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第10回「買い物をする」って、実はこんなに難しい

第10回

選ぶ・探す・支払うには、いくつもの工程がある

「ちょっとスーパーで牛乳を買ってくる」
 

私たちは、こんなことを日常的に行っています。
 

特別に難しいことをしているという感覚は、ほとんどありません。

でも、少し立ち止まって考えてみると、「買い物をする」という行動には、実はたくさんの工程があります。
 

何を買うのか覚えておく。

店まで行く。

目的の商品を探す。

似た商品の中から選ぶ。

値段を確認する。

必要な量を考える。

レジに並ぶ。

財布を出す。

お金やカードで支払う。

お釣りや商品を受け取る。

そして、買ったものを持って家に帰る。
 

これだけのことを、私たちはほとんど無意識に行っています。
 

ではもし、その一つひとつが少しずつ難しくなったとしたら...。
今回も、本人から見えている「認知症世界」を一緒に歩いてみたいと思います。
 


「何を買うんだっけ?」から始まる買い物

スーパーへ向かう前には、「今日は牛乳と卵を買おう」と思っていた。
 

ところが、お店に着く。
 

たくさんの商品が目に入る。

店内放送が聞こえる。

人が行き交う。

気になる商品が目に入る。
 

そして、ふと、「何を買いに来たんだっけ?」となる。
 

周囲から見ると、「買うものを忘れただけ」に見えるかもしれません。
 

でも本人にとっては、「目的を持って家を出たはずなのに、その目的だけが突然分からなくなる。」
 

とても不安なことかもしれません。
 


商品が見えていても、「探しているもの」として見つからないことがある

第6回では、「見えているのに、見つけられない」という世界を考えました。
 

買い物でも同じようなことが起こることがあります。
 

例えば、「しょうゆを買おう」と思って調味料売り場へ行く。
 

目の前には、
 

しょうゆ。

めんつゆ。

だし。

酢。

ドレッシング。
 

さまざまな形や色の商品が並んでいる。
 

私たちなら、その中から「しょうゆ」を探します。
 

でも、たくさんの情報の中から必要なものを選び取ることが難しくなれば、「目の前にあるのに、探している商品として見つけられない」こともあるでしょう。
 

そんなとき、「そこにあるじゃない」と言われても、本人には本当に分からないのかもしれません。
 


「選ぶ」ことも、実は難しい

商品を見つければ、それで終わりではありません。
 

例えば牛乳だけでも、
 

大きさが違う。

メーカーが違う。

価格が違う。

低脂肪乳もある。

パッケージも違う。
 

そこから一つを選ばなければなりません。
 

野菜なら、
 

どのトマトにするか?

何個買うか?

値段はいくらか?

まだ家に残っていなかったか?
 

いくつものことを判断します。
 

私たちにとって、「好きなものを選べばいい」という状況でも、選択肢が増えるほど迷ってしまう人もいるかもしれません。
 

だから、「選択肢をたくさん与えることが、必ずしも本人のためになるとは限らない」ということもあります。
 


一番緊張する場所が「レジ」になることもある

商品を選んだ。

買い物かごに入れた。

そしてレジへ行く。
 

ここでも、いくつものことを同時に求められます。
 

財布を探す。

支払金額を確認する。

現金なのか、カードなのかを決める。

お札や硬貨を選ぶ。

店員さんの言葉を聞く。

ポイントカードについて聞かれる。

袋が必要か聞かれる。

後ろには次のお客さんが並んでいる。
 

最近ではセルフレジなど、さらに多くの操作が求められる場面もあります。
 

もし途中で分からなくなったら...。
 

後ろに人が並んでいるだけでも、「早くしなければ」と焦るかもしれません。

そして焦れば焦るほど、財布の中のお金が分からなくなる。
 

何を聞かれているのか分からなくなる。

そんなこともあるでしょう。
 


「お金が分からない人」と決めつけない

会計に時間がかかる。

同じお札を何度も出す。

小銭の区別が難しい。
 

そんな様子を見て、「もうお金の管理はできない」と一括りにしてしまうことがあります。
 

でも、少し分けて考えてみると、
 

金額そのものが分からないのか?

硬貨を見分けにくいのか?

店員さんから急に話しかけられて混乱したのか?

後ろの人が気になって焦ったのか?

財布の中が整理されていないために探しにくいのか?
 

困っている場所は、人によって違うかもしれません。
 

大切なのは、「買い物ができない」という大きな評価をする前に、「買い物のどの場面で困っているのだろう?」と考えてみることではないでしょうか?
 


「できる・できない」の二択にしない

例えば、一人では買い物が難しくなっても、
 

買い物リストがあればできるかもしれない。

写真があれば商品を見つけられるかもしれない。

いつものスーパーなら安心して買えるかもしれない。

一緒に店まで行けば、店内では自分で選べるかもしれない。

支払いだけ少し手伝えば、ほかのことはできるかもしれない。
 

つまり、「買い物ができる人」と「買い物ができない人」の二種類に分かれるわけではありません。
 

どこまでできるのか?

