【第1回】社員50人以下の会社こそ、介護離職に備えるべき理由
社員50人以下の会社を守る!介護離職防止の実践講座
~小さな会社だからこそできる、人材を守る30の取り組み~
はじめに――大切な社員から突然、退職の相談を受けたら
「社長、少しお時間をいただけますか?」
長年会社を支えてきたベテラン社員から、突然このような相談を受けたら、どうされるでしょうか。
「親の介護が始まりました。今までどおりに仕事を続けられるか分かりません。退職も考えています」
これは実際の相談事例ではなく、想定した場面です。
例えば、従業員30人の会社で、主要顧客を担当している社員や、現場の技術・ノウハウを熟知した社員が退職することになったら...。
その影響は、単純に30人のうち1人が減るということではありません。
顧客との信頼関係、長年培われてきた技術、後輩への指導、社内の調整役としての働きなど、その社員が担っている役割によっては、会社の事業運営に大きな影響を与える可能性があります。
もちろん、親の介護が始まったからといって、必ず退職するわけではありません。
しかし、利用できる制度を知らず、職場にも相談できないまま、仕事を辞めることしか選択肢がないと思ってしまったら、どうでしょうか。
介護離職防止は、社員個人の生活を守るだけでなく、企業の大切な人材を守るための経営課題でもあるのです。
今回から全30回にわたり、従業員50名以下の中小企業の経営者、経営幹部、人事・総務担当者の皆様に向けて、仕事と介護の両立支援と介護離職防止のための具体策をお伝えしていきます。
仕事をしながら介護をしている人は、全国で約365万人
まず、公的な統計から状況を確認してみましょう。
総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年の調査時点で、家族などの介護をしている人は約628万8,000人でした。
そのうち、仕事をしている人は約364万6,000人です。
また、介護・看護を理由として、調査年の直近1年間に前職を離職した人は約10万6,000人でした。
つまり、全国では多くの人が仕事と介護の両立に向き合っており、介護・看護を理由に仕事を離れる人も存在していることが分かります。
ここで注意していただきたいのは、これらは2022年の全国調査に基づく数値であり、2026年現在の人数や、従業員50名以下の企業に限った数字ではないという点です。
統計を正しく理解することも、経営判断には欠かせません。
【出典】
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf
介護は、必ずしも事前に予定を立てられるものではありません。
親の転倒や突然の入院、認知症の症状の進行などをきっかけに、家族の生活が大きく変わることがあります。
社員がこれまでどおりの働き方を続けたいと思っていても、通院への付き添い、介護サービスの調整、行政手続き、家族間の話し合いなどに時間を取られるかもしれません。
そのとき、会社としてどのような支援ができるのでしょうか。
なぜ社員50人以下の会社こそ備えが必要なのか?
私は、小規模企業が介護離職防止に取り組む重要性を、特に3つの視点から考えています。
① 一人の離職が経営に与える影響が大きい場合がある
小規模企業では、一人の社員が複数の役割を担っていることがあります。
例えば、営業担当者が顧客対応だけでなく、新人教育や業務改善まで担当している。
現場責任者が技術指導、品質管理、取引先との調整を一人で担っている。
このような会社では、経験豊かな社員が離職すると、業務の引き継ぎや後任者の育成に時間がかかる可能性があります。
さらに、残された社員の負担増加や顧客対応への影響も考えられます。
企業の規模や業種によって状況は異なりますが、特定の社員に多くの仕事が集中していないか、平常時から確認しておきたいところです。
② 介護の悩みが表面化しにくい
「親の介護について会社に話してもよいのだろうか」
「忙しい職場なので、周囲に迷惑をかけたくない」
「介護していると分かったら、重要な仕事を任せてもらえなくなるのではないか」
従業員がこのような不安を抱えることも考えられます。
経営者が「うちには介護で困っている社員はいない」と思っていても、実際には、社員が相談をためらっているだけかもしれません。
相談がないことと、介護の問題がないことは同じではありません。
ただし、企業が社員の家庭事情を無理に聞き出すべきではありません。
大切なのは、必要なときに本人が安心して相談できる環境をつくることです。
③ 制度があっても、利用できるとは限らない
介護休業や介護休暇など、仕事と介護を両立するための制度は用意されています。
しかし、就業規則に記載されているだけでは、社員が制度の内容を理解しているとは限りません。
「どのような場合に利用できるのか」
「誰に申し出ればよいのか」
「介護のために働き方を変えたいとき、何を相談できるのか」
こうしたことを、社員自身が確認できる状態にしておく必要があります。
制度が存在することと、実際に安心して利用できることは別です。
【2026年10月現在】介護離職防止対策は、既に企業の義務となっています
ここで、経営者・人事担当者の皆様に、ぜひ確認していただきたいことがあります。
2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法では、介護離職防止に関する企業の対応義務が強化されました。
2026年10月現在、これらは既に施行されている義務です。
「今後の法改正に備えよう」という段階ではなく、現在の対応状況を確認し、必要な措置を実施・運用する段階にあります。
