【第3回】親4人、自分たち夫婦2人――最大6人の介護をどう考えるか?
全20回連載 「老後資金を増やす前に 介護で失わない家計のつくり方」
親の介護、自分たちの介護、仕事とお金――50代・60代が今から考えたい20の現実
親の介護が終われば、介護の問題は終わるのでしょうか?
前回の記事では、
自分の父親・母親。
配偶者の父親・母親。
夫婦で考えれば、最大4人の親について介護が必要になる可能性がある、というお話をしました。
しかし、50代・60代のライフプランを考えるときには、もう少し先まで見ておく必要があります。
なぜなら、親の介護の先には、「自分自身の介護」そして、「配偶者の介護」が待っている可能性があるからです。
つまり、
・自分の父
・自分の母
・配偶者の父
・配偶者の母
・自分
・配偶者
まで含めると、人生後半の介護について考える対象は、最大6人になります。
もちろん、6人全員に介護が必要になるという意味ではありません。
ましてや、6人分の介護費用を自分たち夫婦が準備しなければならない、という話でもありません。
私がお伝えしたいのは、「親の介護」と「自分たちの老後」を別々に考えないこと。
親の介護から自分たち夫婦の介護までを、一つの時間軸で見渡しておくことが大切だということです。
50代・60代は「介護する側」と「自分の老後を準備する側」が重なる
50代・60代という年代は、少し特殊な時期だと思います。
親は70代、80代、90代になり、病気や介護のリスクが高くなっていきます。
一方で自分自身も、
・定年
・再雇用
・役職定年
・収入の減少
・住宅ローン
・老後資金
・年金
・これからの働き方
といった問題を考えなければなりません。
つまり、「親を支える時期」と、「自分たちの老後を準備する時期」が重なっているのです。
ここを別々に考えてしまうと、「老後のためにこれだけ貯めれば大丈夫」と思っていた資金を、親の介護が始まったことで取り崩すことになる。
あるいは、介護のために働き方を変え、想定していた収入が得られなくなる。
そんなことも起こり得ます。
実際に「介護する側」も高齢化しています
厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」によると、要介護者等と同居している主な介護者の年齢の組み合わせでは、
「60歳以上同士」が79.0%
「65歳以上同士」が61.9%
となっています。
つまり、「高齢の親を若い子どもが介護する」というケースだけではなく、「高齢者が高齢者を介護する」いわゆる老老介護が、すでに珍しくない状況になっています。
親の介護が長期間続けば、介護を始めたときには50代だった子どもが、親の介護を続けるうちに60代になることもあります。
配偶者同士の介護もあります。
だからこそ、「親の介護だけ何とかすればいい」という考え方では、人生後半のライフプランとして十分ではないのです。
【引用・参考】
厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf
介護する相手は「親」だけとは限りません
介護という言葉を聞くと、「子どもが親を介護する」というイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし、実際には配偶者が介護を担うケースもあります。
厚生労働省の2022年国民生活基礎調査では、要介護者等と同居している主な介護者を続柄別に見ると、
「配偶者」が22.9%
「子」が16.2%
となっています。
つまり、自分自身が要介護状態になった場合、最初に介護を担う可能性があるのは、自分の子どもとは限りません。
配偶者かもしれません。
逆に、配偶者に介護が必要になれば、自分自身が主な介護者になる可能性があります。
