想定外の介護|第6回朝は普通だった父が、数時間後には危険な状態になった
「さっきまで大丈夫だった」が通用しない、高齢者介護の想定外
※この記事は、私自身の父の介護経験をもとに、本人の尊厳と個人情報に配慮しながら構成しています。
また、介護施設の対応を批判するものではありません。
施設職員の方々が父の変化に気づき、対応し、その状況を家族に共有してくださったことで、私たちが知ることのできた介護の現実です。
朝食の時は、いつもと大きく変わらなかった
父について施設から教えていただいた話の中で、私が特に驚いたことがあります。
ある日の朝。
父は普段どおり朝食をとっていました。
その時点では、特に目立った症状はなかったそうです。
少なくとも家族がその姿を見ていたら、「今日も大丈夫そうだ。」と思ったのではないでしょうか?
ところが、その数時間後。
午前10時頃に父の呼吸状態が急激に悪化しました。
施設の方からは、間質性肺炎の「急性増悪」が起こり、酸素飽和度が大きく低下し、かなり危険な状態だったと聞きました。
私はその話を聞いた時、思わず、「朝は普通だったのに...?」と思いました。
朝食をとっていた父が、わずか数時間後には危険な状態になっていた。
これもまた、私にとって大きな「想定外の介護」でした。
そもそも「間質性肺炎」とは、どんな病気なのか?
ここで、間質性肺炎について少しだけ触れておきたいと思います。
肺の中には、「肺胞」と呼ばれる小さな袋がたくさんあり、そこで体内に酸素を取り込んでいます。
間質性肺炎では、この肺胞の壁などに炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなる「線維化」が進むことがあります。その結果、肺から酸素を取り込みにくくなり、進行すると息切れや、痰をあまり伴わないせきなどが現れることがあります。
また、「間質性肺疾患」は一つだけの病気を指す言葉ではありません。
原因が分からないものだけでなく、膠原病、薬剤、放射線治療、感染症、アレルギーなど、さまざまな原因や病型があります。
したがって、経過や治療、急変のしやすさも人によって違います。
私自身も、父がこの病気になるまでは「間質性肺炎」という言葉を詳しく知りませんでした。
病名を知った後も、「肺の病気なのだ。」という程度の理解と、「実際の生活の中で、どんなことが起こり得るのか?」という理解には、大きな隔たりがあったように思います。
「急性増悪」とは何なのか?
さらに、今回の父の出来事を理解するうえで重要なのが、「急性増悪」という言葉です。
日本呼吸器学会では、特発性間質性肺炎などの一部では、それまで比較的安定していた状態から、1か月以内という短期間に症状が急激に悪化することがあり、それを「急性増悪」と呼ぶと説明しています。
感染症や心不全などをきっかけに呼吸状態が急に悪化する場合もあります。
つまり、「少しずつ悪くなっていく。」とは限らないのです。
昨日まで比較的落ち着いていた。
朝も食事をしていた。
ところが、その後に呼吸状態が一気に悪化する。
父に実際に起きたのは、まさにそうした変化でした。
酸素飽和度が下がるとは、どういうことなのか?
施設からの連絡には、「酸素飽和度がかなり低下した。」という話もありました。
酸素飽和度、一般に「SpO2」と呼ばれる数値は、血液中のヘモグロビンに、どの程度酸素が結びついているかを皮膚の上から測ったものです。
指先にパルスオキシメーターを挟んで測る数値、と言えばイメージしやすいかもしれません。
もちろん、数値だけで個々の人の状態を単純に判断することはできません。
しかし、普段の状態から大きく低下することは、呼吸状態の変化を知る重要な手がかりになります。
血中の酸素が十分でない状態は、重症になると生命に関わる場合もあります。
私は父について、「酸素の数字が下がった。」という短い説明の裏側に、これほど重大な意味があることを改めて実感しました。
「朝は大丈夫だった」が安心材料にならないことがある
私たちは親の状態を、その瞬間の姿で判断します。
電話をしたら声が元気だった。
面会したら普通に会話ができた。
食事も食べていた。
歩いていた。
笑顔もあった。
そうすると、「まだ大丈夫そうだ。」と安心します。
私自身もそうでした。
でも父の経験を通じて、「今、大丈夫そうに見えること」と「この後も大丈夫であること」は、同じではないと知りました。
朝食を食べられた。
だから今日は大丈夫。
必ずしも、そうとは限らない病気もあるのです。
高齢者の場合、「一つの変化」が大きな変化につながることがある
ここで、もう一つ知っておきたいことがあります。
高齢になると、若い頃と比べて身体の「予備力」が低下していくことがあります。
国立長寿医療研究センターは、加齢に伴って身体の予備能力が低下し、フレイルと呼ばれる脆弱な状態になると、日常生活で起こるさまざまなストレスに対処する力が低下し、生活能力が大きく落ちることがあると説明しています。
すべての高齢者が同じという意味ではありません。
ただ、
若い人なら乗り越えられる体調変化が、高齢者には大きく影響する。
一つの入院をきっかけに歩く力が落ちる。
一つの感染症から急に状態が変わる。
治療によって別の持病への対応が変わる。
そんなことが起こる場合があります。
高齢者は「一つの病気だけ」を抱えているとは限らない
