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想定外の介護|第4回「トイレに行けない」だけではなかった。

第4回

排せつが一日の暮らしを変えていた

※この記事は、介護施設の対応を批判するものではありません。施設職員の方々が日々の生活を支え、家族が見えていなかった状況を丁寧に共有してくださったことで知ることができた、介護の現実をもとに構成しています。本人の尊厳と個人情報に配慮し、一部の表現を整えています。

「トイレまで連れて行けばよい」と思っていた

母について施設から連絡をいただいた時、私が特に驚いたのは、排せつに関する状況でした。
 

母は、自分からトイレに行くことがほとんどなくなり、職員の方から声をかけ、誘導していただく必要があるとのことでした。

父についても、長い距離を歩くことが難しく、排せつ後には毎回、状態を確認していただいていると聞きました。
 

私はそれまで、排せつ介助について、どこか単純に考えていたのかもしれません。
 

「一人で行けないなら、トイレまで付き添えばよい。」

「間に合わないなら、リハビリパンツやパットを使えばよい。」
 

その程度のイメージしか持っていませんでした。

ところが、実際の排せつ支援は、トイレまで連れて行けば終わるものではありませんでした。
 


トイレに行く前から、支援は始まっている

まず、本人が「トイレに行きたい」と気づけるとは限りません。

尿意や便意があっても、それをうまく言葉にできないことがあります。

トイレの場所が分かっていても、自分から立ち上がり、歩き始める行動につながらないこともあります。
 

家族から見ると、
 

「行きたいなら言ってくれればいいのに」

「トイレはすぐそこなのに」
 

と思ってしまうかもしれません。
 

しかし、認知機能や身体機能が低下すると、
 

排せつしたいという感覚を認識すること。
それを人に伝えること。
トイレへ行こうと判断すること。
立ち上がること。
安全に歩くこと。
 

その一つひとつが難しくなります。
 

つまり排せつ介助は、トイレの中だけで始まるのではありません。

本人の表情や動作を見ながら、適切な時間に声をかけるところから始まっているのです。
 


トイレまで歩けても、安心ではなかった

父母は、まったく歩けないわけではありません。

短い距離であれば、手すりや周囲の支えを使いながら歩けることもあります。
 

その姿だけを見ると、「まだ自分でトイレに行けるのではないか?」と思うかもしれません。
 

しかし、歩けることと、安全に排せつを終えられることは別です。
 

トイレまで間に合うのか?
途中で転倒しないか?
便座の前で方向転換できるか?
安全に腰を下ろせるか?
立ち上がることができるか?
衣類を上げ下げできるか?
 

排せつには、家族が想像する以上に多くの動作が必要です。
 

しかも、急いでいる時ほど転倒の危険は高まります。
 

「トイレまで歩けた」という一場面だけでは、生活全体が自立しているとは言えないのです。
 


排せつが終わった後にも、支援は続く

さらに私が想像できていなかったのは、排せつ後の対応でした。
 

排せつが終わったことを本人が理解できるか?
きれいに拭くことができるか?
汚れが残っていないか?
パットや衣類の交換が必要か?
皮膚に赤みやただれがないか?
 

こうした確認が、その都度必要になります。
 

適切に清潔を保てなければ、皮膚トラブルにつながることがあります。

本人が汚れに気づかないまま過ごしてしまえば、衣類だけでなく、椅子や寝具の交換が必要になることもあります。
 

つまり、一度の排せつが、
 

衣類の交換
身体の清拭
皮膚状態の確認
汚れた衣類や寝具の処理
室内の清掃
 

といった複数の対応につながることがあるのです。
 

「トイレに行けない」という短い言葉の裏側に、これほど多くの支援があるとは、私は十分に理解できていませんでした。
 


夜中にも、同じことが起こる

排せつは、家族や介護者の都合に合わせてくれるものではありません。

朝も、昼も、夜もあります。
 

家族が眠っている時間にも、トイレに行こうとすることがあります。
 

暗い部屋の中で一人で立ち上がり、転倒するかもしれません。

トイレの場所が分からず、別の場所へ行ってしまうかもしれません。

間に合わず、衣類や寝具の交換が必要になることもあります。

在宅介護であれば、そのたびに家族が起きて対応する可能性があります。
 

一度だけなら対応できるかもしれません。
 

しかし、それが毎日、何度も続いたらどうでしょうか。
 

排せつ介助は、本人の日常だけでなく、介護する家族の睡眠や体調、仕事にも影響します。

排せつが一日の暮らしを変えるというのは、本人だけの話ではないのです。
 


ポータブルトイレを置けば解決、でもなかった

自宅での介護を考えた時、居室内にポータブルトイレを置く方法があります。

トイレまでの距離を短くできるため、負担を減らすための大切な福祉用具です。
 

ただ、施設の方から教えていただいたのは、置けばそれだけで解決するわけではないということでした。
 

本人がポータブルトイレをトイレとして認識できるか?
安全に移動し、座ることができるか?
使用方法を覚えられるか?
使用後に衣類を整えられるか?
パットや皮膚の確認を誰が行うか?
排せつ物の処理や清掃を誰が行うか?
 