自分が75歳、配偶者が73歳。
自分が80歳、配偶者が78歳。
そうした年代になってから、
「誰が介護するのか?」
「どこで暮らすのか?」
「どのお金を使うのか?」
を初めて考えるのでは、選択肢が限られてしまう場合があります。
【引用・参考】
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
「親の介護費」と「自分たちの介護費」を混ぜない
ここで、老後資金を考えるうえで非常に重要なポイントがあります。
それは、「親の介護に使うお金」と、「自分たち夫婦の老後・介護に必要なお金」を、できるだけ混ぜないことです。
親に介護が必要になった場合、まず親自身の年金や預貯金などを活用して介護を組み立てることを基本に考えます。
もちろん、家庭によって事情は異なります。
親の資産が十分でないケースもあります。
子どもが一部を援助するケースもあるでしょう。
しかし、何のルールも決めないまま、「足りなければ、その都度子どもが出す」という状態になってしまうと、自分たちの老後資金まで少しずつ減っていく可能性があります。
しかも、それが数年間続くかもしれません。
介護は「いつまで続くか」が分かりません
生命保険文化センターの2024年度調査では、介護経験者の介護期間は平均4年7カ月でした。
一方で、4年以上介護した人も約4割います。
一時的な介護費用は平均47.2万円。
月々の介護費用は平均9.0万円。
在宅では月平均5.3万円、施設では月平均13.8万円となっています。
もちろん、これは平均値であり、「1人につき必ずこれだけかかる」という数字ではありません。
要介護度、介護期間、在宅か施設か、本人の所得や資産、公的制度の利用状況などによって大きく異なります。
ただ、ここから分かる大切なことがあります。
介護は、「来月いくら必要か?」だけではなく、「何年間続くか分からない支出」として考える必要があるということです。
【引用・参考】
公益財団法人 生命保険文化センター
「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html
こんな「介護の連鎖」も考えておく必要があります
例えば、55歳の夫婦を想像してみてください。
夫の父が82歳。
夫の母が80歳。
妻の父が84歳。
妻の母が79歳。
自分たちは55歳前後。
現在は4人の親が元気だったとしても、これから10年、20年の間に状況が変わる可能性があります。
最初に夫の母の介護が始まる。
数年後、妻の父にも介護が必要になる。
夫婦で仕事をしながら、双方の親への対応をする。
その間に自分たちは60代になる。
親の介護が一段落した頃には、自分たちが70代になっている。
そして今度は、自分または配偶者に介護が必要になる。
決してすべての家庭がこのようになるわけではありません。
しかし、「親の介護」と「自分たちの介護」の間には、必ずしも十分な空白期間があるとは限らない。
この可能性を知っておくことが大切です。
だから「介護計画」が先、「マネープラン」はその後
老後資金の相談では、
「老後にいくら必要ですか?」
「NISAはいくら積み立てればいいですか?」
「年金は何歳から受け取るのが得ですか?」
という質問が出てきます。
もちろん、大切な問題です。
しかし私は、その前に確認したいことがあります。
親が介護になった場合、誰が動くのでしょうか?
親自身の年金や資産を家族は把握しているでしょうか?
在宅介護を希望しているのでしょうか?
施設を希望しているのでしょうか?
兄弟姉妹はどう分担するのでしょうか?
仕事はどのように続けるのでしょうか?
そして、
自分や配偶者に介護が必要になったとき、どこで暮らしたいのでしょうか?