主な義務は次の3つです。
① 介護休業等を利用しやすい雇用環境の整備
事業主は、以下の4つの措置のうち、少なくとも1つを実施する必要があります。
-
介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
-
相談窓口の設置など、相談体制の整備
-
自社の労働者による介護休業等の利用事例の収集・提供
-
介護休業等の利用促進に関する方針の周知
複数の措置を実施することが望ましいとされています。
② 介護に直面した社員への個別周知・意向確認
従業員から家族の介護に直面した旨の申し出があった場合、企業は介護休業制度等について個別に周知し、制度利用の意向を確認する必要があります。
制度の説明だけでなく、申出先や介護休業給付金に関する情報など、法令で定められた事項を伝えることが求められます。
また、制度の利用を控えさせるような対応は認められません。
③ 40歳前後の社員への早期情報提供
企業は、従業員が介護に直面する前の段階で、介護休業制度等について情報提供を行う必要があります。
情報提供の時期は、法律で定められた40歳に達する年度、または40歳の誕生日から1年間のいずれかです。
さらに、介護休暇の対象要件の見直しや、介護のためのテレワーク等の導入に関する努力義務も、2025年4月から適用されています。
これらの義務は、従業員50名以下という企業規模だけを理由に免除されるものではありません。
【出典】
厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
2026年3月、経済産業省の経営者向けガイドラインも改訂
介護離職防止対策は、法律上の義務に対応するだけで完結するものではありません。
2026年3月30日、経済産業省は「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を改訂しました。
このガイドラインでは、従業員の仕事と介護の両立支援を、人材不足に対するリスクマネジメントや人的資本経営の観点から捉えています。
今回の改訂では、2025年4月施行の法改正を踏まえた支援の全体像の更新、図表のデータ更新、企業事例の追加などが行われています。
つまり、仕事と介護の両立支援は、単なる福利厚生の充実ではなく、企業の人材定着や事業継続を考えるうえでも重要なテーマとして位置づけられています。
【出典】
経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2026年3月改訂)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
小さな会社が、今から始められる3つの取り組み
「必要性は分かったけれど、専任の人事担当者もいない」
「費用や時間を考えると、何から手をつければよいか分からない」
そんな経営者の方もいらっしゃると思います。
そこで、私から、まず取り組んでいただきたい3つの実践策をご提案します。
① 自社の制度と対応状況を点検する
まずは、自社が必要な法令対応を実施できているかを確認してみましょう。
例えば、次のような点です。
-
介護休業・介護休暇等の制度を従業員に周知しているか
-
介護に直面した従業員への個別周知・意向確認の方法を決めているか
-
40歳前後の従業員への情報提供を実施しているか
-
法律で求められる雇用環境整備の措置を実施しているか
-
社員が相談できる担当者や窓口が明確になっているか
こうした項目を確認することが、最初の一歩になります。
厚生労働省では、企業が活用できる研修資料、周知資料、面談シートなどの支援ツールも公開しています。
【参考】
厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
② 経営者自身が、安心して相談できる職場だと伝える
社員が介護に直面したとき、会社に相談してもよいと思える環境づくりは重要です。
例えば、朝礼や社内ミーティングで次のように伝えてはいかがでしょうか。
「ご家族の介護が必要になったときは、一人で抱え込まず、退職を決める前に相談してください。利用できる制度や働き方について、一緒に考えましょう」
言葉にすることは、小さな取り組みかもしれません。
しかし、経営者自身が仕事と介護の両立を大切に考えている姿勢を示すことには意味があります。
もちろん、声をかけるだけで法律上の義務をすべて果たせるわけではありません。
制度や相談体制を整えたうえで、実際に相談を受けられる環境をつくることが必要です。
③ 一人の社員に業務が集中しすぎないようにする
介護が始まると、通院への付き添いや介護サービスの調整などによって、急な休暇や勤務時間の変更が必要になる場合があります。
その際、一人の社員しか対応できない業務が多いと、本人だけでなく周囲の社員にも負担がかかります。
主要業務の手順を共有する。
複数の社員が対応できる仕事を増やす。
急な欠勤時の引き継ぎ方法を決めておく。
こうした取り組みは、介護離職防止だけでなく、病気や育児などによる急な欠勤にも備えることにつながります。
介護離職防止は、社員一人の問題ではなく、会社全体の働き方を見直す機会でもあるのです。
キャリアコンサルタントとして、そして父母の介護と父の看取りを経験した家族として
私は、生命保険業界で約20年間、営業管理職を経験した後、キャリアコンサルタントに転身しました。
これまで12年以上にわたり、5,200名以上の就職・キャリア支援に携わってきました。
そして、2023年からは私自身も父母の介護を経験し、2026年9月には父の看取りも経験しました。