さらに高齢者の場合、複数の慢性疾患を持っていることも珍しくありません。
厚生労働省の高齢者向け資料でも、高齢期には糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、慢性腎臓病、骨粗しょう症などの慢性疾患に加えて、認知機能低下、筋力低下、摂食・嚥下障害などが複雑に関係することが示されています。
父もそうでした。
間質性肺炎だけではありません。
糖尿病という持病もありました。
前回の記事で書いたように、間質性肺炎の治療をきっかけに糖尿病の管理方法が変わり、朝・昼・晩3回のインスリン注射が必要になりました。
間質性肺炎が落ち着いた。
だから元の生活に戻れる。
そうではありませんでした。
一つの病気の治療が、別の持病の管理に影響し、その結果、自宅へ戻ることが難しくなりました。
そして今回は、比較的落ち着いて生活している中で、間質性肺炎そのものが突然悪化しました。
病気の種類によって「想定外の形」も違う
介護の想定外は、すべて同じ形で起きるわけではありません。
呼吸器の病気であれば、父のように呼吸状態が急激に変化することがあります。
糖尿病であれば、薬や注射、食事との関係が毎日の暮らしに深く入り込むことがあります。
筋力や歩行能力が落ちれば、昨日まで行けていたトイレに一人で行けなくなることがあります。
認知機能が低下すれば、薬を飲んだかどうかが分からなくなったり、トイレに行くタイミングを判断しにくくなったりすることもあります。
つまり、「親に何の病気があるのか?」によって、起こり得る想定外も変わってくるのです。
だから私は、「介護」と一言で考えることが難しいのだと思うようになりました。
「病気」と「介護」は別々ではなかった
父母の介護を経験する前の私は、
病気は病院の話。
介護は生活の話。
どこか別々のものとして考えていたように思います。
でも実際には違いました。
父の間質性肺炎。
糖尿病。
インスリン注射。
排せつ。
服薬。
入浴。
歩行。
どれも別々の問題ではありません。
病気が変化すると、生活が変わる。
生活力が落ちると、介護が増える。
治療内容が変わると、家族の支援方法まで変わる。
医療と介護と暮らしは、すべてつながっていました。
第5回では「退院できる」と安心した直後に、想定外が起きた
前回の記事では、父の間質性肺炎が落ち着き、「これで退院して自宅へ帰れる。」と安心した矢先の出来事を書きました。
治療の影響で糖尿病の管理方法が変わり、朝・昼・晩3回のインスリン注射が必要になった。
その結果、自宅へ戻ることが難しくなり、介護付き有料老人ホームへの入居を選ぶことになった。
そして今回。
施設で比較的落ち着いて生活していると思っていた父に、突然の急変が起きました。
私は改めて感じました。
介護の想定外は、一度では終わらない。
一つを乗り越えたから、「これでもう大丈夫。」とは言えないことがあるのです。
もし自宅で一人だったら
父の話を聞いて、どうしても考えてしまったことがあります。
もし、あの日。
父が施設ではなく、自宅にいたら。
朝食を普通に食べている姿を見て、「今日は大丈夫そうだね。」と家族が仕事へ出かけていたら。
そして、その数時間後に急変していたら。
もちろん、これは仮定の話です。
自宅介護が悪いという話でもありません。
施設介護が必ず安全という話でもありません。
ただ、「朝は普通だったから、一人でも大丈夫だろう。」という判断だけでは分からないリスクがある。
私は父の経験から、そのことを強く感じました。
「うちの親も、見えていないだけかもしれない」
この連載で、読者の皆さんを怖がらせたいわけではありません。
不安を煽ることが目的でもありません。
私が伝えたいのは、「そんなことも起こるのか?」という現実です。
高齢者の場合、身体の予備力が低下していることがあります。
複数の持病を抱えていることもあります。
そして病気の種類によっては、ゆっくり悪くなるだけではなく、突然状態が変わることもあります。
昨日元気だった。
朝も普通だった。
だから今日も大丈夫。
必ずしも、そうとは限りません。
だからこそ、
「親は今、どんな病気を持っているのか?」
「その病気では、どんな変化が起こる可能性があるのか?」
「家族はどこまで知っているのか?」
一度考えてみることには意味があると思います。
私が作成した「親が倒れる前の介護準備チェックシート」では、かかりつけ医、服薬、持病・既往歴、急な入院時の連絡先なども確認できるようにしています。
親の持病や既往歴を「おおよそ把握しているか」も、30項目の一つです。
今すぐ何か重大な決断をする必要はありません。
まずは、「自分は、親の病気についてどこまで知っているだろう?」
そんな問いを、自分に向けてみるところからでもよいのではないでしょうか?
介護は、一つの出来事ではありません。
高齢であること。
持病があること。
病気の種類。
治療の変化。
それらが重なり合いながら、家族が想像していなかった介護につながることがあります。
それもまた、私が父の介護から知った「想定外の介護」の現実です。
▼親の介護や介護準備が気になっている方はこちらをご覧ください。

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