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第9回 もし、音や人や情報が多すぎる場所に迷い込んだら?

第9回

スーパーや駅も、混乱する場所になることがある

スーパーに入る。

たくさんの商品が並んでいる。
 

「本日の特売」

「おすすめ商品」

「お惣菜はこちら」

「飲み物はこちら」
 

店内には音楽が流れ、レジから電子音が聞こえ、周りではたくさんの人が動いている。
 

私たちにとっては、ごく普通のスーパーです。
 

でも、もし
 

どの音を聞けばよいのか?

どの表示を見ればよいのか?

どこへ行けばよいのか?
 

それをうまく整理できなくなったとしたら、どうでしょうか?
 

便利なはずのスーパーが、「情報が多すぎて、何をしたらいいのか分からない場所」に変わるかもしれません。

今回は、そんな「認知症世界」を一緒に歩いてみたいと思います。
 


9月は「認知症月間・世界アルツハイマー月間」です

その前に、今月だからこそ、ぜひ知っていただきたいことがあります。
 

9月は、日本では「認知症月間」、世界では「世界アルツハイマー月間」として、認知症への理解を深めるためのさまざまな取り組みが行われています。

そして9月21日は、「認知症の日・世界アルツハイマーデー」です。
 

認知症について知るというと、「症状を勉強する」「予防について学ぶ」というイメージを持つ方も多いかもしれません。

もちろん、それも大切です。
 

でも私は、この9月を、「認知症のある方には、私たちと同じ世界がどのように見えているのだろう?」と考えてみる1か月にもできたらと思っています。

この連載も、そんな思いで続けています。
 


私たちは毎日、大量の情報を処理している

駅を思い浮かべてみてください。
 

「〇〇線はこちら」

「1番線」

「快速」

「各駅停車」

「〇時〇分発」

「出口はこちら」
 

アナウンスが流れる。

電車が到着する。

人が歩く。

発車ベルが鳴る。

スマートフォンを見る人、急いで走る人、会話をする人。
 

それでも私たちは、「必要な情報」と「今は必要ではない情報」を無意識に振り分けています。
 

自分が乗る電車の案内だけを見る。

周囲の会話は聞き流す。

関係のない広告は見ない。
 

こうした情報整理を、私たちは毎日のように行っています。
 

ところが、その整理が難しくなったら...。

一気に世界は変わります。
 


全部の情報が同じ強さで入ってきたら?

