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想定外の介護|第3回母だけではなかった。父にも、家族が見えていなかった変化が起きていた

第3回

母だけではなかった。父にも、家族が見えていなかった変化が起きていた

排せつ、インスリン、服薬、入浴、そして突然の急変―施設でも在宅でも起こりうる介護の現実

※この記事は、介護施設の対応を批判するものではありません。日々、父母の生活を支えてくださっている施設職員の方から丁寧に状況を共有いただいたことで、家族が初めて知ることのできた介護の現実をもとに書いています。本人の尊厳と個人情報に配慮し、一部の表現を整えています。

母の状態に驚いていた私に、もう一つの連絡が届いた

前回の記事では、特養に入居している母について書きました。
 

面会時の母は、表面的には元気そうに見えました。

表情は穏やかで、こちらの問いかけにも反応してくれました。
 

私は正直なところ、「思っていたより元気そうだ」「施設で落ち着いて過ごせているのかもしれない」と、少し安心していました。
 

ところが、施設の方から日常生活の状況を詳しく教えていただき、母の生活力の低下が、私の想像以上に進んでいたことを知りました。
 

自分からトイレに行くことが難しくなっている
声かけや誘導が必要になっている
歩ける距離も短くなっている

面会で見えていた姿と、日々の生活の現実は違っていました。
 

私は、母の状態について考えていました。

ところが、その後、父についても新たな情報が入りました。
 

私は、再び言葉を失いました。

母だけではなかったのです。

父にもまた、私たち家族が見えていなかった変化が起きていました。

父は「まだ大丈夫」ではなかった

父にも、排せつに関する支援が必要になっていました。

長い距離を歩くことは難しくなり、排せつ後には毎回の確認が必要になっているとのことでした。
 

きちんと確認や清潔保持を行わなければ、皮膚が赤くなったり、ただれたりする可能性があります。


排せつの支援というと、私はどこかで、「トイレまで連れて行けばよい」「パットを交換すればよい」

という程度に考えていたのかもしれません。
 

しかし、現実はそれほど単純ではありません。
 

トイレまで安全に移動できるか?
排せつが終わったことを理解できるか?
衣類を整えられるか?
汚れが残っていないか?
皮膚に異常がないか?
 

一度対応すれば終わりではなく、その都度、確認する必要があるのですね。
 

仮に家族が在宅で介護するとすれば、こうした対応が、朝も昼も夜も生活の中に入ってくる可能性があります。

毎日11時30分に必要なインスリン注射

さらに父には、糖尿病の持病があるため、毎日11時30分にインスリン注射が必要です。

しかも、父自身では注射を行うことができません。
 

介護というと、食事や歩行、排せつ、入浴など、日常生活の手伝いを思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、実際には、医療に関わる対応が日常生活の中に組み込まれることがあります。
 

しかも、インスリンは、「今日は忙しいから後で」「家族が帰宅してから」「時間のある時に」というわけにはいきません。

決められた時刻が来れば、時間通りに対応しなければなりません。
 

施設では、職員の方々が時間を確認しながら対応してくださっています。
 

もし在宅で介護していたら。

誰が11時30分に対応するのか?
仕事をしている家族はどうするのか?
一人になる時間帯はどうするのか?
 

その現実を、私は正直十分に認識ができておらず任せっきりになっていました。

薬は、置いておけば飲めるものではなかった

父の内服薬には、食事の前に飲む薬と、食事の後に飲む薬がありました。

これも毎回の確認が必要だと教えていただきました。
 

薬を用意しておけば、自分で飲んでくれる。

家族は、そう考えてしまうことがあります。
 

しかし実際には、
 

飲んだかどうかを忘れる。
食前と食後の薬を間違える。
薬が目の前にあっても、飲む行動につながらない。
飲んだつもりになっている。
 

そうしたことが起こり得ます。

会話ができることと、薬を正しく管理できることは同じではありません。
 

「自分でできる」と本人が話していても、実際には誰かの確認が必要になっていることがあります。

ここにも、家族には見えにくい介護の現実であり、しっかりと認識する必要性をあらためて感じました。

入浴は、浴室へ連れて行けば終わりではない

父は、声のかけ方や対応の仕方によっては、入浴を拒否することがあるそうです。
 

「面倒だから今日は入らない。」
 

本人にそう言われた場合、強く勧めれば反発するかもしれません。

そのまま受け入れれば、入浴できない日が続くかもしれません。
 

どのタイミングで声をかけるのか?
どんな言葉を使うのか?
誰が声をかけるのか?
本人の気分や体調はどうか?
 