実際に使用するには、事前の練習や継続的な見守りが必要になる場合があります。
 

福祉用具は、置くだけで介護をなくすものではありません。

本人の状態と支える人の体制があって、初めて機能するのだと知りました。
 


施設だから起きているのではない

ここで、改めてお伝えしたいことがあります。
 

父母に起きている排せつの問題は、施設に入居しているから起きたものではありません。

身体機能や認知機能、病気、年齢による変化によって起きていることです。

自宅で暮らしていたとしても、同じことが起こる可能性があります。
 

施設では、職員の方々が、
 

時間を見ながら声をかける。
トイレまで安全に誘導する。
排せつ後の状態を確認する。
必要に応じて衣類やパットを交換する。
皮膚の異常に気づく。
夜間も見守る。
 

という支援を続けてくださっています。
 

家族が面会している短い時間には、その支援の多くは見えません。

しかし、その見えない支援があるからこそ、父母の一日が成り立っています。
 

施設職員の方から詳しく状況を伝えていただかなければ、私はその現実を知らないままだったと思います。
 


排せつは、本人の尊厳にも深く関わる

排せつの話は、家族でも話しにくいテーマです。
 

親に聞くことをためらう人もいるでしょう。

本人も、できなくなったことを知られたくないと思うかもしれません。
 

失敗したことを恥ずかしいと感じることもあるでしょう。

だからこそ、排せつ介助は単なる作業ではありません。
 

本人の恥ずかしさや自尊心に配慮しながら、必要な支援を行うことが求められます。

家族であれば簡単にできる、とも限りません。
 

親子だからこそ、本人が強く拒否することもあります。

介護する側も、戸惑いや抵抗感を持つことがあります。
 

「親の排せつ介助まで、自分にできるだろうか?」

そう感じても、それは決して冷たいことではありません。
 

排せつ介助は、身体的にも心理的にも負担の大きい支援だからです。
 


「うちの親はまだ大丈夫」と思っていても

親が一人でトイレに行っているように見える。

電話では、特に困っている様子がない。

面会では、椅子に座って普通に話している。
 

その姿だけを見ると、
 

「まだ介護は必要ない。」

「排せつは自分でできている。」
 

と思うかもしれません。
 

しかし、本当に一人で安全にできているのでしょうか?

トイレまで間に合っているのか?
衣類の汚れは増えていないか?
夜中に転倒していないか?
パットや下着を適切に交換できているか?
皮膚に赤みやただれがないか?
 

家族が見えていないだけで、本人が困っている可能性があります。
 

介護は、ある日突然「トイレに行けなくなる」だけではありません。
 

少しずつ間に合わなくなる。
歩くことが難しくなる。
声かけが必要になる。
確認や交換が増えていく。
 

その小さな変化が積み重なり、いつの間にか一日の暮らし全体を変えていきます。
 


想定外の介護は、日常の中に現れる

介護の想定外というと、救急搬送や入院のような大きな出来事を思い浮かべるかもしれません。
 

しかし実際には、もっと日常的な場面にも現れます。
 

トイレまで一人で行けない。
声をかけなければ排せつにつながらない。
衣類や寝具の交換が必要になる。
皮膚状態を毎回確認しなければならない。
夜間にも見守りが必要になる。
 

一つひとつは小さな出来事に見えるかもしれません。
 

でも、それが一日に何度も、毎日続く。

そこに介護の現実があります。
 

施設に入居していても、在宅で暮らしていても、親の身体や認知機能が変化すれば、同じ問題が起こる可能性があります。
 

私は父母の状況を知り、「トイレに行けない」という言葉だけでは、介護の現実をまったく理解できていなかった。

と感じました。
 

読者の皆さんにも、まずは知っていただきたいと思います。
 

排せつは、トイレの中だけの問題ではありません。

本人の移動、判断、清潔、皮膚状態、睡眠、そして家族の暮らしにまで影響するものです。
 

介護は一つの出来事ではなく、こうした想定外が、日常の中で次々と起こるものなのです。
 


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2026年07月25日 16:32

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