想像してみてください。
 

スーパーに入った瞬間、
 

店内放送。

レジの電子音。

子どもの声。

店員さんの声。

買い物客の会話。

商品パッケージの色。

「特売」の文字。

棚に並ぶ何百という商品。
 

それらが次々に自分の中へ入ってくる。

どれを無視してよいのか分からない。

どれが自分に必要な情報なのか分からない。
 

もしそんな状態だったら、買い物どころではないかもしれません。
 

「卵を買う」という一つの目的があったとしても、卵売り場にたどり着くまでに、あまりにも多くの情報があります。

だから、「何を買いに来たのか分からなくなる」ことが起きても不思議ではありません。
 


「どっちに行けばいいの?」が本当に分からない

駅ではさらに複雑です。
 

右にも矢印。

左にも矢印。

上にも案内板。

足元にも表示。

「〇〇線」

「△△方面」

「改札口」

「出口」
 

私たちなら必要な情報を探して、その方向へ進みます。
 

でも、必要な表示を選び取ることが難しければ、たくさんの案内があるほど、逆に分かりにくくなることもあります。
 

周囲からは、「ちゃんと案内板があるのに」と思う。
 

本人からすれば、「案内板が多すぎて、どれを見ればいいのか分からない」のかもしれません。

ここでも、周囲から見えている世界と、本人から見えている世界が違います。
 


人が多いだけでも、大きな負担になることがある

「人混みが苦手」

という方は、認知症の有無に関係なくいます。
 

でも、情報を整理することが難しくなっていると、人が多い場所はさらに負担になることがあります。
 

前から人が来る。

後ろから人が来る。

誰かに追い越される。

誰かが話しかける。

どこからか音がする。

自分がどちらに進めばいいのか分からない。
 

すると、
 

立ち止まってしまう。

急に帰りたくなる。

不機嫌になる。

「もう嫌だ」と言う。
 

周囲から見ると、「せっかく連れてきたのに」「どうして急に帰りたがるの?」と思うかもしれません。

でも本人は、「わがままを言っている」のではなく、「情報が多すぎて、もう処理できない」状態なのかもしれません。
 


「認知症だから外出しない方がいい」ではない

ここで誤解してほしくないことがあります。
 

今回お伝えしたいのは、「認知症になったらスーパーや駅に行かない方がよい」という話ではありません。
むしろ逆です。
 

買い物をする。

電車に乗る。

カフェへ行く。

地域の人と会う。
 

こうしたことは、その人らしい暮らしを続けていくうえで大切なことです。

だからこそ、「行けない」と決めつけるのではなく、「どうしたら行きやすくなるだろう?」と考えたいのです。
 


少しの工夫で、分かりやすい世界になることもある

例えばスーパーなら、

  • 比較的すいている時間帯に行く

  • いつも同じ店を利用する

  • 買う物を少なくする

  • メモや写真を使う

  • 一緒に買い物をする

駅なら、

  • 時間に余裕を持つ

  • 混雑する時間を避ける

  • 乗り換えの少ないルートを選ぶ

  • 必要な情報を一つずつ伝える

すべての方に同じ方法が合うわけではありません。

大切なのは、「本人に世界を合わせてもらう」だけではなく、「私たちの側から、世界を少し分かりやすくする」という発想を持つことなのだと思います。
 


「早くして」と言われる世界を想像してみる

情報がうまく整理できない。

どちらに行けばよいか分からない。
 

そんな状態で、後ろから、「早くして」と言われたらどうでしょう。
 

レジで財布からお金を出そうとしていると、後ろに人が並んでいる。

駅の改札でICカードを探していると、後ろから人が近づいてくる。

焦れば焦るほど、さらに分からなくなる。
 

そんなこともあるでしょう。

だからこそ、認知症のある方にとって、「少し待ってくれる人がいる」ということは、とても大きな安心なのかもしれません。
 


認知症にやさしい社会は、誰にとってもやさしい社会

表示が分かりやすい。

説明が簡潔。

困っている人に声をかける。

急がせない。

少し待つ。
 

こうした社会は、認知症のある方だけに必要なものではありません。
 

高齢者。

障害のある方。

外国から来た方。

小さな子どもを連れた方。

初めてその場所を訪れた方。
 

誰にとっても暮らしやすい社会につながります。

認知症について考えることは、「特別な誰か」のためだけではなく、「私たち自身が安心して年齢を重ねられる社会を考えること」でもあるのではないでしょうか?
 


「困った人」ではなく、「困っている人」へ

第6回では、「見えているのに、見つけられない世界」

第7回では、「時間が分からない世界」

第8回では、「言いたいのに、言葉にならない世界」

そして今回は、「音や人や情報が多すぎる世界」
 

少しずつ「本人から見えている世界」を旅してきました。
 

スーパーで立ち止まっている人。

駅で何度も案内板を見ている人。

レジで時間がかかっている人。

その姿を見たとき、

「困った人だな」
 

ではなく、「もしかすると、この人は今、困っているのかもしれない」と考えられる人が一人増える。

それだけでも、認知症のある方が暮らしやすい社会に少し近づくのではないでしょうか?
 


9月だからこそ、一度考えてみませんか?

9月は「認知症月間・世界アルツハイマー月間」です。

そして9月21日は、「認知症の日・世界アルツハイマーデー」です。
 

認知症について考えるこの時期に、「認知症とはどんな病気か?」だけではなく、「認知症になったとき、自分はどんな地域で暮らしたいだろう?」ということも考えてみませんか?
 

困っていたら声をかけてもらえる。

時間がかかっても急かされない。

分からなくなっても安心できる。
 

そして、認知症になっても、好きな場所へ行ける。
 

そんな社会であってほしい。

私はそう思います。
 


次回は「買い物」という日常を、もう少し深く考えます

今回、スーパーの例を取り上げました。

でも考えてみると、「買い物をする」という行動には、実はたくさんのことが含まれています。
 

何を買うか決める。

商品を探す。

値段を見る。

必要な量を考える。

レジへ行く。

お金を払う。

商品を持ち帰る。
 

次回、第10回は、「買い物をする」って、実はこんなに難しいをテーマに、「できる・できない」だけでは見えない認知症世界を一緒に考えてみたいと思います。
 


9月27日、「認知症世界」を一緒に旅してみませんか?

このnoteでは文章を通じて、「本人には、この世界がどのように感じられているのだろう?」ということを考えてきました。
 

そして9月27日には、「認知症世界の歩き方」公認ファシリテーター(旅のガイド)として、実践ワークショップを開催します。
 

読むだけでなく、

考える。

感じる。

そして参加者同士で対話する。
 

そんな「認知症世界の旅」を一緒にしてみませんか?
 

ご家族に認知症のある方だけでなく、医療・介護・福祉関係者、地域で認知症について考えたい方、そして「今はまだ自分には関係ない」と感じている方にも参加していただけたらと思います。
 

▼「認知症世界の歩き方」実践ワークショップ
 

※認知症の症状や困りごとの現れ方には個人差があります。本記事は、すべての認知症のある方が同じように感じるという意味ではありません。

 

2026年09月07日 13:11

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