こうした「介護計画」が見えてこなければ、本当に必要な老後資金も見えてきません。
だから私は、「介護計画を考えたうえで、マネープランを考える」という順番が大切だと思っています。
「6人分の介護費用を用意する」という話ではありません
この連載で「最大6人」という言葉を使うと、「そんなにお金を準備できるはずがない」と思われる方もいるでしょう。
6人分の介護費用を自分たちで準備しましょう、という話ではありません。
考えたいのは、「6人を一つの財布で支えること」ではなく、「それぞれについて、誰が・何を・どのお金で支えるのかを整理すること」です。
例えば、
親の介護費用
→基本的には親自身の年金・資産
自分たち夫婦の介護費用
→自分たちの老後資産・年金
子どもの役割
→介護そのものを抱え込むのではなく、制度やサービスを利用しながら支援体制を整える
といったように分けて考えます。
この整理ができていれば、親の介護が始まったからといって、無制限に自分たちの老後資金からお金を出すことを防ぎやすくなります。
お金だけではありません。「誰が動くか」も重要です
介護について家族で考える際、「費用はいくらか?」だけを話し合っても十分ではありません。
実際には、
・病院から連絡を受ける人
・通院に同行する人
・介護認定の申請をする人
・ケアマネジャーと連絡を取る人
・施設を探す人
・実家を管理する人
・お金を管理する人
・兄弟姉妹に情報共有する人
など、さまざまな役割があります。
一人がすべて引き受ければ、仕事との両立が難しくなります。
結果として、「もう会社を辞めるしかない」という判断につながる可能性もあります。
ですから、介護離職を防ぐためにも、お金の準備と同時に、「家族の役割分担」を考えておくことが重要です。
自分たち夫婦についても、今から話しておく
そして、もう一つ。
親について話すだけでなく、自分たち夫婦でも話してみてください。
例えば、
「介護が必要になったら、自宅で暮らしたい?」
「施設という選択肢はどう思う?」
「子どもには、どこまで頼みたい?」
「認知症になった場合、お金の管理はどうしたい?」
こうした話です。
50代では、「まだ早い」と感じるかもしれません。
しかし、元気で判断力がある今だからこそ、落ち着いて話すことができます。
介護が必要になってから考えるよりも、「どう生きたいか?」という人生の希望として話しておく方が、前向きな話し合いになるのではないでしょうか?
私自身、両親の介護から感じていること
私自身、両親の介護に直面して感じるのは、「介護は、一人だけを見ていれば済む問題ではない」ということです。
父の状態。
母の状態。
施設との連絡。
病院とのやり取り。
仕事との調整。
そして、自分自身の生活。
一つが変化すると、ほかにも影響します。
だからこそ、一人の介護だけを見るのではなく、「家族全体の生活をどう維持するか?」という視点が必要だと感じています。
そして、さらに先には、自分自身の老後があります。
親の介護のために自分たちの老後を壊してしまっては、介護の負担を次の世代に渡してしまう可能性があります。
だからこそ、
親を支えることと、
自分たちの人生を守ること。
この二つを両立させる必要があるのだと思います。
今日からできること――「6人の介護マップ」を作ってみる
ぜひ、紙を1枚用意してみてください。
そして、
① 自分の父
② 自分の母
③ 配偶者の父
④ 配偶者の母
⑤ 自分
⑥ 配偶者
の6人を書きます。
それぞれについて、次の項目を確認してみてください。
・現在の年齢
・健康状態
・現在の住まい
・介護が必要になった場合の希望
・年金や資産を家族が把握しているか?
・誰が最初に対応する可能性が高いか?
・自宅からの距離
・兄弟姉妹など協力できる人がいるか?
全部埋める必要はありません。
「分からない」がたくさんあっても大丈夫です。
むしろ、
どこが分からないのか?
何を家族で話していないのか?
それが見えることに意味があります。
老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる
人生後半のお金を考えるとき、
年金。
退職金。
預貯金。
NISA。
資産運用。
だけを見るのではなく、
親の介護。
配偶者の親の介護。
自分自身の介護。
配偶者の介護。
そして、介護と仕事をどう両立するのか?
ここまでを一つのライフプランとして考えることが必要です。
老後資金を増やす前に、介護で失わない仕組みをつくる。
そのための第一歩は、「介護は親だけの問題ではない」と気づくことなのかもしれません。
次回予告
第4回は、「介護費用は月9万円だけではない――平均数字の正しい見方」をテーマにお伝えします。
「介護には平均でいくらかかるのか?」
多くの方が気になるテーマですが、平均額だけを見て介護資金を考えることには注意が必要です。
在宅と施設の違い、介護期間、見えにくい費用なども含めて、「介護費用の数字をどう読むべきか」を考えていきます。
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老後資金を考えるとき、年金やNISAなどの資産運用だけでなく、
親の介護に伴う支出。
介護による収入減少。
自分自身と配偶者の介護。
ここまで考えることが大切です。
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