【第4回】なぜ社員は会社に介護の悩みを相談できないのか?
社員50人以下の会社を守る!介護離職防止の実践講座
~小さな会社だからこそできる、人材を守る30の取り組み~
はじめに―「困ったら相談して」と言うだけで十分でしょうか?
「介護で困ったら、いつでも相談してください」
経営者や管理職が社員にそう伝えることは、大切な取り組みです。
しかし、社員は本当に安心して相談できているでしょうか。
例えば、長年会社を支えてきた50代の社員が、親の介護に直面したとします。
これまで仕事に責任を持って取り組んできた社員です。
ところが、親の通院への付き添いや介護サービスの調整などで、急に休まなければならない日が増えてきました。
「会社に迷惑をかけたくない」
「今の仕事を続けたいけれど、周囲にどう思われるだろう」
「相談したら、これまでのように仕事を任せてもらえなくなるのではないか」
このような不安を抱える可能性があります。
これは特定の相談者の事例ではなく、想定した場面です。
第3回では、介護について社員から相談がないからといって、問題が存在しないとは限らないことをお伝えしました。
今回はさらに一歩踏み込み、社員が介護の悩みを会社に相談する際、どのような障壁が考えられるのか。そして、経営者や管理職には何ができるのかを考えます。
厚生労働省委託調査から見える、職場への相談の難しさ
まず、公的調査を確認してみましょう。
厚生労働省の委託により実施された「令和6年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」では、家族の介護・手助けを行っている労働者などを対象に、仕事と介護の両立に関する調査が行われました。
調査期間は2024年12月、報告書の公表は2025年3月です。
この調査では、現在介護・手助けをしている正規労働者1,100人のうち、43.2%が、職場で介護について上司や同僚に相談できる雰囲気があるとは思わないと回答しています。
これは「そう思わない」17.8%と「あまりそう思わない」25.4%を合計したものです。
また、介護・手助けについて相談した人や機関を尋ねた設問では、正規労働者のうち、相談先として「勤務先」を選択した人は11.9%でした。
ただし、相談先は複数回答であり、この数値だけで「残りの人は会社への相談を必要としていた」と判断することはできません。
これらの結果は従業員50人以下の企業に限定したものではなく、インターネット調査の回答者についての集計です。
また、なぜ相談しにくいと感じたのか、個々の理由を直接証明する数字ではありません。
それでも、会社への相談のしやすさを考えるうえで、参考になる結果といえるでしょう。
【出典】厚生労働省委託「令和6年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業/労働者調査結果の概要」
28ページ・図表28「介護・手助に関する相談の状況」
32ページ・図表33「介護に関する職場への相談しやすさ」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/001535332.pdf
なぜ社員は、会社への相談をためらうのか?
ここからは、調査で理由が立証されたということではなく、企業の現場で考慮しておきたい4つの障壁について、実務的な視点から整理します。
① 家族の問題を職場に知られたくない
親の介護には、健康状態、認知症の症状、家族関係、経済的な事情など、極めて個人的な情報が関わります。
介護をしていること自体を、職場で広く知られたくない社員もいるでしょう。
特に小規模企業では、経営者や社員同士の距離が近い場合があります。
相談した内容が、本人の知らないところで同僚に伝わってしまうのではないか。
そのような不安を持つ可能性も考えられます。
企業として重要なのは、仕事と介護の両立に必要な情報と、会社が知る必要のない家族の個人情報を区別することです。
社員の家庭事情を詳しく把握することが、介護離職防止の目的ではありません。
② 仕事への評価や今後のキャリアが心配
「介護が始まったと伝えたら、重要な仕事から外されるのではないか」
「管理職への昇進が難しくなるのではないか」
「これまでのように期待してもらえなくなるのではないか」
このような不安も、相談をためらう要因として考慮すべきものです。
もちろん、実際にそのような不利益が生じると決まっているわけではありません。
しかし、職場において介護への理解が十分に示されていなければ、社員が将来のキャリアを心配する可能性があります。
介護休業等の申出や取得を理由とする不利益な取扱いは禁止されています。
企業には、法令を守ることに加え、社員が不安なく制度を申し出られる職場づくりが求められます。
③ 同僚に迷惑をかけたくない
社員50人以下の会社では、一人の社員が複数の役割を担っていることがあります。
自分が休むことで、同僚の仕事が増える。
顧客への対応が遅れる。
部下や後輩に負担をかける。
そのように感じ、相談をためらう社員がいても不思議ではありません。
だからこそ、仕事と介護の両立支援は、社員本人に任せるだけでは十分ではありません。
普段から業務の引き継ぎや複数人での対応を進めておくことが、相談しやすい職場づくりにもつながります。
④ 相談しても、何が変わるのか分からない
社員が介護休業や介護休暇などの制度を知らなければ、会社に相談する意味を感じにくい場合があります。
「相談しても、結局は自分で何とかするしかないのではないか」
そう考えることもあるでしょう。
企業が必要なのは、単に「何でも相談してください」と伝えることではありません。
利用できる制度や申出先を明確にし、相談があったときに適切な対応ができる状態を整えることです。
管理職の言葉が、相談のしやすさを左右する
ここで、経営者や管理職の対応について考えてみましょう。
社員から介護の相談を受けたとき、どのような言葉をかけるでしょうか。
例えば、次のような言葉には注意が必要です。
避けたい対応例
「みんな忙しいから、なるべく休まないでほしい」
「ご家族のことだから、自分で何とかするしかないね」
「介護が大変なら、今の仕事を続けるのは難しいのでは?」
これらは、実際の発言事例ではなく、対応を考えるために作成した例です。
上司に悪意がなかったとしても、社員が「相談しなければよかった」と感じてしまう可能性があります。
一方で、次のような対話が考えられます。
相談を受けたときの望ましい対応例
