、介護に直面した社員の状況に応じて、仕事と介護の両立支援を進めるための実務ツールです。
すべての企業に、この名称のプランの作成が一律に義務づけられているわけではありません。
【出典】
厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
専任の人事担当者がいない会社でも、こうした公的資料を活用することで、取り組みを進めやすくなります。
キャリアコンサルタントとして、そして家族介護の当事者として
私は、生命保険業界で約20年間、営業管理職を経験した後、国家資格キャリアコンサルタントに転身しました。
これまで多くの方々のキャリア形成や働き方の相談に携わってきました。
そして、2023年からは私自身も父母の介護を経験し、2026年9月には父の看取りも経験しました。
専門家として働く人の悩みに向き合ってきた立場と、家族として介護に向き合ってきた立場。
その両方の経験を通じて感じるのは、介護が始まる前から備えることの大切さです。
介護には、仕事だけでなく、家族との関係、生活設計、本人の健康、将来への希望など、さまざまな事情が関わります。
だからこそ、介護離職防止は、単に社員を会社に引き留めるための取り組みであってはならないと考えています。
社員本人の希望を尊重し、仕事を続けたいと考えている方が、退職という選択を急がずに済む環境をつくること。
そして、会社にとっても大切な人材が能力を発揮し続けられる職場を整えること。
その両方を大切にした支援が必要だと思います。
おわりに――「何かあったら考える」から「今から備える」へ
経済産業省は、2026年3月に「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を改訂しました。
このガイドラインでは、仕事と介護の両立支援を、人材不足へのリスクマネジメントや人的資本経営に関わる課題として位置づけています。
【出典】
経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2026年3月改訂)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
社員50人以下の会社でも、今から取り組めることはあります。
法令上必要な対応を確認する。
社員に必要な情報を伝える。
安心して相談できる環境を整える。
業務の引き継ぎや働き方を見直す。
こうした小さな一歩が、社員のキャリアと会社の事業継続を支えることにつながると考えています。
介護離職防止は、社員の介護が始まってから考えるのではなく、今から備えておきたい経営課題です。
ぜひ今回の10項目チェックを活用し、御社の現状を振り返ってみてください。
次回、第6回は、「2026年現在、介護離職防止の法的義務に対応できていますか?」をテーマに、法律上の義務、努力義務、自主的な対策の違いを、より詳しく解説します。
【経営者・幹部社員・人事担当者の皆様へ】御社の介護離職への備えを確認してみませんか?
「自社の介護離職防止対策は、どこまでできているのだろうか?」
「制度は整えているけれど、実際の運用に不安がある」
そんな経営者・人事担当者の皆様に向けて、「介護離職危険度チェック(無料)」をご用意しています。
今回の記事の10項目セルフチェックをきっかけに、御社の現状や課題を改めて考えてみませんか。
▼介護離職危険度チェック(無料)
https://fwjmj.hp.peraichi.com/
※無料チェックは企業の現状把握を支援するものであり、法令への適合性を公的に証明するものではありません。
また、キャリア&ライフプラントータルサポートでは、中小企業の経営者・人事担当者の皆様に向け、次のような支援を提供しています。
-
介護離職防止研修
-
従業員向け個別カウンセリング
-
経営者・管理職向け相談対応支援
-
社内・社外相談体制の整備・運用支援
-
介護離職防止コンサルティング
-
「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ
「認知症世界の歩き方」は、認知症のある方が体験する世界への理解を深め、家族介護への備えや仕事と介護の両立について考えるきっかけとなる体験型プログラムです。
企業の規模や課題に応じて、必要な取り組みを一緒に考えていきます。
▼法人向けサービスのご案内
https://career-life.org/corporate_services.html
キャリア&ライフプラントータルサポート
代表 山岸 博幸
国家資格キャリアコンサルタント
「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)
参考資料・出典
1.厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
2025年4月1日施行済みの介護離職防止に関する事業主の義務、個別周知・意向確認、40歳前後の情報提供、雇用環境整備について参照。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
2.厚生労働省「企業による社員の仕事と介護の両立支援に向けた実務的な支援ツール」
法改正への対応、社員への制度周知、面談、相談対応などに関する具体的な資料を参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61776.html
3.厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」社内研修資料、各種チェックリスト、面談シート、「仕事と介護の両立支援プラン」策定マニュアルを参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
4.経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
2026年3月30日改訂。企業経営における仕事と介護の両立支援の意義と、経営者が取り組むべき事項を参照。https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
※本記事は2026年11月8日時点に確認できる公的資料をもとに作成しています。法令上の義務と筆者による実務上の推奨事項を区別して記載しています。
個別の法令適用や就業規則等の整備については、厚生労働省・都道府県労働局等の最新情報をご確認いただき、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

投稿されたコメントはありません