どこで困るのか?

何があればできるのか?
 

その人ごとに違います。
 


全部やってあげることが、本当に支援なのだろうか?

家族としては、心配になります。
 

「間違ったものを買ったらどうしよう」

「お金をなくしたらどうしよう」

「迷ったら危ない」
 

そう考えると、「もう私が全部買ってくるから」と言いたくなることもあるでしょう。
 

もちろん、安全のために必要な支援もあります。

家族の負担を軽くすることも大切です。
 

でも、本人にとって買い物が、長年続けてきた生活習慣だったとしたらどうでしょう。
 

自分で商品を選ぶ。

季節の野菜を見る。

店員さんと話す。

地域の知り合いに会う。

「今日は何を食べようかな」と考える。
 

買い物には、「商品を手に入れる以上の意味」があるのかもしれません。
 

だから、「危ないから全部やめる」だけではなく、「どうすれば続けられるだろう?」という選択肢も考えてみたいと思います。
 


少しの工夫で「自分でできる」を残す

例えば、
 

買うものを3つ程度に絞る。

文字だけでなく商品の写真を使う。

いつも同じスーパーを利用する。

比較的すいている時間帯を選ぶ。

買い物かごや財布の中を分かりやすくする。

必要に応じて一緒に店へ行く。

レジで少し時間がかかっても待つ。
 

本人に合う方法は、それぞれ違います。
 

大切なのは、「本人にできることを奪わず、困っている部分を支える」という視点だと思います。
 


「買い物ができない」ではなく、「どこで困っている?」

今回のテーマは、「買い物をする」って、実はこんなに難しいでした。
 

私たちが一つの行動だと思っている「買い物」も細かく分けると、
 

覚える。

移動する。

探す。

見つける。

選ぶ。

判断する。

支払う。

持ち帰る。
 

たくさんの工程があります。
 

その一部分が難しくなったからといって、すべてができなくなったわけではありません。
 

だから、「もう買い物は無理だね」ではなく、
 

「どこならできる?」

「どこで困っている?」

「何があれば続けられる?」
 

と考えてみる。
 

その視点が、その人らしい暮らしを守ることにつながるのではないでしょうか?
 


9月は「認知症月間・世界アルツハイマー月間」でした

9月は、日本では「認知症月間」、世界では「世界アルツハイマー月間」として、認知症について理解を深める機会となっています。

そして9月21日は、「認知症の日・世界アルツハイマーデー」でした。
 

この連載を通してお伝えしたいのは、認知症について「知識を持つ」ことだけではありません。

認知症のある方が、「どんな世界を見て、どんなことで困り、何を感じながら暮らしているのだろう。」を想像してみることです。
 

買い物に時間がかかる人を見たとき。

駅で迷っている人を見たとき。

何度も同じことを尋ねる人に出会ったとき。
 

「困った人」と見るのではなく、「もしかしたら、この人は今、困っているのかもしれない」と思える人が増える。

そんな社会になればと思います。
 


次回は「本人の声を聞く」とは何かを考えます

これまで、
 

本人には世界がどう見えているのか?

何に困っているのか?
 

ということを考えてきました。
 

でも、もう一歩先へ進むと、大切な問いがあります。
 

「本人は、どうしたいのだろう?」
 

家族や周囲が「本人のため」と考えて決めること。

本人自身が望んでいること。
 

それは、必ずしも同じとは限りません。
 

次回、第11回は、本人の「声を聞く」って、どういうことだろう?をテーマに、一緒に考えてみたいと思います。
 


あわせて知っていただきたい「認知症世界の歩き方」

今回の記事をきっかけに、もう少し「認知症世界」を知ってみたいと思った方へ、3つご紹介します。

1.「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ

認知症について一方的に知識を学ぶのではなく、認知症のある方が生きている世界を想像し、参加者同士の対話を通じて理解を深めていく実践型のワークショップです。

私も「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)として開催しています。
 

▼詳細・お申込み
https://peatix.com/event/5159960

2.映画『認知症世界の歩き方』公式サイト

『認知症世界の歩き方』の世界観を、映画という新しい形で体験できる作品です。

認知症のある方から見えている世界や、その人にとっての理由を知ることで、「認知症=何もできなくなる」というイメージを少し違った角度から考えるきっかけになります。
 

▼映画『認知症世界の歩き方』公式サイト

https://issueplusdesign.jp/dementia_world/movie/

3.『認知症世界の歩き方』公式サイト

認知症の基礎知識だけでなく、認知症のある方が生きている世界や見えている景色を、さまざまなストーリーを通じて学ぶことができます。

「本人から見た世界を知る」という、このnote連載の原点でもあります。

 

▼『認知症世界の歩き方』公式サイト

https://issueplusdesign.jp/dementia_world/

 

これらもぜひ、「認知症世界」を旅する入口としてご覧いただければと思います。
 

※認知症の症状や困りごとの現れ方には個人差があります。本記事で紹介した例が、すべての認知症のある方に当てはまるわけではありません。
 

2026年10月03日 17:11

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