「話してくださってありがとうございます」
「仕事を続けるうえで、今どのようなことに困っていますか?」
「利用できる会社の制度をご案内します。一緒に確認しましょう」
「ご事情については、必要な範囲だけ確認させてください」
「今後、状況が変わったときも相談してください」
大切なのは、上司がすぐに結論を出すことではありません。
本人の状況と希望を確認し、制度を適切に説明し、仕事を続けるための選択肢を一緒に考えることです。
厚生労働省は、企業向けに「介護に関する相談を受けた場合 ~会社の対応ポイント編~」「~相談時の対話例編~」という実務資料を公開しています。
【出典】厚生労働省「企業による社員の仕事と介護の両立支援に向けた実務的な支援ツール」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61776.html
この資料には、面談や相談対応のための具体的な様式も用意されています。
人事部門がない小規模企業でも、こうした公的資料を活用することができます。
相談を受けた管理職が実践したい3つのステップ
それでは、社員から介護について相談があったとき、どのように対応すればよいのでしょうか。
ステップ1|本人の希望と仕事上の困りごとを確認する
まず、相談してくれたことを受け止めます。
そして、本人が仕事を続けたいと考えているのか、現在どのような業務上の困難があるのかを確認します。
親の病名や家族関係など、業務に直接関係しない詳細まで聞き出す必要はありません。
ステップ2|法令に基づく制度周知と意向確認を行う
2025年4月1日から、介護に直面した旨の申し出をした社員に対して、介護休業制度等の個別周知・意向確認を行うことが、事業主の義務となっています。
2026年10月現在、既に施行されている義務です。
周知事項には、介護休業に関する制度、介護両立支援制度等、申出先、介護休業給付金に関する情報が含まれます。
制度の取得を控えさせるような意向確認は認められません。
また、雇用環境の整備については、研修、相談体制、利用事例の提供、利用促進方針の周知という4つの措置から少なくとも1つを実施する義務があります。
管理職が親身に相談に乗ることだけで、こうした法令上の義務をすべて果たしたことにはなりません。
【出典】厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
ステップ3|働き方と業務の調整を検討する
利用可能な制度を確認したうえで、必要に応じて勤務時間や業務分担などを検討します。
例えば、
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通院への付き添いがある日に休暇を取得できるか
-
一時的に担当業務を調整できるか
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他の社員への引き継ぎが必要か
-
必要に応じて、地域包括支援センターなどの介護相談窓口を案内できるか
といった点を考えます。
相談内容を関係者に共有する場合には、本人の意向とプライバシーに十分配慮し、業務上必要な範囲に限定することが重要です。
【モデルケース】社員20人の会社で、介護相談を受けたら
ここで、架空の会社を例に考えてみましょう。
※以下は実在する企業や相談者の事例ではありません。
従業員20人の会社に勤務する54歳の営業担当者Aさん。
母親の介護が必要になり、週に何度か通院への付き添いや介護サービスの調整を行っています。
しかし、職場は忙しく、休暇を取ることに申し訳なさを感じていました。
ある日、Aさんは上司に相談します。
「実は、母の介護で仕事を続けられるか不安なんです」
上司は、まず本人の話を聞きます。
「相談してくれてありがとうございます。仕事を続けるために、今どんなことが必要か一緒に考えましょう」
会社は介護休業等の制度について個別に周知し、利用意向を確認します。
そして、本人の希望を踏まえ、業務の引き継ぎや勤務調整について検討することにしました。
介護の事情については、本人の意向を確認し、必要な関係者だけで共有します。
この対応によって、必ず両立が実現するとは限りません。
しかし、Aさんが退職以外の選択肢も考えられるようになる可能性があります。
大切なのは、相談の段階で退職を前提にせず、利用できる制度や支援策を確認することです。
社員50人以下の会社が、今から始めたい4つの取り組み
私は、経営者・管理職の皆様に、まず次の4つをお勧めします。
① 相談先と制度の案内を、社員全員が確認できるようにする
就業規則だけでなく、必要な情報をA4用紙1枚などにまとめ、定期的に周知します。
② 相談を受ける管理職に、基本的な対応方法を伝える
本人の話を聞き、制度を案内し、必要な担当者につなぐ役割を理解してもらいます。公的な対話例や研修資料を活用する方法もあります。
③ 個人情報の共有ルールを確認する
相談記録の管理者、情報の共有先、共有する範囲を明確にします。社員の家族の情報を社内に広めないよう配慮します。
④ 介護の有無にかかわらず、働き続けやすい業務体制を整える
業務の属人化を減らし、休暇取得や引き継ぎが可能な体制を整えます。
これらは実務上の改善提案であり、法令上必要なすべての措置を網羅したものではありません。
まずは自社の法令対応を点検し、そのうえで職場に合った取り組みを進めることが重要です。
キャリアコンサルタントとして、そして父母の介護と父の看取りを経験した立場から
私は、生命保険業界で約20年間、営業管理職を経験した後、キャリアコンサルタントに転身しました。
これまで12年以上にわたり、5,200名以上の就職・キャリア支援に携わってきました。
また、2023年からは私自身も父母の介護を経験し、2026年9月には父の看取りも経験しました。
仕事と介護を両立することには、制度や知識だけでは解決しきれない難しさがあります。
家族への思い。
仕事への責任感。
今後のキャリアへの不安。
そして、周囲の人に迷惑をかけたくないという気持ち。
こうした感情が重なると、自分の状況を誰かに伝えること自体が難しくなる場合もあると考えます。
だからこそ、私はキャリア支援の専門家として、相談する人の意思や気持ちを尊重し、その人自身が納得できる選択肢を一緒に整理する姿勢を大切にしています。
企業における介護離職防止も、同じではないでしょうか。
社員が安心して相談できる。
会社が利用できる制度を適切に案内する。