専門家として支援する立場と、実際に家族介護に向き合う立場。
この両方の経験を通じて、私が大切だと感じていることがあります。
それは、介護は、制度や知識だけで割り切れるものではないということです。
介護には、家族への思い、仕事への責任、生活の問題、そして将来への不安など、さまざまな事情が関わります。
また、家族と過ごせる時間が、いつまでも続くとは限りません。
だからこそ、親が元気なうちから備えること、家族で話し合うこと、そして仕事と介護を両立するための選択肢を早めに知っておくことには、大きな意味があると感じています。
企業としても、介護に直面した社員に対して、制度を説明するだけでなく、本人の気持ちや今後の働き方について一緒に考える姿勢が大切ではないでしょうか。
もちろん、すべての社員が同じように仕事と介護を両立できるわけではありません。
それでも、社員が退職という選択を急がずに済むように、会社としてできることを考えていく。
私は、それが介護離職防止の重要な考え方の一つだと思っています。
おわりに――2026年の今、求められるのは「制度を知ること」から「実際に運用すること」へ
2025年4月に施行された改正育児・介護休業法から、約1年半が経過しました。
2026年10月現在、企業に必要なのは、既に施行されている義務への対応状況を確認し、実際に従業員が仕事と介護を両立できる環境を整えていくことです。
従業員50人以下の会社だからといって、大企業と同じ規模の人事部門を設ける必要があるわけではありません。
しかし、自社に適用される法律上の義務を果たし、社員が安心して働き続けられるように備えることは重要です。
経営者が制度を理解する。
社員が安心して相談できる環境を整える。
仕事を続けるための選択肢を一緒に考える。
こうした一つひとつの取り組みが、企業の大切な人材と社員のキャリアを守ることにつながります。
「介護が始まっても、この会社で働き続けたい」
そう思える職場づくりについて、これから一緒に考えていきませんか。
次回は、「ベテラン社員が突然退職したら? 小さな会社が失う本当のもの」をテーマにお届けします。
【経営者・人事担当者の皆様へ】御社の介護離職防止対策を確認してみませんか?
「法律上、必要な対応はできているだろうか?」
「介護の相談を受けたら、どのように対応すればよいのだろうか?」
そのような疑問をお持ちの経営者・人事担当者の皆様に向けて、「介護離職危険度チェック(無料)」をご用意しています。
自社の制度や相談体制などを振り返るきっかけとして、ぜひご活用ください。
▼介護離職危険度チェック(無料)
https://fwjmj.hp.peraichi.com/
※無料チェックは企業の現状把握を支援するものであり、法令への適合性を公的に証明するものではありません。
また、キャリア&ライフプラントータルサポートでは、従業員50名以下の中小企業を中心に、企業の規模や課題に応じた支援を提供しています。
主なサービスは、介護離職防止研修、従業員向け個別相談、経営者・人事担当者向けコンサルティングです。
さらに、認知症のある方の視点を体験的に学ぶ「認知症世界の歩き方」実践ワークショップもご案内しています。
認知症への理解を深め、家族介護への備えや、仕事と介護の両立を考えるきっかけとしてご活用いただけます。
▼法人向けサービスのご案内
https://career-life.org/corporate_services.html
参考資料・出典
1.総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
介護をしている人の数、仕事をしながら介護をしている人の数、介護・看護を理由とする離職者数を参照。
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf
2.厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
2025年4月1日施行の事業主の義務、個別周知・意向確認、早期情報提供などを確認。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
3.経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
2026年3月30日改訂。企業経営における仕事と介護の両立支援の意義・進め方を参照。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
4.厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」
企業向けの研修資料、周知資料、面談シート、支援プラン関連資料を参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
5.issue+design「認知症世界の歩き方 実践ワークショップ」
認知症のある方が体験している世界を、対話を通じて理解するワークショップの内容を参照。
https://issueplusdesign.jp/dementia_world/workshop/
※本記事は2026年10月16日時点で確認できる公的資料をもとに作成しています。法律上の具体的な適用、就業規則等の整備、個別の労務判断については、厚生労働省・都道府県労働局等の最新情報をご確認いただき、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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