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『お別れホスピタル』第9話|認知症になっても、人は「誰かを好きになる自分」を失わない

①

こんにちは。
『お別れホスピタル』を読みながら感じたことを綴る連載、第9話です。
 

今回は、カルテ9「岸英次郎さん」の回を読んで、強く心に残ったことを書いてみたいと思います。
 

岸さんは、82歳で水腎症と認知症を抱えた元漁師の男性です。

不穏になると大きな力で暴れてしまうこともある一方で、新しく入ったヘルパーの東さんに恋をする。
※不穏とは
介護現場・終末期医療での「不穏」とは、『患者・利用者が不安や興奮で落ち着きを失い、行動や感情が乱れる状態 』を指します。


このエピソードは、重いテーマを含みながらも、どこか可笑しみと温かさがあり、とても『お別れホスピタル』らしい回だと感じました。
 

この回を読んでまず考えさせられたのは、認知症の方の「困った行動」の奥にも、その人が生きてきた人生や感情があるということでした。
 

暴れる。
怒る。
言うことを聞かない。

病院や介護の現場では、そうした姿が「大変な患者さん」として見られてしまうことがあります。

もちろん、支える側からすれば、現実に危険もあり、身体的にも精神的にも大きな負担があります。

現場の大変さは、決して軽く語れるものではありません。

けれど、それでもなお、この回は私たちに問いかけてきます。

その行動を、ただ「問題行動」として見るだけでいいのだろうか、と。

岸さんにも若い頃がありました。

仕事がありました。
誇りがありました。
人生がありました。

元漁師として、身体を使って生きてきた人です。

海に出て、自分の身体で働き、自然と向き合いながら生きてきた人にとって、病院の中で動きを制限されることは、本人が感じる以上に大きな苦しさだったのかもしれません。

動きたいのに動けない。
自分の思うようにできない。
周りから止められる。

それは、単なる不自由さではなく、その人の誇りや生き方そのものが否定されるような感覚につながることもあるのではないでしょうか。

認知症になると、その人らしさが失われたように見えることがあります。

でも、本当にそうなのだろうか。

私はこの岸さんの回を読んで、そんなふうに思いました。

岸さんの中には、

「漁に出る自分」
「男としての自分」
「誰かを好きになる自分」

が、まだ確かに残っていたのだと感じます。

東さんに恋をする岸さんの姿から、私は、人はいくつになっても、病気になっても、誰かを好きになる気持ちによって、生きる力を取り戻すことがあるのだと思いました。

「恋」や「ときめき」は、若い人だけのものではありません。

人生の最期を生きる人にとっても、今日を生きる理由になり得る。

会いたい。
うれしい。
照れくさい。
もっと話したい。

そうした気持ちは、その人の人間らしさそのものなのだと思います。

認知症になっても、感情は残る。

恥ずかしい。
うれしい。
好きだ。
会いたい。
そうした気持ちは消えない。

むしろ、言葉や理性のコントロールが難しくなったからこそ、よりまっすぐ表に出てくることもあるのかもしれません。

だからこそ、この回は、介護や医療の現場でよく語られる「問題行動」という言葉を、もう一度考え直すきっかけになるのだと思います。

もちろん、介護する側にとって大変で危険な場面もあります。

現場の安全を守ることは絶対に必要です。

そのことを無視して、「その人らしさが大事だから」で済ませることはできません。

けれど同時に、その行動をただ否定するのではなく、

本人は何を求めているのか。
何が苦しいのか。
何に反応しているのか。

を見ようとする視点が大切なのだと思います。

この回で印象的だったのは、辺見歩が岸さんの恋心に気づき、それを少しでもケアにつなげようとしていたことです。

そこには、単なる観察力だけではない、人間への温かい興味がありました。

この人は今、何を感じているのだろう。
何をうれしいと思っているのだろう。
何に心が動いているのだろう。

そうした目で相手を見ることは、看護や介護においてとても大切なことなのだと思います。

医療や介護の現場は忙しく、余裕のないことも多いでしょう。

安全管理も必要です。
記録も必要です。
家族対応もあります。

その中で、「その人の人生」や「まだ残っている感情」にまで目を向けることは、簡単なことではありません。

それでも、『お別れホスピタル』は教えてくれます。

人を症状だけで見ないこと。
その人を一人の人間として見ようとすること。
そこに、看護や介護の本当の温かさがあるのだと。

岸さんの回には、重いテーマの中にも、少し笑えて、少し温かい場面があります。

その空気に、私はとても救われました。

認知症という重たいテーマの中にも、人間の愛おしさはちゃんと残っている。

そこが『お別れホスピタル』の魅力でもあるように思います。

一方で、この回は、介護・医療現場の人たちがどれほど身体的にも精神的にも大変な状況で働いているのかも伝えてくれます。

「その人らしさ」を尊重したい。
でも現場の安全も守らなければならない。
その両立は簡単ではありません。
理想だけでは現場は回らない。

けれど、現実だけで人を切り取ってしまうと、その人の尊厳が見えなくなる。

その難しさも、この回の大切なテーマだと思いました。
 

私は岸さんの姿から、人生の最期に本当に必要なのは、特別なことではなく、「自分を一人の人間として見てくれる誰か」なのかもしれないと感じました。
 

病気があっても。
認知症があっても。
思うように話せなくても。
落ち着かない行動があっても。

それでも、「この人はどんな人生を生きてきた人なのだろう」と見てくれる誰かがいること。

「この人は今、何を感じているのだろう」と想像してくれる誰かがいること。

それは、本人にとってとても大きな支えなのだと思います。

みなさんは、認知症の方の行動を見た時、その奥にある感情や人生まで想像したことがあるでしょうか。

また、自分自身がいつか弱った時、「症状」ではなく「一人の人間」として見てもらいたいと思わないでしょうか。

『お別れホスピタル』は、認知症の方を「症状」だけで見るのではなく、
「その人の人生」や「まだ残っている感情」に目を向けることの大切さ
を、私たちに静かに教えてくれる作品なのだと思います。
 

読書会でも、

「問題行動の奥にあるものは何か」
「人を一人の人間として見るとはどういうことか」
「人生の最期に必要な関わりとは何か」

といったことを、安心して語り合えたらと思っています。

この記事を読んで頂き、読書会にもご興味を持って頂けると嬉しいです。
 

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