本人が希望する働き方について、一緒に考える。
それが、従業員と会社の双方を大切にする職場づくりにつながると考えています。
おわりに―「相談してください」から「相談できる会社」へ
経済産業省は、2026年3月に「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を改訂しました。
仕事と介護の両立支援を、企業における人材不足へのリスクマネジメントや人的資本経営に関わる取り組みとして位置づけています。
【出典】経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2026年3月改訂)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
社員50人以下の会社では、経営者や管理職の言動が職場の雰囲気に大きく影響する場合があります。
「困ったら相談してください」
その言葉を、社員が実際に相談できる環境につなげることが大切です。
制度が整っていること。
相談先が分かること。
プライバシーが尊重されること。
そして、相談した後も、自分の希望やキャリアを大切にしてもらえること。
介護離職防止の第一歩は、社員に介護の事情を話させることではなく、必要なときに安心して話せる環境を整えることです。
経営者の皆様。
御社は「相談してください」と伝えているだけでしょうか。
それとも、「社員が安心して相談できる会社」になっているでしょうか。
ぜひ、この機会に考えていただければ幸いです。
次回、第5回は、「介護離職対策は万全ですか? 経営者が確認したい5つの視点」をテーマにお届けします。
【経営者・幹部社員・人事担当者の皆様へ】御社の介護離職への備えを確認してみませんか?
「社員が介護について相談できる環境は整っているだろうか?」
「制度はあるけれど、実際に利用できる職場になっているだろうか?」
そんな疑問をお持ちの経営者・人事担当者の皆様に向けて、「介護離職危険度チェック(無料)」をご用意しています。
自社の制度や相談体制を振り返るきっかけとして、ぜひご活用ください。
▼介護離職危険度チェック(無料)
https://fwjmj.hp.peraichi.com/
※このチェックは自社の現状把握を支援するものであり、法令への適合性を公的に証明するものではありません。
キャリア&ライフプラントータルサポートでは、従業員50名以下の中小企業を中心に、企業の規模や課題に応じた支援を提供しています。
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仕事と介護の両立・介護離職防止に関する企業研修
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従業員向け個別キャリアカウンセリング
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経営者・管理職向けの介護相談対応研修
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社外相談窓口や介護離職防止コンサルティング
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「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ
「認知症世界の歩き方」は、認知症のある方の視点を体験的に学び、家族介護への備えや仕事と介護の両立について考えるきっかけとなるプログラムです。
▼法人向けサービスのご案内
https://career-life.org/corporate_services.html
キャリア&ライフプラントータルサポート
代表 山岸 博幸
国家資格キャリアコンサルタント
「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)
参考資料・出典
1.厚生労働省委託調査「令和6年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」
2024年12月調査、2025年3月報告。介護に関する相談先、職場への相談のしやすさを参照。
https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/001535332.pdf
調査研究事業の公式掲載ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200711_00009.html
2.厚生労働省「介護休業制度特設サイト/法改正のポイント」
2025年4月1日施行済みの雇用環境整備、個別周知・意向確認、40歳前後の情報提供などを確認。https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
3.厚生労働省「企業による社員の仕事と介護の両立支援に向けた実務的な支援ツール」
相談対応ポイント、対話例、面談シート、個別周知・意向確認書などを参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61776.html
4.厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」企業が利用できる研修資料や支援ツールを参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
5.経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」2026年3月30日改訂。仕事と介護の両立支援を経営課題として捉える考え方を参照。https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
※本記事は2026年10月31日時点で確認できる公的情報をもとに作成しています。調査結果、法令上の義務、筆者の実務上の考察を区別しています。個別の法令適用や就業規則等の整備については、厚生労働省・都道府県労働局の最新情報を確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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