「いざとなれば実家を売る」は通用しない。認知症が引き起こす、実家の「塩漬け」と「負動産」化の恐怖
「介護・終活 相談コミュニティ」代表の山岸博幸です。
55歳からの「親と私の未来」防衛戦略、連載第12回目となります。
親の介護費用が本格的にかかり始めた時、多くの人がこう考えます。
「親の銀行口座が凍結されても、いざとなれば誰も住まなくなった『実家』を売却して、老人ホームの入居費に充てればいい」
しかし、この考えは非常に危険な落とし穴です。
親が認知症などで「意思能力(判断能力)」を失った瞬間に凍結されるのは、銀行口座だけではありません。
もっと恐ろしいのは、親名義の「不動産(実家)」が一切動かせなくなる可能性が非常に高いということなのです。
① 認知症になると「不動産の売買契約」が結べない
家を売却するためには、所有者本人が「この家を売ります」という意思を示し、売買契約書に署名・捺印する必要があります。
不動産という高額な取引においては、司法書士などの専門家が必ず本人の意思確認を厳格に行います。
もしその時、親が認知症を発症していて、
「ここは誰の家ですか?」
「売るという意味がわかりますか?」
という質問に正しく答えられなかったら...。
その不動産は、絶対に売却できません。
親の代わりに子供が勝手に契約書にハンコを押すことは、法律上許されないのです。
売却だけでなく、「人に貸す(賃貸契約)」「家を担保にお金を借りる」「古くなった家を解体する」ことすらできなくなります。
② 誰も住まない実家が「金食い虫」に変わる
売ることも貸すこともできず、親は施設に入ってしまった。
残された実家は「空き家」として塩漬けになりますが、維持費は容赦なくかかり続けます。
毎年の固定資産税
火災保険料や水道光熱費の基本料金
庭の草むしりや、建物の修繕費(台風被害など)
これらは誰が払うのでしょうか?
親の口座が凍結されていれば、当然、子供であるあなたが立て替えるしかありません。
私自身、個人事業主として日々のキャッシュフローの重要性を痛感していますが、売上(収入)を生まない空き家に、自分の事業資金や老後資金を吸い取られ続けるのは、まさに経済的な「危機」を意味します。
③ 「成年後見制度」の冷酷な現実
「家が売れないなら、成年後見制度を使えばいいのでは?」と思うかもしれません。
確かに、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」をつけてもらえれば、本人に代わって契約ができるようになります。
しかし、ここにも大きな罠があります。
成年後見制度の目的は、あくまで「本人の財産を守ること」です。
「親の家を売って現金化する」という行為は、親の居住環境を奪うことになりかねないため、家庭裁判所は非常に慎重になり、簡単には売却許可を下ろしません。
「どうしても施設代を払う現金がない」という切羽詰まった状況でなければ、許可されないケースが多いのです。
さらに、後見人(弁護士など)には、親が亡くなるまで毎月数万円の報酬を払い続けなければなりません。
実家を「負動産」にしないためのタイムリミット
「介護費用は実家を売って捻出する」という計画は、親の頭がしっかりしている「元気な今」でなければ実行に移せません。
手遅れになる前に、55歳〜65歳の私たちが取るべきアクションは以下の通りです。
「家族信託(かぞくしんたく)」の検討
親が元気なうちに、実家の「管理・処分の権限」を信頼できる子供に託す契約を結んでおく。
これなら、親が認知症になった後でも、子供の判断で実家を売却し、そのお金を親の介護費に充てることができます。
実家の名義と権利書の確認
「親の家だと思っていたら、実は亡くなった祖父のままだった」ということも少なくありません。名義変更(相続登記)が済んでいるか、権利書はどこにあるかを確認しましょう。
親に「家の権利やお金」の話をするのは、とても勇気がいります。
しかし、ここを曖昧にしたまま認知症を迎えると、あなたの大切な老後資金が「空き家の維持費」と「介護費用」のダブルパンチで消滅します。
私たちのオンラインサロン『介護・終活 相談コミュニティ』では、気まずくならずに実家の話をするコツや、家族信託の具体的な事例について共有しています。
次回は、親を見送った後に待っている、もう一つの現実。『お葬式とお墓のリアルな費用と準備』についてお話しします。
実家が「負動産」になる前に
親の財産を、親の介護のために正しく使う準備をしましょう。
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