施設職員の方は、父の様子を見ながら、入浴につながるよう工夫してくださっていました。

家族から見れば、「お風呂に入ってもらう」という一つの出来事です。
 

しかし、その一つの出来事の前には、本人の気持ちを読み、拒否を強めないように働きかける、細やかな対応が必要になります。

在宅介護でも、同じことは起こり得ます。
 

家族だから素直に応じてくれるとは限りません。

むしろ家族だからこそ、強く反発されることもあるのだと思います。

朝は普通だった父が、数時間後には危険な状態に

私が最も驚いたのは、父の急変の予兆があったことでした。
 

ある日の朝食時、父には特に目立った症状がなかったそうです。
 

ところが、その日の10時頃、間質性肺炎の急性増悪が起こったとのことでした。

酸素飽和度が大きく下がり、一時的に危険な状態になったと教えていただきました。
 

朝食を食べていた時には、普段と大きく変わらなかった。

それなのに、わずか数時間後には、最悪の場合命に関わりかねない状態になっていたのです。
 

私は介護について、それなりに理解しているつもりでした。

父が間質性肺炎であることも知っていました。
 

それでも、

「朝はいつもどおりだったのに、数時間後には危険な状態になる。」

という現実を、最近は具体的には想像できていませんでした。
 

介護では、「さっきまで大丈夫だった。」が通用しないことがあります。
 

昨日できていたことが、今日はできない。
朝は落ち着いていたのに、昼には急変する。
一つの問題が落ち着いたと思ったら、別の問題が出てくる。
 

介護は、一つの出来事ではなく、想定外が次々と起こるものなのだと、改めて感じました。

施設にいるから起きたことではない

ここで誤解していただきたくないのは、これらの出来事が、施設に入居しているから起きたわけではないということです。
 

排せつの問題
インスリン注射
食前・食後の服薬確認
入浴拒否
突然の体調悪化
 

これらは、父の病気や身体機能、認知機能、生活力の変化によって起きていることです。
 

自宅で暮らしていたとしても、同じことが起こる可能性があります。

施設では、その一つひとつを職員の方々が見守り、対応してくださっています。
 

決まった時間にインスリンを行う。
薬が正しく飲めているか確認する。
排せつ後の状態を見る。
皮膚の変化に気づく。
入浴を拒否した時に、言葉やタイミングを変えて働きかける。
急変時に酸素の状態を確認し、必要な対応を取る。
 

施設の方から教えていただかなければ、私は父が日常生活の中でどれほど多くの支援を受けているのかを知りませんでした。
 

施設に入っているから大丈夫なのではありません。

施設の方々が日々対応してくださっているから、父母の生活が成り立っているのです。

面会だけでは分からない、二人の生活

面会では、父も母も、比較的落ち着いて見えることがあります。
 

会話ができる。
椅子に座っている。
こちらを見て反応してくれる。
 

そうした姿を見ると、家族は安心します。

でも、面会の時間は、父母の一日のごく一部です。
 

面会が終わった後には、
 

排せつがある
薬を飲む時間がある
インスリンの時間がある
入浴への声かけがある
夜間の見守りがある
突然の体調変化があるかもしれない
 

家族が見ていない時間の中に、介護の現実があります。
 

母の状態に驚いた後、父についても詳しい状況を知り、私はこう思いました。

「見えていなかったのは、母だけではなかった。」

父も母も、それぞれ違う形で、私が想像していた以上の支援を必要としていました。

「うちの親は大丈夫」は、何を見て判断しているのか?

親と電話で話した。
声は元気だった。

面会に行った。
受け答えもできた。

一人で歩いていた。
食事も食べていた。
 

そうした姿から、「まだ大丈夫」「介護はもう少し先」「そこまで状態は悪くない」と判断してしまうことがあります。
 

しかし、本当に見なければならないのは、表面的な受け答えだけではありません。
 

トイレに自分から行けているのか?
薬を正しく飲めているのか?
食事の前後を理解できているのか?
入浴や着替えができているのか?
一人の時間に急変したら対応できるのか?
 

家族が知らないだけで、すでに支援が必要な状態になっていることがあります。
 

読者の皆さんの親御さんにも、まだ見えていない変化があるかもしれません。

介護は、想定外が一度起きて終わるものではない

母の生活力の低下を知った時、私は驚きました。
 

しかし、それで終わりではありませんでした。
 

父にもまた、排せつ、インスリン、服薬、入浴、急変という、別の想定外が起きていました。
 

介護は、一つの大きな出来事が起きて、それを解決すれば終わるものではありません。

一つの問題に対応している間に、別の問題が現れる。
 

親の身体機能が変わる
認知機能が変わる
必要な医療が増える
家族が判断を求められる

 

しかも、父と母が同時に、それぞれ違う課題を抱えることもあります。

これこそが、私がこの連載で伝えたい「想定外の介護」の現実です。
 

不安をあおりたいわけではありません。
 

ただ、
 

そんなことも起こるのか?
施設にいても、これほど多くの対応が必要なのか?
在宅であれば、それらのことを家族が担う可能性もあるのか?
うちの親も、見えていないだけかもしれない?
 

と、一度立ち止まって考えていただきたいのです。
 

親の介護準備は、何か重大な決断をするところから始まるとは限りません。
 

まずは、今の親の生活を、家族がどこまで知っているのか?

そこに気づくことが、最初の一歩なのだと思います。
 

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2026年07月13日 19:01

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